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大森林の魔法使い  作者: おにくさま
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十話

峠は過ぎたとは言え外はジメジメと暑く、早く涼しくならないものかと呟いてしまう

小屋の前の畑を見るとカブの収穫が近くなったことを感じさせていた

初物は主人様へお持ちしよう

そんな事を思いながら正門へ向かう


騒がしい声は陳情というより怒号のようで

なんだか少し行くのが嫌になってくる


正門が見える辺りまで来るとシジュウ様とゴーレム達の姿が見えた

私の出る幕はないかな?などと思いながらも、ここまで来たのだから一応行ってみようかと思いシジュウ様のお側を目指した



来なければよかった

シジュウ様によく来ましたと言われながら後悔してしまう

様子がおかしいのだ

門の外には馬に乗り、胸当をした男が3人とその従僕達

合わせれば10人を超えているだろう

その男達が口々に怒号を放つ


「このお方はレーレン家の御子息であるぞ!」


ひとりの男が叫び剣を抜いた

シジュウ様はだからどうした下郎と言い放ちまるで取り合わない

それはまるで相手をワザと怒らせているようで


「使用人風情が!レーレン家のレル様であるぞ!無礼であろう!」


シジュウ様は嘲るように、ああ、馬鹿で有名な六男坊とはお前のことですか、その無能ぶりは聴いています、今日は珍しいものを見れましたと声を出して笑って見せ

それを見た従者達は皆剣に手を掛け

馬に乗る男達は槍を寄越せといきり立った


「門を開けろ!その首跳ねてやる!」


騎馬にまだがる男が一人、槍で門扉をガンガンと叩きシジュウ様と私を睨みつけ、剣に手を掛けた男達が同じ様に門扉を足で蹴りつけた

それを見たシジュウ様は私に振り向く


「さてスズ、大森林はそれと知らずに不敬を働いたものには寛大で寛容な心を持って許し、元の場所へ返してやります。しかしそこを大森林と知って不敬を働いた者は1度目は灸を据え、2度目はその命で償わせます、覚えていますね?」


せっかくシジュウ様の影に隠れていたのに文字通り矢面に立たされてしまう

シジュウ様は今にも門扉を乗り越えて雪崩れ込む勢いの男達を指差し再び私に問う


「さてスズ、それではあの様な行いをする者には何が必要でしょう」


シジュウ様は私の肩を持つとわざわざ男達の方に私に向け、さあ答えてみなさいと何事も起こっていない様な口ぶりで

私は突き出された槍への怯えと恐れから小鳥の鳴き声の様な声しか出せず

張り付いた様になってしまった喉から必死に声を振り絞り答える


“お引取りを、して頂くべきかと”


シジュウ様は私の答えを聞くと、まあそれも良いでしょうと仰り、男達に向き直り大きな声で、館の娘スズは寛容の心を持ってお前達を許すと言う、これに厚く感謝し二度とこの様なことがない様に心がけよと言い放ち、とっとと行けと言わんばかりに手を振った

