十二話
食事も終わり
談話室でレジナルドを楽しんでいた
余り遅くまで音楽を聴いていては怒られる思いながらも、もう少しだけと自分を甘やかす
エルフ達は食堂で終わらぬ酒宴の最中
毎晩の事だか、よく飽きないものだ
そろそろシジュウ様に怒られるかなと思っていると、湯上がりの冷水を飲みに来た生乾きのワンワンに早く風呂に入ってしまえと怒られた
では詰まった抜毛を掃除がてら湯を浴びてきますと言って立ち上がると、頭をコッンとに小突かれ
シジュウ様に言いつけますよと睨みつけながら談話室を後にする
ワンワンは早く行けとばかりに手を振っていた
着替えを持ち浴室に向かう
湯から上がったら氷菓を食べようかなどと考えてしまう
ワンワンはあの後直ぐに関に向かい
程なく戻ってきた
どうでしたかと聞くと
余り歓迎はされなかったがどうにかなったと言っていた
一悶着あった様だが解決したのだろう
風呂から上がり食堂へ向かうとそこには宴会の後片付けをするリヨだけが残っていた
コレだろう?と言ってリヨは炊事場から氷菓を出してくれ
礼を言い氷菓を楽しみながら残りの三人は?と聞くと、リヨは誰かが来た様だから勝手口へ三人して行ったよ、きっと酒盛りの邪魔をされた文句でも言うのだろうと笑う
氷菓を食べ終わる頃、シジュウ様とワンワンが連れ立ち勝手口へと向かう所に出会す
私がお仕置きでもされるのですかとふざけると、ワンワンはそれがよくわからんのだと首を捻り
シジュウ様は些細な事で呼び出されたと面倒臭そうにされていた
何だろうと思い、私もご一緒しますと後に続くと、ワンワンが湯冷めするぞと上着をかけてくれた
勝手口では大店の店主と呼ぶべきか
街の領主と呼ぶべきか
とにかくいつもの様に彼が待っていて
領主はシジュウ様を見るなり大変なことになりましたとすがりつこうとしてワンワンに止められ、ワンワンの姿を見て腰を抜かしてしまった
私達は領主が落ち着くのを待ち、領主の話を聞く
シジュウ様はエルフ達から一度聞いていた様だが、領主は改めてシジュウ様に話す
街道に建てられた関が御屋敷の使者を名乗る男に足留めを受ける多くの人の前で焼き討ちされ、そこに詰めていた関守の多くを打ち倒してしまったらしいと
シジュウ様は道が開いたのならそれで良いではないかと仰るが
領主はきっと今度は大軍で街道を塞ぐに違いありませんと頭を抱えた
私はワンワンに話し合って来たのでしょう?と声をかける
ワンワンは押し問答になり埒があかないのでとりあえず道を通れる様にしただけだぞと、何がいかんのだと言わんばかりだった
ワンワンは、なにまた次も何とでもしてやると言い、私の手を引き風邪でもひいてはいかんからもう戻るぞと言って屋敷へ戻り
シジュウ様もそんな事は明日でもよかろうと言って頭を抱える領主を追い返してしまった
御居館に戻り、茶で暖まりながら白湯を舐めるワンワンの話を聞く
ワンワンは関に向かうと道を塞ぐ関守に、屋敷の者だが迷惑だから道を塞ぐのをやめろと何度か声をかけたのだが、酷い言葉を返されるばかりでまるで話し合いにならず
しまいには矢を射かけられ、あたりに臥せっていた関守達に取り囲まれるに至ってもまだ話合いを試みたがこれが返事だとばかりに矢を打ち込まれ
仕方なく関を崩し二度と使えぬ様に火をかけたそうだ
崩しも火をかけもしたがそれ以外は自分は指も動かしてはいない
ワンワンはなにがいかんのだと首をひねっていた
シジュウ様も私も分からぬと言い
私は話合いにならなかったのだから仕方ないとワンワンを慰めた
明くる朝、シャンが怒鳴り込んできた
何を考えているんだ、と
経緯を話すがまるで聞く耳を持ってはくれず、それどころかますますシャンの声は大きくなる
シャンの癇癪にほとほと困っていると、更に領主が現れ、こちらは私にすがりどうかお力添えをと泣崩れる
