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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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十四話(あ)

昨夜は夜通し聞こえる雄叫び声に怯える子供達に、必ず正しいお方が勝ちますと言って勇気付けた

朝食が終わると、ありったけの包丁を集め、それを木の棒の先に括り付け、日頃熱心に私の説教を聞く子供を選んで持たせた

万が一、億が一、不心得な男達が壁を超えた時のための備えだ


私は子供達に見知らぬ者も見知った者も押し入るようならばためらわず刺せと言いつけ、そっと救済院を抜け出した

壁を抜ける事は造作もない

抜け道などいくらでもあるのだ


私は何時も懐に入れている、あの日白のお屋敷の方に託された金貨を服の上から握りしめた

正しいお方が勝つのだ、正しいお方が勝つのだと唱え握りしめた

自分達に都合のいい方だろう?と心の中で声がしたがそれの何が悪い

親に救済院に入れちまうよ!と言われ、それを聞いた子供が泣きだすような所に戻りたくないと願う事の何が悪い

たとえそれが、御聖堂がこの世の呪いと説く魔法の力を借りたものだとしても

夢に見るパンより食卓に並ぶパンなのだ


正しいお方が勝つのだ

正しいお方が勝つのだ

勝つから正しいのだ

勝てば正しいのだ



私は身を隠し草原に忍び寄る

途中、首をあらぬ方に捻られた男の死体に出くわす

装束からしてレーレンの兵だろう


そのまま見つからぬように平原に近づく

レーレンの兵達が見える所まで来たところで、大勢の男達が居並ぶ中を一人の騎士が駆け抜け、その後を馬に乗った騎士達が追って行くのを見た

走る騎士が丘に近づくと、それを追う騎士達に突然光の矢が浴びせられ騎士達は馬ごと細切れになり消し飛ぶ


騎士は丘を登り這い蹲る

何か言っているようだがここからでは聞こえない

あの丘に白のお屋敷の軍勢が陣取っているのだろう


そのまましばらく息を潜めレーレンの軍勢が先程の光の矢で皆殺しになるのを待っていると、突然男達が奇妙な事を言い始める


死んでいる!

みんな死んでいる!


男達の声は悲鳴へと変わり

一人の男が逃げ出したのを皮切りにボロボロと崩れるようにそれに続く


最早隠れる必要も無いだろうと立ち上がると

草原は一面の眠るように倒れる男達で埋まっていた


血も傷の跡もない

私はその光景を日がかたむくまで眺めていた

何かが崩れる音が響いても

何かが破裂する音が聞こえても

新領主の軍勢が落人狩りに打って出ても

森の方から悲鳴が聞こえても

只々眺めていた


そして私は泣いていた

神々しく美しい光景に泣いていた

戦を戦いもしないうちに終わらせ

それも神世の様に血の一滴も流さず


夕陽に照らされる中、骨で出来た馬が倒れた男達の中を歩く

骨の馬が歩くと屍の肉はたちまち腐り骨は馬に吸い込まれ後には何も残らない

ああ、またこの光景を目にできた

人を静かに生まれる前のところに帰す聖獣

私は日が暮れるまでその光景を眺め街に戻る


街の中は昨夜と一転して何処か浮かれていた

通り過ぎる人々は皆大勝利だと口々に叫び、店々はそんなに何処に抱え込んでいたのかと叱りつけたくなるほどの売り物を並べ、落人狩りで手柄を立てた騎士達が女を両脇に酒場に消え、牢には身代金目当てに生け捕りにされた身なりのいい騎士達が引っ立てられていた


もちろんレーレン残党がヤケクソになり襲ってくる事もあり得るのだが

門を守る騎士達も緩みきった表情で手柄を立て損ねたと笑っている


きっと近いうちに寄合が開かれ今日の事について話し合われるだろう

そこで私が見たものをありのままに話すのだ

もしかしたら死体を次々と丸呑みにする大蜥蜴の事は話忘れるかもしれない

お屋敷の方に頂いた袋の中身のことなど言うわけもない

一つの傷も無い大きな板状の青い宝石

あれがあれば私が御聖堂を開けるのだ

この街の御聖堂にある粒の様な宝石などではないのだ


腐った芋のスープとふすまで出来たパンの生活など二度と御免だ

もう見上げるのは終わりだ

救済院こそが誠の御聖堂に

御正堂に成るのだ


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