勿論男達はそれを聞いて大人しく帰るはずもなく

むしろ一層その怒りを増し

遂にはひとりの男が門扉をよじ登り始める

それをみたシジュウ様は、バカにした様に笑いながらその男を指差す

するとたちどころにその男が転げ落ち手が手がと叫び出した

シジュウ様はこの猿がと笑い片手を上げる

それに合わせる様に門衛のゴーレム達が後ろに下がり始めた


「お前達ごときに歯車を使っては笑い話になってしまう」


シジュウ様は男達を見下した様に笑い私にお声をかける

あの中から誰でも良い、3人選びなさいと

私が狼狽えていると、シジュウ様は指差せばそれでいいと優しく笑い、私の手を取りさあどれにしますと楽しげに仰った


私は訳もわからず、まず2人の男達を指差す

するとその指差された男2人が突然門扉に吸い寄せられ、押し付けらた様にもがき始めた

男達は悲鳴を上げ助けを求める


私は訳もわからずその男達の上げる悲鳴を聞いていた

一体何が起こっているのか

私が指差した男達はまるで穴にでも落ちる様に門扉に吸い寄せられ

誰かに押さえつけられた様な格好で門扉に抱きつき悲鳴を上げ助けを求めている

シジュウ様はスタスタと門扉に近づき

男達は悲鳴を上げる2人を残し警戒する様に後ずさる

シジュウ様はシゲシゲと悲鳴を上げる男達を覗き込むと

スズならこの程度電気風呂だと言って笑うでしょうに、何と情けないと言い放ち嘲笑った


その笑い声を聞いたひとりの男がこの魔法使いめ!と叫び、門扉越しにシジュウ様に剣を突き立てる

シジュウ様はその男に振り返ることもなく、襲いかかる剣先を指でつまむ

剣を握る男はピクリとも動かぬ己の剣をどうにかしようと体を揺らすが、シジュウ様のつまむ剣はまるで石に刺さった様にピクリともしない

悲鳴を上げていた男達は遂に気を失い

それに合わせたかの様に門扉から解放され、崩れ落ちる様に倒れこんだ

シジュウ様は今気がついたと言う様な顔で己の摘む剣先を見ると、飴細工の様にそれを指先だけで折ってしまった


「女に摘まれ折れるとは何と貧素な安物か」


シジュウ様はそう言いながら折れた剣先を放って返し、呆れた様にそれでは草刈りもできまいと首を傾げてみせた


「さあスズ、まだあとひとり残っています」


シジュウ様は私の方を向き、また指差せと笑って見せた

どうしたものかと男達を見たが

男達は私の視線から逃げる様なそぶりを見せ、魔法使いの娘め!と叫び出し

遂にはひとりの男が槍を私に向かい投げつけてきた

飛ぶ槍は思っていたより遅く

これならば避けられるなどとのんきな事を思ったそのとき

いつの間にか私のすぐそばに立っていたシジュウ様が先程と同じ様に槍の矛先を指で摘んでいた

槍に気を取られシジュウ様に気がつかなかったのだろうか

まるで門扉からここまで、瞬きする間に来た様に思える


「これで最後の1人が決まった様ですね」


シジュウ様は棒きれの様に槍を投げ返しながら馬上の男達に笑って見せる

男は、私は4大領主が1つ、レーレン家のレルなるぞ!私に手出ししてタダで済むと思うな!と叫んだが

投げ返された槍を受け取り損ね何とも格好が付いていなかった


シジュウ様は何もない所をつかむ様なそぶりを見せ

私や男達も何をしているのかと訝しむ

すると大領主の息子が己の首を押さえもがき始め、シジュウ様が腕を少し上げると大領主の息子は何かに釣り上げられる様に馬から浮かび上がり、苦しそうに首を押さえながら足をバタバタともがいた

男達はあっけに取られ

助ける事も忘れその光景を眺めるばかりで

シジュウ様が手を放す素振りを見せると、大領主の息子は叩きつけられる様に地べたに倒れこむ


大領主の息子は恐ろしいものを見る目でシジュウ様見つめ

口をパクパクとさせ何かを言おうとしていたが、その口から出たものは悲鳴だった

シジュウ様が指をつまんで見せると大領主の息子の片足があらぬ方向に曲がったのだ

それを見たシジュウ様は、ここで引き上げるならば良し、そうでないならばお前達の中からまた次の3人をこのスズに選ばせると優しく仰り、さあどうします?と答えを待った

男達は倒れた2人と泣き叫ぶ大領主の息子を抱え文字通り逃げ帰った

それを見たシジュウ様は私に向き直り、それでは昼食にしましょうと何事もなかったかの様に私の手を引き館に戻って行かれた



昼食だと言われても、先程の騒ぎでせっかくの食事が喉を通らず

それを見たシジュウ様はこれは困りましたと仰り食堂を一旦出ると、すぐに戻られ、私にこれを飲んで落ち着きなさいと白湯の様なものを下さった

白湯は少し甘く

果実の香りがし

心が落ち着いて行くのがわかった


白湯を飲み終えるととてもいい気持ちになっている事に気がつく

少しぼぉっとするがとてもいい気持ちだ

耳元でシジュウ様の声が聞こえる


「お前は何ともどうでもいい事で怯え悩んでいます、あの様な事は瑣末なこと、お前は主人様にお仕えする身なのですから」


シジュウ様は私の瞳を見つめ、4本の腕で優しく私を抱きしめて下さり、その腕を通し、私の中から何かが抜け落ち、瞳を通し何かが入ってくる様で、とても気持ちがいい


どれ位抱きしめて頂いていたのだろう?シジュウ様がもういいでしょうと私から離れられるのを少し残念に思う

それにしても私は何とどうでもいい事で怯え悩んでいたのだろうか

目の前にはこんなにも美味しそうな麦切りが有るのに

麦切りを口に運ぶと冷たく爽やかな味で、まだまだ続くだろう暑さを吹き飛ばす様だった


少しフラフラする私を見たシジュウ様は、午後のお勤めの前にひと眠りして来なさいと言われ、お言葉通り一時ほど横になる

目を覚ます頃には頭はスッキリとし、やる気も漲っていた

しかし私は何であんな事で怯えていたのだろう?


お勤めのためにシジュウ様の元へ向かうと、シジュウ様より待ちに待ったお言葉をいただいた


「コレよりお前に魔法を教えましょう」


飛び上がりたい気持ちを押さえ席に着く

シジュウ様は机の上に綺麗なガラス玉をひとつ置く


「まずお前が魔法と呼ぶもの、正しくは科学と言います」


“かがく?ですか”


「そうです、水を温めれば沸騰し冷やせば氷となります、これは全て科学で説明できる事です」


“シジュウ様、それは当たり前のことではありませんか”


シジュウ様は頷くと


「当たり前の事を起こして見せるのが科学なのです」


シジュウ様はそう仰ると手のひらをかざす


「今よりこのガラス玉にとって私の手のひらが大地となります」


シジュウ様がそう仰るのに合わせる様に机の上のガラス玉がフラフラと浮き上がり、シジュウ様の手のひらに向かい進みだす

そしてシジュウ様が手をあちこちに動かす度にガラス玉はそちらに向かって行く


「このガラス玉を私とすれば、私が空を飛ぶ時は空を飛んでいるのではなく空に向かって落ちているのです」


“仰ることは何となく分かるのですがそれはやはり魔法ではないでしょうか?例え私が今それを望んでも出来ることではありません”