もう泣きたいのはこっちなのに
領主が話すには、つい先程前領主から使者があり、要約すると昨日の件、覚悟しておけとの事だ
領主が言うには既に街道は兵で閉ざされ、それはまるで戦さの如くだそうで
嘆く領主と頭から湯気を立てるシャンを勝手口で待たせ、私はシジュウ様のもとへと向かう
私の話を聞くシジュウ様は辟易とされた御様子
シジュウ様は勝手口へ向かうと領主に向かい
「今回は我が子の不始末で有るから後始末はつける」
それとお前は大声を上げるなとシャンを諭し二人を追い出した
朝食を済ませるとシジュウ様は、ワンワンを連れ街道へ向かう
私はそれが何だかとても羨ましく
私もお伴しますと申し出、お前にも迷惑をかけるなとワンワンが笑った
街道には何時ぞやのやくざ者達とは比べものにならぬ、鎧を着込み槍を構えた一団が待ち構えていた
フードをめくり素顔を晒したワンワンが、まず話を聞いてくれと声をかけるが男達はあろう事か槍を構えにじり寄る
その様を見てシジュウ様は呆れましたと呟くと、この道を買い取るから街のものに自由に使わせろとお話しされた
男達は返事だとばかりに盾を構え槍を突き出す
その後ろでは弓を引くものが見えた
「ご覧の通りなのです」
ワンワンは昨日よりも酷いとため息を吐き
シジュウ様は所詮蛮族かと嘆かれた
その時、ワンワンめがけ矢が次々と放たれる
ワンワンはそれを全て受け止めると、話を聞いてくれんかとそれを男達に放って返し、男達に声をかけた
返事は槍を構えた男達の前進
シジュウ様はワンワンに向かい首を振って見せ、ワンワンは悲しい事ですとシジュウ様に返す
そこからは目を疑う事の連続だった
ワンワンは槍と盾を構えた男達に向かい無防備に近付く
男達は一糸乱れぬ動きでワンワンに向かい駆け出し槍を突き立てた
ワンワンに槍が触れた瞬間、男達は一瞬で燃え上がり、叫びも上げぬまま灰となり
それを見て目を剥く後列の男達はその姿のまま凍り、砕け
弓を構え呆然とする男達は突然破裂しこの世から消えて無くなった
「そこの男」
シジュウ様が声を上げる
「お前の主人に伝えろ、話し合わぬのなら次はお前が横たわると」
シジュウ様の声が街道に響き
どこからか人の走り去る音が聞こえた
レーレン家当主と前当主は怒りに打ち震えていた
六男のレルを討たれ
街を奪われ
こちらから仕掛けたとは言え関を破られ
その上送り込んだ騎士達を皆殺しにされたのだ
前当主であるレーレン=レーは思う
六人の息子のうち二人は病で天に召された
それは悲しい事だが受け入れることができた
それにくらべればどこかの田舎町を魔法使いの靴を舐めた下衆にくれてやるなど気にもならない
それが息子の命を奪った褒美などでなければ
長男の話では王は森の魔法使いの娘に媚びへつらっていたそうだ
それはそうだろう
魔法使いの気まぐれで王家などと名乗れただけの連中、その末裔なのだから
だが私は違う、ハンディ家が魔法使いの靴を舐めている間
荒野を開き井戸を掘り、街や田畑を広げたレーレン家の男だ
まずレーダの街に住み着いた魔法使いの娘を討つ
そしてハンディ家が魔法使いの犬であることを諸国に触れて回りこれを糾合し王家を討つ
魔法使いなどは森の奥に居ればいいのだ
ここは我々人間の土地だ
火炎砲でレーダを焼き払いストーンゴーレムで踏みにじってくれる
そうだ、そこにレルの墓を建てよう
それにこちらにも切札はある
「頼みますぞ、姫騎士殿」
姫騎士はにこやかに微笑み頷く
姫騎士は言った
私に任せて欲しいと
あれからまた二日とせずに領主が訪れ寄合に来ていただきたいと真顔で申し出る
それを受けたシジュウ様はやはりそうなったかと呟かれ、驚く事に寄合へと足を運ばれると仰った
シジュウ様はワンワンと私を伴い寄合所へ向かう
そこには幾人かの見慣れた顔と大勢の見知らぬ顔が並び