シジュウ様はふむと頷きガラス玉を机に下ろすと、ではと仰り


「このガラス玉が糸で吊られているとすれば?」


“それならば私にも出来るでしょうがそれは当たり前の事で魔法ではありません”


「それでは今からお前にも見える様にしましょう」


シジュウ様はそう仰り、再び手のひらをかざす

そうすると今度はシジュウ様の手のひらの辺りに黒い渦の様なものが現れ、そこからガラス玉に向かいスルスルと黒く小さい、細い竜巻の様なものが伸びる

そしてそれはガラス玉を捕まえると今度はガラス玉を引き上げ始めた


「日頃目には見えませんが私達は大地から伸びるこれと同じものに縛られて生きているのです」


シジュウ様の手のひらにあった黒い渦が消えると、ガラス玉はコトリと机に落ちた


「今よりお前にこの目に見えぬ渦の操り方を教えます」


シジュウ様は私の目を見てそう仰る


「以前お前は溺れる夢を見たと言い、私はそれはお前の身を清める為に行った事だと行ったのを覚えていますね」


私が頷くとシジュウ様は


「その際私はお前の身体を主人様にお仕えするに相応しいものになる様、少し術を施しました、具体的に言えば、お前はあの日以来その身体に備わる力を他のものと違い、十全に引き出せる様になりました」


その代償としてよく食べる様になってしまうのですがとシジュウ様は笑われる


「そしてお前はその体の中に蓄えた力を思う時に思う様に扱えるのです」


シジュウ様はそう仰りながら立ち上がると私の後ろに回り、私の腕にその腕を添えもう片方の腕を首筋に添えられた


「最初は少し身体が驚くものですが、直ぐになれます」


もう一組の腕を出されたのだろう

私は腕と首筋に続き頭を両手で覆われた


「では落ち着くのですよ、胸と頭に先程の光景を描きなさい、そしてそれがお前の腕を通し手のひらに向かいます」


首筋にピリピリとした痛みが走り、それが腕の中を走る

私は手のひらに力を感じた

そしてそれは歪な形となり手のひらに現れる


「コツは掴みましたね?」


私が頷くとシジュウ様は首筋と頭に添えられた手を離される


「さあ後はお前の望むようにするのです」


ガラス玉が私の手に向かう

そしてそれだけでなく部屋の物が全てガタガタと動き始める


「集中して狙いを定めるのです」


部屋の騒ぎは少しずつ収まりガラス玉だけが私の手のひらで踊る


「初めてにしては悪くは無いようです」


シジュウ様は私の腕に添えてくださっていた腕も離された


「お前がこれは見えぬとおもえばそれは姿を消します」


手のひらに渦巻いていた黒い渦から色が消えていく


「スジは悪くありません、まずは一つ、慣れれば二つ、そうやってものを十まで操れる様になりなさい。その後次の術に移りましょう」


頷き、手のひらに渦巻いている今は見えぬ渦に消えろと命じ

ガラス玉は机に落ちた

途端に身体がだるくなる


“何故でしょう、とても疲れました”


シジュウ様はそうなる事が分かっていた様で、水を差し出してくださった


「慣れるまではそうでしょう、慣れれば慣れたでやたらに腹が減るものですが」


そう仰りながらシジュウ様はガラス玉がつまった袋を机に置かれ

今日はここまでですがこの先はしばらくコレで練習ですと仰った

身体を動かすのも億劫だが、気になるのでシジュウ様にお伺いする

先程男達を門扉に縛り付けたのは今の術を使われたのですかと

シジュウ様は頷かれ次が有ればお前もやって見ると良いと言われ

物騒なのは嫌いですとお答えするとシジュウ様は笑いながらあの程度は躾でしょう、お前は少し外の者に怯えているだけですと仰られた

多分そうなのだろう

旅先で会った森の人たちは、皆私の事を《友人》と呼び、親切にしてくれた

森の中には先程の輩の様な者はきっと居ないのだろう

ならば森の中を経験した私が、大声で叫び怒鳴り散らすあの男達に私が怯えるのも頷ける


しかしそれよりも気になる事がある


“シジュウ様は電気も操れるのでしょうか?”


シジュウ様はやれやれと笑うと


「聞かれると思っていました、風呂に電気を流せないかと聞きたいのでしょう、それでお前が風呂に入るのを嫌がらぬというなら考えなくもありません」


答えるまでも無い

もし館の湯船が今日から電気風呂になるのなら朝晩入る事も厭わない

シジュウ様は呆れた様にその顔はなんですと仰りながら、ワンワンにも苦労させられましたが、お前もお前で手をかけされてくれると嘆かれた

どうやら今夜から夕食後の楽しみがひとつ増える様だ



その後シジュウ様から歴史について教わり、今日はここまでにしましょうとのお言葉で、今日の私のお勤めは終わりとなった

勿論主人様がお呼びで有れば如何なる時も駆けつけるが、主人様は食事中と就寝後は一度としてお声を掛けられた事がない

シジュウ様曰くそれが主人様の主人様たるところですと仰られ

私もまさにその通りだと深く感謝している


そんなわけで夕食までの時間をレジナルドで楽しもうと思っていると、シジュウ様よりお前に来客だと言われ、少し残念に思いつつ勝手口へ向かった

そこには思っていた通りシャンと、思ってもいなかった大店の店主が待っていた

用件は2人とも同じ

領主の出来の悪い息子が人を集めている

町のヤクザ者にまで声をかけて回らせている

三日と経たずこの屋敷を襲う構えらしい

領主の出来の悪い息子が領地から呼び寄せることができる兵は200人を超え、それに町のヤクザ者が加われば300人を超えるだろう

早ければ明日の晩、遅くとも明後日の夜には事を起こすはずだと


私は大勢の男が門扉で痺れる姿を思い浮かべ、思わず笑ってしまったが、シャンがお前笑ってる場合か、すぐに身を隠せと真顔で迫り

大店の店主は私共がお嬢様のお力添えをいたしましょうとシャンの言葉を遮った


「そのどちらにも及ばぬ」


そう仰りながらシジュウ様が勝手口に現れ

大店の店主が、これはこれは真金様と首を垂れる

シャンは正気か⁈今すぐ隠れないとエライ目にあうぞと声を荒げた


シジュウ様はお前達の行いにはそれ相応のもので返そうと仰り

大店の店主にはまずお前の店の守りを気にせよ、何かあれば言うがいいと声をかけ、大店の店主はありがとうございますとこうべを垂れた

次にシジュウ様は、シャンにお前と肉屋の一家は巻き込まれぬ様この者の所にでも隠れているといいと声をかけ、続けて大店の店主に構わぬなと言い付けた

シャンは好きにしろよと吐き捨て

大店の店主はお任せくださいと大袈裟に頷いてみせた


では任せた

シジュウ様のお言葉を聞き大店の店主は勝手口を後にする

シャンは私に好きにしろとキツイ言葉を放ち、少し黙った後、バツが悪そうに町で修繕職人をやっている私の叔父も一緒に連れて行くからと言ってくれた

叔母さんは?と私が聞き返すと、シャンは知らないのか?お前の叔母は有金抱えて若い男とどっかに行っちまったぜと呆れた様に吐き捨てた

シジュウ様を見ると頷かれ

まあ叔母さんらしいなと妙に納得してしまった

それより、今度叔父さんに少しお金を持って行ってあげよう、きっと困っているに違いない


私はシャンに色々ありがとうと礼を言い、シジュウ様は何が望みか決めておくといいとシャンにお言葉をかけてくださった


「何もいらねえよ、命があったらまたな」


シャンは少し照れた様に頭を掻きながら勝手口を後にした

私達も館に戻り

シジュウ様が呟かれる


「あの様な者、3人も300人も同じですが相手をするのが億劫です」


私が、ではどうなさるのですか?と伺うと、シジュウ様は


「醜い盾を呼び寄せます、たまには役に立ってもらわねば」


そう仰りながら外の人達が《硝子宮》と呼ぶ裏手のガラスでできた建物をチラリと見ていらっしゃった




少し早めに目を覚ました

犬達の世話が終わったらカブを収穫しようと思ったのだ


顔を洗い着替えを済ませ、冷水をひと口飲んで庭に出る

小屋に向かうと犬と戯れる人影が見えた

シジュウ様かと思ったが違うようで

また新しいゴーレムなのだろう

それにしては丸でエルフの様な見た目をして居る

ゴーレムは私に気がつくと犬と戯れるのをやめた


「当地のものか、言葉は分かるか?」


シジュウ様ではない

私は咄嗟に後退り、駆け出す

昨晩シジュウ様から言い使ったのだ

暫く屋敷から出るな、見知らぬ者や怪しい物をを見たら直ぐに伝えろと


「まて!おい!言葉が分からんのか!」


賊だ

一刻も早くシジュウ様にお伝えしなくてはと一番近くのゴーレムに駆け寄る


“賊です!シジュウ様!”


誰が賊か!と叫ぶ声を塞ぐ様に、飾り物のの如く庭に立っていたゴーレムが動き出し私と賊の間に割って入り、賊は足を止める


「歯車か、なら話が早い。御屋敷の御方を、そこの者では話にならん」


ゴーレムがいれば私は百万の味方を得たも同然

シジュウ様のマネをし賊に叫ぶ


“当地は森の者以外立ち入りは許されません!”