私達の入室を受け一斉に傅く
「高貴なお方にこの様な場にお越し頂き大変恐縮に御座います」
領主は私にそう言って椅子を進め
シジュウ様とワンワンが頷くのでそこに腰掛けた
「御屋敷のお方にお越し頂きましたのは他では御座いません、先日の件でございまして、遂にレーレンが戦支度を始めました、レーレン家ともなればその陣容は三千の騎士とその従僕、それを合わせれば1万を超え、それがレーダを目指すとの事なのです」
領主は真顔で、シジュウ様はそれを聞き頷く
「心得た、コレは私の不手際でもある」
おふくろ様とワンワンが驚いた様に声を上げ
寄合の皆がそれを見て目を剥く
「そうせいと言ったのは私です、お前はそれに従ったまでの事」
ワンワンはそれを聞き己の力のなさが情けないとうつむく
「それでお前達は何処までを望む」
シジュウ様は寄合の衆へ向かい声をかけそれにいち早く声を上げる者が有った
「なにを恐れます!門を閉じ槍を持ち一人一殺で臨むまでではありませんか!」
救済院の尼様はそう叫び
隣に座るシャンのおじさんは慌てて尼様の口を塞ごうと狼狽えていた
余程驚いた顔だったのだろう
領主は私と若い尼様の間に立つと、尊いお方御前であると若い尼様を叱る
「皆様が言えぬから私が申し上げました」
尼様はこの意気地なしと言わんばかりの口振で、フウのおばさんはそれをみて顔をしかめていた
「私はこの目で見たのです。あの夜、せめて少しでもお力になろうと懐に短剣を忍ばせ、お屋敷に向かいました、そこで私が見たものは皆様に何度もお話した通り、筋骨たくましいエルフの前で、傷もなく血も流さず眠る様な骸の山とそれを黄泉の国へ静かに送る骨の馬を、その様に慈悲深いお方にこの様な行い、それを見過ごせばそれは創造された方もお許しにはならないはずです」
リヨの事だろうか
「相手が騎士となれば一人一殺どころか十人一殺がいいところだ、なればこそこうやって皆で頭を下げお力をお借りしようと言うのではないか」
領主は若い尼様を諭す様になだめ
まあこの様な有様でありましてと私に申し訳なさげに笑って見せた
「この度ばかりはお前達の話を聞こう、何処までを望む」
シジュウ様は再びそう言うと領主が
恐れ多くもと音葉を続けた
「この街が二度とこの様な事で御屋敷の皆様を煩わせることのない様にと願うばかりです」
領主は再び頭を下げ寄合の皆はそうなのですと頷き
ひとり尼様だけが意気地なしめと領主を睨んでいた
シジュウ様は話はわかった、お前達の願う通り穏便に事を済ませようと仰り、言葉を一度区切ると尼様に向かい、お前は後で屋敷に来いと言うと、私とワンワンを連れ寄合を後にした
帰り道、薄手のストールを羽織り天を眺める
同じ様に天を仰ぐワンワンが頷く
「季節は黄金も半ば、嫌がらせならば収穫直前の田畑も狙いましょう、冬の行軍はそれだけで力を奪います、この汚らしい世界でもそれは変わりますまい」
“収穫前の実りを狙うのですか?もし戦となれば皆空腹に耐えて過ごさねばならないのでしょうか、それは嫌な事です”
私の言葉にワンワンは笑う
その心配はなかろうと
「まあこいつらの事は知らんが、主人様が御屋敷の外に見える、そのお目に触れる者が皆行倒れでは、それが私が招いたとあれば、コレは申し訳がないからな」
そんな私達の会話を遮るようにシジュウ様が声を上げた
「さてお前、後ほど屋敷にと言ったはずだが」
シジュウ様が振り向かれるとそこには先程の尼様とシャンのおじさんが
私達を追って来たのだろう、尼様は申し訳ございませんと頭を下げ、シャンのおじさんは相変わらずオロオロしていた
尼様はシャンのおじさんを先に戻っていてくださいとさとし、おじさんは心配そうにその場を離れた
「ご無礼とは思いましたがどうかご容赦を」
尼様は改めて頭を下げる
私に道端で立ち話をさせる気か?