「そんな事は百も承知!」


賊はその場に座り込み、話にならぬと溜息をつく


「温室で待てと伝えたはずだが」


声に振り返るとシジュウ様がいらっしゃり、賊は額を地べたに擦り付けん勢いで這い蹲る


「四方を見廻り、備えておりました」


シジュウ様は一歩前に出るとさらに言葉を投げかける


「四つ脚と戯れるのが盾たる者の備えと?」


どうやら賊では無い様子の者は顔を上げ、シジュウ様に申し開く


「当地に新しく主人様にお使えする者がと聞き及びましたので、その者かと思い、決して戯れていたわけではございません!」


「それで有ればお前の言う者はここに居るコレである」


シジュウ様はわたしを指し

賊かと思われたエルフが呆れた様に私をみた


「耳なしではありませんか⁈その様なものを主人様はお側に⁈」


「慎め、今の言葉聞かなかったことにする」


シジュウ様の御言葉にエルフは再び額を擦り付け己の言葉を詫びた


「スズ、此れは主人様の前で倒れることを許された醜い盾が一枚、テイである」


シジュウ様の御言葉を受け、テイと呼ばれたエルフがよろしく頼むとこちらを睨み、私はこちらこそとシジュウ様の陰から答えた


「なんだその態度は⁈御屋敷の御方よ!やはり納得致しかねます!」


睨んでおいてそれは無いだろうと思いシジュウ様の陰に隠れた


「この者の躾は私が行っている、気に入らねば私に申し出よ」


再びエルフは額を擦り付け申し出る


「譲って、最初の三人以外から主人様にお使えする者が出たとして、その者は余りにも不出来。お許しが有れば改めて万人の中から私めがお選びいたします」


「驕るな、この者はこの地の最初の一人である。不出来は承知、ましてやお前らの祖の有り様はこれの比で無かった」


エルフは差し出がましいことをお許し下さいとシジュウ様に詫びる


「許す、さて他の者は」


「温室に控えております」


「朝食は済ませたのか?」


「各々」


「ではそのまま待て」


「主人様にお目通りは?」


「後程お伺いしておく」


「ありがとうございます」


シジュウ様に、では下がれと言われるとエルフは振り返ることもなくガラスの建物へ消えていった

シジュウ様は、スズもアレを許してやれ、アレはアレでさむらいを気取っているのだと仰られた

さむらいと言えば先程旅した《島》の戦魔人の呼び名だ

あの方は《島》からいらっしゃったのですか?とシジュウ様にお伺いすると、テイは母が《島》の産まれだが、アレは生まれも育ちも大大都、第一さむらいとは瞳も髪も漆黒の魔人の呼び名、さむらいに憧れているだけでしょうと仰られた

確かに実った麦の様な色の髪に翠色の瞳では様にはならぬなと思う

《島》で聞いた《大陸》との戦の昔話では、魔人のさむらいを率いた悪魔将軍と呼ばれるさむらいの大将は刀を振れば鎧ごと斬り裂き、槍で突けば船も沈み、たった一人で三千の《大陸》人の首を狩ったと伝わっている

《輝》に飾られていた悪魔将軍の大きは絵は黒い瞳と黒い髪で不思議な鎧を纏った女の人だった

その姿に憧れるのはわからないでも無い

なるほどなと頷く私にシジュウ様が


「所で起きたのが何時もより早い様だが」


“そうでした、カブが食べ頃かと思いましたので収穫しようと思ったのです”


初物を主人様にと思いましたのでと続けると、それを聞いたシジュウ様はなるほどと頷かれ、そのまま少し待てと言われ、暫く二人して犬達と戯れていた

程なくすると開墾でもするのですかと言ったいでたちのシジュウ様達が現れ、先程まで私と一緒にイヌと戯れていたシジュウ様もほっかむりをし裾を縛り上げてる


“シジュウ様!カブをいくつか取り入れるだけです!鋤も鍬も必要ありません!私一人いれば十分です”


余りの大袈裟な御姿に思わずシジュウ様達を呼び止めるが

結局私の言葉などで止まるシジュウ様ではなく

それどころかゴーレム達までもが次々と集まり、諦めた私は大勢が見守る中カブを掘り出し、ゴーレムが差し出すカゴにひとつ乗せふたつ乗せ

泥まみれのカブがななつ乗った所でここまでにしましょうと切り上げた

野良着を着たシジュウ様達は見ていただけなのに満足そうにカブをながめ

早速主人様にお見せせよと私を急かした

私が、では洗ってしまいましょうと言うと、シジュウ様はそのままで良いと仰る

泥でお部屋が汚れてしまいますと言ったのだが、それは気にせずとも良いと言われてしまった

ゴーレムから籠ごとカブを受け取ると直ぐ様左右からシジュウ様達がそれを支え、私は籠に手を添えているだけになってしまう


そのまま御居館に入り二階にある主人様のお部屋に向かうと、シジュウ様が主人様の僕たるスズより献上の品でございますと仰られ、直ぐ様主人様より入れとの御言葉を頂いた

主人様はいつもの様に椅子に腰掛け手には本をお持ちだが、それは閉じられていた

主人様のお側まで歩み寄るとシジュウ様にお前が手ずからお渡しせよと言われてしまう

籠に乗るカブはどれを取っても泥まみれで、それなのにシジュウ様は早くせよと急かされる

私は覚悟を決め、なるべくきれいなカブをひとつ手に取り主人様の前に差し出し、お庭で育てたカブが実りましたのでお持ちしましたと言い、お見せした

すると主人様は立ち上がり、泥まみれのカブをお手が汚れるのも気にせず受けられ、それは素晴らしい、これは大変良いものを貰ったと不恰好なカブをしきりに眺めながら嬉しそうにされ

シジュウ様がこの地で実りました初物でございますと付け加えるのを聞くと主人様は

スズ、よく育てた

シジュウ、よくスズを育てた

とそれぞれにお褒めの言葉を下さり

続けて主人様はシジュウ様にひとつは我が家の宝物殿に送り永遠にその姿を留めよ

ひとつは食す

残りは永遠に初の実りとこの館で讃えよと言い付ける

シジュウ様は直ちにと言うと籠に残ったカブを持ち何処かへ行かれ

残られたシジュウ様の1人が泥のついたままのカブを主人様から受け取るとその場で捌き、皿に盛り主人様に差し出す

主人様はそれをひとつ摘むと、泥を落とさぬまま口に運び、シャクシャクという音と時々ジャリと砂を噛む音を立て食べてしまわれた


「我が僕スズよ、正しい子よ、いずれ私はお前のその正しさに応えよう」


主人様は残りはお前が食べるといいと仰り、カブと泥の乗った皿を私に下げ渡す

私も死ぬ訳ではあるまいと覚悟を決めひとつ摘もうとすると、洗った方がいいと主人様に笑われ、しかし先程主人様はと申し上げると、主人様は笑われ、実はな、泥はうまくなかったと秘密を打ち明ける様に仰られた



そしてその日の朝食には前菜としてカブの薄切りに塩と胡椒と酢と油とをまぶしたもが出された

そこでシジュウ様より本日只今よりカブをこの様にして食べる事を《カブのお造りスズ風》と大森林の全てにおいて呼ばれることとなったと伝えられ

嬉しさよりも恥ずかくなってしまった



朝食が終わるとシジュウ様より温室に向かい醜い盾の者共を此処に連れてくる様に言いつかる

先程の事があったので、気乗りはしなかったが、お勤めを疎かにすることは許されない

軽くはない足取りでガラスの建物へ向かうと、4人のエルフが弓や矢を手入れしており

私を見てアレか、本当に耳なしでは無いか、などとさも不満げに話している


“シジュウ様が皆様をお呼びです”


私は気を取り直しエルフ達に声をかける


「シジュウ様とは御居館の方の事か?」


1人のエルフがそう聞き返し

私は、先程の方がシジュウ様ですと返答すると、エルフは了解した、と答え続いて騎乗してきたモノはどこに繋げばいいと問うてきた

その事は特に言われていないが、車寄せに繋げる様になっているのでそちらにと答えると、エルフは分かったと答え、皆がサッと手を挙げる

それに合わせる様に奥から次々と馬ではないモノが現れた

最初に現れたのは太い四肢と胴、額と言うか鼻先と言うのか、その辺りから立派な角が生えた怪獣が現れた

次に現れたのは昔に滅んでしまったと聞いていた羽を持ち天翔る白馬だった

そしてその次は全身を黒い骨だけで組み上げられた不気味な馬の様なモノ

そして最後に現れたのは今までの三匹のどれよりも大きな蜥蜴


「安心しろ、よく躾けてある」


1人のエルフがそう言いながら手綱を引き、では案内を頼むと声をかけた

私はどうにか逃げ出さぬ様に気を落ち着けながら、魔獣の群れを先導し車寄せに繋げてもらうと、エルフ達を御居館に引き入れた


「醜い盾よ、よく来た」


待ち受けていたシジュウ様が帝王階段の踊り場からエルフ達に声を掛け

エルフ達は膝をつく


「御屋敷の方よ、この身、お呼びと有れば何処にも」


「うむ、さて、この地では私の事はシジュウと呼ぶ様に」


「は、シジュウ様、さてこの度私等めをお呼びとは戦でございましょうか」


「うむ、それに答える前に問う、盾は七枚のはず。何故此処に四人しか居らぬ」


「お答えします、此処におりますはテイ、キィ、リヨ、センの四名、シャとヨウの二人は既に足腰が立たず寝床から動けぬ故お勤め叶わず、我等が使命を果たせぬ時は床で喉を突き共に果てると言付かってまいりました。またオキの跡目は未だ決まらず」