シジュウ様はそう仰るとそのまま尼様を置いて御屋敷へと向かわれ、私達はそれに続いた
御屋敷に戻りひと息入れ勝手口へ向かう
そこには湯気の立つカップを見つめる尼様がひとり座っていた
「座ればそこは暖かく不思議な事に壁から陽の光の様な暖かさすら感じます」
「私も最初は驚きました」
「皆様は奇跡に囲まれていらっしゃるのですね」
「奇跡などではなく人が座ればそこを暖める様になっているのだそうです、難しい事は分かりませんがそう教わりました」
「なるほど、私達こそ奇跡に囲まれているのですね」
尼様はそう仰り微笑むと、お屋敷の方には大変良くしていただきましたと話し始めた
シジュウ様により大工達と食べ物が送り込まれ
シジュウ様より頂いたお金で救済院の子ら皆に服と本をを買い与える事が出来た
雨漏りが収まり白を前に隙間風を呼ぶ穴も塞がれ
シジュウ様のお声掛けで大店を始め、たくさんの方のお力を借りる事が出来、増築も進み新たに借りる事が出来た空き地を耕し始め
大きなカマドも作っていただき、それは貧民街全体の役にも立っている
シジュウ様にご用意頂いた火石と言う消えぬ火種などは大いに人手の助けになっている
白に向け大きな湯釜もご用意下された
これの準備が終われば冬の洗い物も楽になり大勢のものが湯を浴びる事もできる
薪の不足に悩めば庭の一角を仕切りそこに際限なく生え、1日もあれば子供の背丈ほども伸びてくる不思議な木とそれを細かく砕く道具を用意してくださった
砕かずに火にくべた不思議な木がパンと破裂して皆驚いた事などいい笑い話です
新しい領主などは一番に貧民街の改善に手をつけてくださいました
おそらく御屋敷の事を考えてのことでしょうが
皆御屋敷には感謝をしております
私達だけではなく貧民街と呼ばれるこの一帯の者皆がです
店が立ち田畑が貸し出され、まだ僅かですが新しく家が立て直されました
これらは全て前の領主の御時世には思いもよらなかったことです
私共は長く長く御屋敷の皆様がこの街に住まう事を願っております
私達は人を喰らう大蜥蜴や金棒で人をすり潰すエルフの女の事など恐れもしません
貧民街や救済院の者達は皆昔に戻る事こそ恐れております
ですからどうか人目などお気になさらずレーレンに使える者達の骸を積み上げてください
私達が恐れる事は皆様がこの街に愛想を尽かす事なのです
尼様はそう話し終わると懐にある何かを強く握り締めた
「なるべく穏便に済ますつもりだそれよりお前に聞きたい事がある」
振り向くとそこにはシジュウ様が立っていらっしゃった
「何なりと」
「お前と同じ心持ちのものを十年で百人集める事はできるか?」
「三日で千人集めてご覧に入れます」
「それではダメだ、お前がその目でよく見極め選びぬくのだ、熱に浮かされだ千人ではなく鉄の様な百人を、命をかけろと言われれば逃げ出す千人ではなく、信念のために耐え忍ぶ事ができる百人を」
「必ず」
「十年で百人、出来るか?」
「お約束します」
「そうか、今日はそれが聞きたかった
手間を取らせた、申し出のあった紙と塩は手配させた、先日渡した石鹸は役に立っているか?」
「はいこの奇跡の様な日々に感謝いたします」
「そうか、ではこれを持って立ち去れ、こちらは今より少し忙しくなる」
尼様はシジュウ様より渡された袋を押し戴くと深く頭を下げ勝手口を後にした
シジュウ様は御居館に入るなりまずまずかと仰られ
上手くいけば十年後に喜んで大森林のために倒れる者が揃うと笑われた
外にも従う者を用意しておくものです、覚えておくといいと仰り、続けてセンを呼んでくる様に仰られた
昼寝を楽しんで居たセンを起こすと、センは気付だと言って酒をあおった
そのまま少し足元がおぼつかぬセンを連れシジュウ様の元へ向かう
「セン、お前はまだ古い言葉を覚えているか?」
シジュウ様の問いに、センはしばらく黙り込むと突然XXXXXXXと訳の分からぬ言葉を話し出した
私は腕輪が壊れたのかと思い、腕をブンブンと振り回していると、それを見たセンが笑いながらもう長い事誰も使って居ないから訳さぬだけだよと教えてくれた
「お前に一つ頼まれて欲しい事がある」
「何なりと」
「街外れの森へ向かいそこに住む蛮族をエルフ王として統べよ」
センは心得ましたと答えると、それでは支度がございますのでと言い部屋を出た
センをこの地のエルフの王様になされるのですか?と私が問うと
シジュウ様は何でもない事のようにあれは生まれた時からエルフの王ですと仰られ、私は耳を疑った
「アレはエルフの王の中の王、その最後の王なのです」
昼食が終わる頃、センが現れお庭への飛行をお許し頂きたいとシジュウ様に申し出た
シジュウ様が許すと答えるとそれでは早速とセンは庭へ向かう
気になり私も庭へ行ってみると、そこには三人のエルフが難しい顔をして並んで居て
どうしたのですと話しかけると、キイが、すっかり忘れて居たのだがなと話し始め、センのババア、突然、エルフ王の御成を見せてやると言い出してな、いや分かってはいても信じられん事だよ、あのババアが我々の王だとはと何とも言えない顔で笑った
センの方を見ると、彼女はコートの前に立つ、するとそこが次々と光り出し十人ほどのエルフが現れた
「皆御苦労」
センがそう言葉をかけると、現れたエルフ達は一斉に傅いた
現れたエルフ達は、センに木の葉で出来たマントを着せ、木の枝でできた杖を渡す
「エルフ王の住まう枯れぬ大樹の葉で作られたマントとその枝だ」
キィが私に耳打ちする
センはニゴに何かを飲み込ませてから跨りこちらへと向かった
「シジュウ様に支度が終わったと伝えてくれ」
センは私にそう言うと、三人のエルフを意地悪く眺め、王の御成であるぞ頭が高いと木の枝でキィの頭をポクポクと小突き笑った
私がシジュウ様の元に向かい、センの用意が出来たそうですとお伝えすると、シジュウ様は私にも付いてくるようにと仰られた
軽く、外出の準備を済ませ、庭へ戻ると人馬のゴーレムの鞍に樽や袋を積み込んでいるところで
これは何かと問うと街外れの森に住むエルフへの手土産だそうだ
センはニゴの背に揺られ
センに呼び出されたもの達はその後ろに続き
私とシジュウ様は動輪に揺られ
人馬のゴーレムがその後ろに続いた
街外れの森に着くとその入り口らしき所に籠が置かれていた
薪拾いや猟で森に立ち入る際、その籠に塩や布切れなどエルフが欲しがる物を入れる習わしがあるのだ
センは御付きのエルフに籠を蹴り飛ばさせると大きな声をあげた
何を言っているか分からないあの言葉だ
すぐに数人のエルフが現れ呆然とニゴに跨るセンを見上げる
再びセンが分からぬ言葉で森のエルフ達に何かを申付けると、センの御付きの者が早くせぬか!と森のエルフを怒鳴りつけ、森のエルフ達は目配せすると一人のエルフが森の奥に掛けて行った
何とも偉そうにニゴの背に跨るセンとそれを恐ろしい者の様に見上げる森のエルフ達
暫くするとエルフの一団が森の奥から現れ、センの前に立つ
それを見たセンは分からぬ言葉で優しく問いかける
それを受け一人のエルフがセンに答えた
「どうか、どうかお聞き願いたい、百代前より伝わる歌と同じ言葉を喋る人よ、我々は貴方の話す言葉を何代も前に失ってしまいました、どうかどうか、貴方が我らの王であるならばそれをお許しいただきたい」
「許そう」
センはニコリと笑いそう答えた
「ああ、ありがとうございます、我らが王、森の支配者よ、どうかこの愚かな身にその御名前をお聞かせください」
森のエルフは這い蹲り、センの言葉を待つ
「森の民、その王の中の王、大樹の娘ジン=ミン=セン=センである」
「尊きお方よ、貴女は百代前より伝わる森の姫、セン様なのでございましょうか?」
「そうだ」
「大森林にその身を捧げ不老となられたとは誠の事でしたのですね」
「そうだ、そして今、その大森林そのものがあちらにおわしますのだ」
センはそう言ってレーダの街を指した
「大森林はあの石造りの街、その一角に不夜の館を築かれた、私もそこに居る、不夜の館を崇めよ、そうすればこの様な籠などいらぬ日々を与えよう」
「王のお言葉、是非もございません」
では大森林、その代弁者よ
センのその言葉を合図にした様に動輪のドアが開きシジュウ様が私の耳元で
喋ることも頷くこともなりませんと囁かれ、私を連れ動輪を降りた
森のエルフ達の驚く声
耳なしではないか
子供ではないか
後ろの女も耳なしか
エルフ達の戸惑いと憤りの視線が突き刺さり、シジュウ様に助けを求め様にも肝心のシジュウ様は私の後ろに立ち
それではと私が救いを求める様にセンを見るとセンは大袈裟に頷く
「大森林の代弁者はお前達の余りの情けなさに落胆されている、私も同じだ、よって大森林の代弁者は今日、お前達にかける言葉は無い」
センはそこで一度言葉を切り、森のエルフを見渡す
「一晩の時をあたえる、明日、不夜の館に私を訪ねよ、コレはその支度に使え」
御付きのエルフ達が人馬のゴーレムが背負う荷物を森のエルフの前に並べる
大きな樽が四つに木箱も四つ、抱えるほどの袋と背負うほどの袋を一つずつ、最後に子供の背丈はあろうかと言う量の布の束
「酒一日分、木の実と水菓子同じく一日分、塩砂糖十日分、布十人分、これらを与える」
森のエルフ達がざわめく
これが全て酒か⁈これで一日分か⁈
この季節にこの水菓子がこんなに⁈
これも一日分だって言うのか⁈
塩も砂糖もこれでは使いきれん!