「心得た、では先の問いに答えよう。昨日、周辺の集落を収める輩が、この地も辺り同様に己を長と心得よと申して来た」


「心得ました、では暫くお待ちください。その者の首をお持ちいたします」


「まて、それには及ばぬ。その者は間も無く手勢を連れて再びこの地を訪れる、お前達は其奴等にこの地を踏ませねばそれで良い」


「なんと寛大な、心得ました」


「昼までに物見を済ませ策を立てよ、話はそこで聞く」


「心得ました」


エルフ達はサッと立ち上がると風の様に立ち去り、その姿を消してしまった


さて、あれ等が戻るまで飛び算の続きを教えましょうとシジュウ様は仰り

私は壁にかかる時計を見つめる

昼というのが昼食の事ならば、後三時半程しか無い



昼食の時間に合わせる様に四人のエルフは御居館に戻って来た


「まず外套を取れ、昼食にする、各々席につけ」


エルフ達はシジュウ様の言葉に従い外套を脱いだ

そしてあっけに取られる

外套を脱いだエルフ達は皆、それならば裸と変わらないではないかと言いたくなる格好をしており、そこでようやく四人全員が女である事に気がついた

もちろん女かなとは思ってはいたが、元来エルフとは男も女も細く、見分けがつかぬ生き物で、声を聞いて女だろうなと思っていたのだ


「まずお前達に紹介しましょう、コレはスズ、主人様の僕である」


席についたエルフ達が一斉に浅く頭を下げた


「では各々名乗るがいい」


シジュウ様の御言葉を受け、まず朝のエルフが姿勢を正す


「私はテイ、先程は失礼した。見ての通りの武辺者だ、よろしく頼む」


私はこちらこそと頭を下げたる

次は肌の色が浅黒いエルフが姿勢を正す


「私はキィ、盾の中で一番の美人だ」


キィと名乗ったエルフが茶目っ気たっぷりに笑う

つられて私も笑った

次に姿勢を正したのは筋骨隆々たる大柄なエルフ


「私はリヨ、職は医師をしている。何かあれば言ってくれ」


人は見かけによらぬものだ

最後に姿勢を正したのは小柄で幼い見た目のエルフ


「私はセン、言っておくがこの四人の中で一番年嵩だ。リヨもキィも私がオシメを変えてやったのだ」


胸を張る姿が滑稽で

しかし本当にエルフという者は年が分からない

それでは良いなとシジュウ様が仰り

皆の前に昼食が並べられる

噂通りエルフ達は獣の肉を食べぬらしく、野菜と木の実のパイが出され

私の皿には粉をまぶし油で揚げた豚の薄切り肉


「気にするな、慣れている」


テイと名乗ったエルフがパイを口に運びながら話しかけて来た


「私達は生ける者を殺め口にする事を良しとせぬだけだ、今風の若い者は気にせず食べる者も多い」


他のエルフ達もその言葉に頷く


「他の物の肉を喰らい己が力とする、その事を否定などしない、だからお前も我等の様をよく見て学べ」


私ははいと答え笑う

やはり悪い人ではないのだろう

突然、そうだ!と言ってセンと名乗ったエルフが腰から下げた袋に手を差し込み、何かをひとつ取り出した


「コレはな、私達が食べる菓子なのだがひとつ食べてみるといい、この間くれてやった鬼の小僧にはとりあえずマズイと言われてしまった」


マズイと言われて口にするのも何だが

取り敢えず受け取り口に放り込んで見た

いくつもの果物や豆を干して固めた様な味と食感

程々に甘くマズイと言うほどではなく


”嫌いではありません”


そう感想を述べるとセンと名乗ったエルフは、こんなものを菓子と呼ぶのはもうジジババばかりなのだがと笑う

それを見てキィと名乗ったエルフがセンも十分ババアではないですかと笑うと、リヨと名乗ったエルフも笑い出し、遂には必死に笑いを堪えていたテイと名乗ったエルフまで吹き出した


「スズだったか、覚えておくといい、この若作りはな、寝たきりのシャ婆とヨウ婆はおろか、とうの昔に墓の下へ行ってしまったオキの婆様からもセン婆と呼ばれていたのだ」


キィと名乗ったエルフが腹を抱えなが

面白そうに話す

センと名乗ったエルフはスッと立ち上がると風の速さでキィと名乗ったエルフの後ろに回り、縄で首を締め上げる


「シジュウ様、どうやら盾は三枚である様です」


センと名乗ったエルフはとても冗談とは思えぬ力でキィと名乗ったエルフの首を締め上げ、遂にはキィは白目をむいてテーブルに突っ伏した


「程々にせよ」


シジュウ様は呆れた様に言うとセンをキィから引き剥がし

キィの首元に手を当てると、キィはビクンビクンと震えて目を覚ました


「死んだ旦那が見えた」


キィは真顔でそう呟くとセンを睨み、加減をしろと文句を言うと

そのまま向こうに行ってしまえばよかったのだとセンにあしらわれた


「さて、もうその辺で終われ。このままで構わん、話を聞かせよ」


呆れたシジュウ様の御言葉で騒ぎは収まり、テイがそれではと話を始める


「我等手分けをし辺りを見聞して参りましたところ、其処此処で御屋敷への討ち入りの話で持ちきりになっております、輩は領主の息子で名はレーレン=レル、私の見立てでは集兵は今夜には間に合わず、襲撃は明日の日暮れを待って行われるでしょう、今夜は手の者の嫌がらせの類が有るだけかと。明日の襲撃はまず街のヤクザ者に裏手から襲わせ、その混乱に乗じ正面から力押しと左右からの搦め手で四方から襲う手筈であります」


シジュウ様はふむと頷くと、では策を申せと仰る


「策という程のものは必要御座いません、我等が四方それぞれを受け持ち賊を討ち取るまで。ただそれでは大森林の威光を示すには至りませんので、私に一計が御座います。賊の襲撃が始まりましたら頃合いを見計らいますので、正面より歯車達をお放ちください、歯車をしばらく見せつける様に暴れさせ、幾人かを生きて返せば自ずとご威光は広まりましょう」


シジュウ様は承知したと頷き、賊を払った後、主人様への御目通りを許そうと仰った

エルフ達は席を立ち膝を着くと、感謝しますと首を深々と下げる

その姿を見て不思議に思う


「シジュウ様、皆様は何故《醜い盾》なのでしょう?皆様とてもお綺麗に思うのですが」


その問いには私が答えよう

テイは私に向き直ると己の腹を指差す


「《主人様の御前に立ち、醜く臓物を撒き散らしながら盾として倒れる事を許されたもの達》という意味だ、私たちが醜いと言うわけではない」


故にせめて死顔が見苦しくない様、私達は化粧をして戦に臨む

テイはそう締め括った



シジュウ様は昼食が終わると、エルフ達に主人様に御目通りがなるまでは裏の温室を自由に使え、酒はこの隣の部屋にあるものならば好きにして構わん、風呂も自由に使えと仰った