布十人分⁈百人分の間違いではないのか⁈
「それでは明日、不夜の館で待っている」
センはそう言って私に頷き
私は動輪へと戻り、私達はエルフの住まう森をはなれた
その夜はセンを質問責めに責め、色々な昔話や苦労話を聞き、いつまでも寝床に向かわぬ私をシジュウ様は呆れる様にお叱りになられた
明くる朝、キィの酔い覚ましの羽根つきにつきあっていると正門から呼ばわる声が響いた
キィは来た様だなと呟くが、待たせておけばいいと言って私との羽根つきを続ける
しばらくするとシジュウ様が現れ、そろそろ門に向かえと私達を連れ、呼ばわる声のもとへ向かう
そこには昨日の薄汚い森のエルフと同じとは思えぬ
正装を身に纏った十人ほどのエルフが身を正し私達を待っていた
「女達に、昨日頂いた酒を振る舞い、頂いた布で仕立てさせ、身を清めて参りました」
長と思われる男がエルフの礼をして見せながらそう伝える
「貴方の最後の赤子がその身を捧げに参った、王にそうお伝え願いたい」
私は昨日シジュウ様から言われた通り返事も頷きもしない
「ひとつお伺いするが、そちらの肌の色の違う方は古に分かれた暖かい海の森に住まう方か?」
キィは私のことか?と聞き返し
よくは知らんがそうじゃないか?昔のことはセン王に聞けばよかろうと答える
ならば王をとエルフが答え
シジュウ様がならば裏に回れ、そこでなら面会を許すと伝える
エルフ達は頷くと、大人しく勝手口へと向かう
勝手口ではリヨがせっせと菓子やツマミ、それと酒を運ぶ
それを見たエルフの長は驚いた様に、歌に歌われる金剛力士様でございますか⁈とリヨを見上げ
リヨは昔のことはセン王に聞いた方がいいと恥ずかしそうに答えた
私はと言えば、相手にするなと言い使っているので勝手口でもキィと羽根つきを続けていた
エルフ達は酒とツマミに程々に手をつけながらセンを待つ
暇なのだろうか、一人のエルフが私を見て自分の耳を引っ張って見せた
途端にキィの打った羽根つきの球がそのエルフの顔面を襲う
球を顔面に受けたエルフは鼻血を吹き上げ気を失い倒れる
九人に減ったエルフ達は、丸でその事に気付いていない様に振る舞った
キィは飽きたなと笑い板を置くと私に椅子と茶を勧める
私が何がいけないのかは知らないが怪我をさせては行けないと思うと言うと、キィはお前を馬鹿にすることはお前を選んだ主人様を馬鹿にする事だと言って私の耳を見た
“さっきの《コレ》の意味は”
私は自分の耳をさっき見た様に引っ張る
「なんと言うか、言葉には出来ないがお前達耳なしを馬鹿にする仕草だ」
キィはそれ以上は知らないでいいと話を切り上げる
ちょうどそこへセンがお供を引き連れ現れると、私の前に傅き主人様におきましては御健勝で御座いましょうかと畏まって聞いて来た
“はい、本を読んでいらっしゃいました”
随分仰々しなと笑いそうになるが、センはそっとエルフ達に見えぬ様、己の唇に指をあて私をたしなめた
「それは大変喜ばしい、それでは大森林の代弁者よ、今より新たに我が末席をその尻で汚す者共でお目を汚してもよろしいか?」
“構いません”
センは、ならばとエルフ達を呼び、己の元に傅かせる
「大森林に代わりエルフ王が申付ける、今この時よりお前達の主人はエルフ王たるこの身であり、この身が仕える大森林である」
「ありがたきお言葉」
エルフ達はそう言ってエルフの礼をして見せ
それを見届けたセンは長に向かう
「お前達は耳なしの役人に税を納めているな」
「はい、波風を立てぬため止む無く」
センはウンと頷くと
「以後はそれには及ばぬ、ただし森の関に籠も置くな、私へお前達が忠節を示す限り籠などでは足りぬ程の富をもたらそう」
その言葉を聞き長は聞く
「昔の歌の様にでございましょうか?」
「そうだ、星を射落す百の弓と万の矢を与えよう、森という森、全てを駆けるがいい」
「森は我らに!荒地は耳なしに!」
「ああ、そうだ、ただし大森林に仇なさぬ耳なしの薪拾いや獣を狩る猟師は別とせよ」
「その程度ならば」
「そして仇なすものは森を荒らす獣のように扱え」
「心得ました」
「では森へと戻りなすことをなせ」
センはそこで寝ている男も連れて帰れよと言いエルフ達を森へと帰した
「さて、これでこの汚い街の一方は我々にとっては庭に、それ以外の者にとっては恐ろしい所に変わった」
エルフ達が立ち去るとセンは被っていた花輪を指でクルクルと回しながら楽しそうに笑う
ワンワン様に貸しを作る機会など滅多にないからなと、それはそれはうれしそうだ
「さて、我が家の蔵に腐りかけの弓と矢が転がっていたな、アレでもくれてやれば先の蛮族も泣いて喜ぶ事だろうよ。そうだ、捨てるに捨てられずにいた古着に廃棄にも金のかかる食い残しも押し付けるか」
センはとても楽しそうに
足取りも軽く御付きの者を従え御居館に戻り
私の頭の上には先程までセンが弄んでいた花輪がのせられていた
キィはリヨに金剛様ってなんだ?と聞きリヨは知らないよと肩をすくめて笑う
エルフ同士だからと言って森の外の者は森の外の者
彼女達の態度はそう言っていた
「迷惑をかける」
夕食の席でシジュウさまがセンに頭を下げ
センはいやこれしきの事とまんざらでも無さそうに畏る
「あとはこちらで済ませる、手間をかけさせてしまった」
ワンワンもシジュウ様に続き頭を下げ
センもワンワン様のつむじを拝めるとはいやコレは珍しいものを見せていただきました、コレで十分ですと笑う
「して、ワンワン様に刃を向ける愚か者達の始末は、もしよろしければ私共が休みの日にでも済ませましょうか」
センのマントに使っていた、煎じて飲めばどんな病もたちどころに治り、寿命が一年伸びるらしい大樹の葉を細かく刻みながらテイが買い物ついでの様に申し出る
「いや、休みの日は休め、おふくろ様に御考えがある、なに一ヶ所に集まる様、橋を落とし、道を塞ぎ、川を堰き止め、仕向けるだけだ、何せ森はもう壁と変わらん」
テイはそうですかと少し残念そうに笑い、刻んだ葉に薬味をまぶし薄皮で包んで私に差し出す
「スジは取ってある、鼻をつまみ噛まずにひと息にいくといいぞ」
言われた通りひと息で飲み込み水で流し込む
少しすると腹の底が熱くなった
「特に使い道も無いしな、調子に乗ってこんなに持って来てしまったから毎日お前が呑むと良い」
センはこの葉の枚数位は私達と付き合ってくれと笑い
耳なしの寿命を超えて与えるのは大森林の法が許さんが良いのか?とキィが言うがセンは気にした様子もなく
「それを言うなら《村》の鉄球娘はどうなる?耳なしだがお前達三人の誰よりも年嵩だ、それにスズは主人様にお仕えしているのだから良いでは無いのか?」
そうでしょうワンワン様とセンが話をふるとワンワンは、私もなぜこうも長く主人様のお側で過ごせるのかは分からんが、そんな葉などまじないの類なのだから良いのでは無いか?と気にした様子もない
テイやリヨも自分達が飲んでも気付薬位にしかならないのだからお前が飲めば良いと笑う
シジュウ様は木の葉を飲む事が咎ならお前より先に葉虫の類を片端から牢に繋ぐことになると言って皆を笑わせた
その夜、私は主人様と二人散歩をする夢を見、朝食の席で何気なくその話をエルフの皆に言うと、センが、いや不敬とは言わんがもう少し大人になってから葉を飲ますべきだったかと笑い、キィが今度私の孫と会ってみるか?背格好はお前と同じくらいで中々の美少年だぞと何故か慰める様な口ぶりだった
そんな朝食にワンワンが顔を見せた
珍しい事も有るものだ
楽しそうだなと皆を見るワンワン
厄介ごとでしょうかとテイが朝食の準備を手伝いながら答える
「いや、蛮族の集まりが思いの外手際よくてな」
センはははんとわらう
「あのバカの親と侮ってしまいましたな」
テイが団子がたくさん浮いたスープを見つめながら楽しそうに言う
「ひと月か、早くても半月はかかると見ていたよ」
キィは嫌そうにそう言いながら大嫌いなその団子をリヨのスープにせっせと移し
「そうだな、息子が愚かな分、親が賢いのだろう」
リヨは増える団子を仕方無さげに見ながら十日もかかるまいと付け加える
「七日後だ」
ワンワンは、おふくろ様が歯車で空から見ていらっしゃるモノを私がみた限りではなと付け足した
センが首をひねる
「しかしワンワン様なら賊のあいてが明日でも今日でも、数が一万でも十万でもなにも変わりますまい」
ワンワンは、ああそれはそうなのだがと溜息をつく
「主人様がこの度の件に気がつかれてしまった」
怒られたのですか?と私が聞くとワンワンはそれは無いがと答え
「おふくろ様が空の歯車を動かしている事に気が付かれ、止む無く私が事の次第をお伝えしたのだが」
ワンワンは頭を抱え振り絞る様な声で
「主人様が私の賊征伐に御同道されると仰られたのだ」
エルフ達はやってしまいましたなと、頭を抱えるワンワンに声をかける
「お手伝いいたしましょう」
テイが同情する様に声をかけるが、ワンワンは、いや盾は主人様の四方に侍れと力なく答える
「こうなっては仕方あるまい、なるべく主人様のお目を汚さぬ様に済ませなさい」
焼きあがったパンを抱え現れたシジュウ様は隠しておいた割った皿を見つかった子供を叱る様な口振りでワンワンを嗜めると、朝食にしましょうとパンを切り分けた
仇討ちか征伐か
まあ私に取ってはどうでも良い事で
連中は戦慣れしており、集まった兵達はキビキビとしていた
その人だかりの中を従僕を連れ、領主一族の待つ本営へと向かう
そこで私は大演説を打った
兵を分け街道ごとにレーダへ向かうなどおおよそすべきでは無い、魔法使いにしらみ潰しにされ兼ねない、ここは堂々と小賢しい策など踏み潰す様に、力を見せつける様に、怒りを見せつける様に進むべきだ。もし、魔法使いの手下が愚かにも待ち受けている様ならば私が退けようと
堂々とレーダの街を囲み一戦交えましょうと
私の策とも言えぬ策が通る
皆内心では魔法使いが怖いのだ
私がいるところで安心したいのだ
バカだなぁ
私など盾はおろか歯車にだって歯が立つものか
まあいい
騎士団長だとか巨人兵を率いる賢人だとかが次々に挨拶をしてくるが覚える気は無い
どうせ数日の付き合いだ
死んでしまう者達の名を覚えてもしょうがない
大体《姫騎士》なんて呼び名がもうイヤだ
レーダの街で主人様の使いに這いつくばり、お許しを頂き《村》へ戻るのだ
先程並んでいた首を揃えてお持ちすれば幾らかは心情も良くなるだろう
うん
早く戻りたい
こんな糞溜めはもう嫌だ
汚いし人の言うことは聞かないし何かあればすぐ戦だし
蛮族とはよく言ったものだ
姉様にこっぴどくしかられるだろうか
今でも姉様は《村》の長なのだろうか
どれだけ姉様に折檻されるとしても此処に居るよりはマシだ
此処でいきてゆくよりはマシだ
うん
心残りはない
世話をしてくれたジジとババにはしこたま金を渡しておいた
今生の別れかも知れんとも言っておいた
後はこの後ろに並ぶ此奴らだが
まあ命乞い位はしてやるか
蛮族なりに頑張って使えてくれたしな
色々間違ってはいたけど
ああ、早く戻りたい
早く始まれ