エルフ達はいたみいりますと膝をつく


シジュウ様に言いつかり、車寄せの魔獣達の様子を見に行くと、骨で出来た一匹以外は其々飼葉や野菜などを与えられている

巨大な蜥蜴はとうに食事を済ませたらしく日向ぼっこをしていた

それはいいのだが魔獣達は骨の馬を除き皆粗相をしており、これは後片付けが面倒だとため息が出た

エルフ達はコレより策を立てると言い

談話室から持てるだけ酒瓶を持ち出し魔獣を連れて温室へ戻った

シジュウ様はそれを見て嘆く様に、今宵は賊より他の事で悩まされそうだと仰った


夕食の席にエルフ達は現れず

談話室で食後のお茶をいただきながらレジナルドを楽しんでいると、センが酒を漁りにやって来た


「すまんが手伝ってくれるか?この体ではろくに持てなくて困る」


私は良いですよと言って何本か酒瓶を抱えると、センの後に続き温室へ向う

その道すがら、昼の事が気になったので声を掛けた

セン様のお年はおいくつなのですか?と

センは笑いながら様はいらないよと言い、十万八千と少しだ、見えぬだろう?と言って片目をつぶって見せた

エルフは長生きだと聞きましだがそれ程とはと驚くと、センはフムと頷き並の同族では長く生きても五千年、私はその昔主人様より秘術をほどこされ、億年の時を生きる事を許されたのだと言い、立ち止まる


「お前も《目》は持っているな?では目を凝らしよく見ておけ」


センは酒瓶を置き両手を広げる

暫くするとボンヤリと光る小さなものがセンの回りに集まり

それらがセンの中に消えていった


「私はこうやって辺りの樹木や草花からほんの僅かにその命を分けて貰う」


そうして十万を超えて生きているのさと笑った

安心しろよ?決して人からは取らぬし草木からも人で言えば1日分も分けてもらっているわけではないのだと酒瓶を抱え直しながら話してくれた


「そうだ、今夜は余り遅くに庭に出るなよ?私のニゴとリヨのハヤに見廻りをさせるからな」


一旦頷き、所でニゴとは?と聞くと、私の愛馬がニゴ、リヨの乗るガリガリの骨がハヤだよと教えてくれた


温室の前につくと酔ったテイが酒瓶を受け取り、済まんなと声を掛けられた

その声はとても策を練っている者の声ではなく

奥を覗くとリヨは死体の様に突っ伏し

キィは白目を剥いたまま大樹に逆さ吊りにされていた


「飲める年になったら付き合ってくれ」


テイとセンに見送られ私は御居館に戻りお茶を入れなおした

何処に住んでもエルフはエルフだなと思いながら



談話室でレジナルドから流れる音楽を聴きながら日記を書いていると、シジュウ様にもう遅いから早く湯に浸かって寝る様にお叱りを受けた

もう一曲などと欲張っているうちに随分と遅くなってしまった様だ

片付けを済ませ浴室に向かうと、脱衣所で青い顔をしたリヨに出会す

酒に弱くてなと力なく笑うリヨはモタモタと服を脱ぐ

脱がなくてもよく見えてはいたのだが

その肢体は柱の様に太く鋼の様に逞しい

私はよほど驚いていたのだろう、リヨはその巨体を恥ずかしそうに撫で、私の一族は鍛錬の神を信心しているのだと照れた様に笑う

リヨはお陰で未だに嫁に行けぬとおどける


二人で湯に浸かり私がよろしいでしょうかと声を掛け電気を流すボタンを押すと、リヨはコレは!と言って驚く

ふむ、コレも良い試練だなと言いながら目を閉じた

皆様は夫を娶っていらっしゃるのですかと私は何の気なしに聞くと

私は縁がなくてなとリヨは笑い他の皆は居るぞと言った

テイは子は居らんが随分と歳下の男と暮らして居る

キィは死んだ耳なしの夫に操を立てて

誰にも己を触らせん

センの婆様は会うたびに違う男を連れて居るよ

リヨは好きな男はいないのですかと聞くと、私は小さい男が好みなのだが皆私を見ると逃げ出すと悲しそうに呟いた


リヨは風呂から上がると脱衣所の長椅子に裸のまま腰掛け、酒が抜けるまでここで休んで行くよと言うと着替える私を見つめ、なあお前は何で男物の下着をしているのだ?と訝しんだ

これは女物ですよ、見本誌にもそう書いて有りましたと答えると、リヨは、ああそうか最近の流行りに疎くてなと笑い、それは何と言うのか教えてくれないかと聞くので、婦人用トランクスと見本誌には書いて有りましたと伝え、お休みなさいとそこで別れた



翌朝、眠い目をこすり、顔を洗い犬の世話に向う

庭に出るとエルフ達の声が聞こえる

小屋にはイヌの姿はなく、声のする方に向かうとコートと呼ばれる更地でエルフ達が棒を使い球の打ち合いを器用にこなし

犬はと言えば骨で出来たリヨのハヤを嬉しそうに噛みまわしていた

私が噛んではダメですとイヌ達を叱ると、リヨは、構わんよ、夕べ新しく増えた所を噛ませているからと球を受けながら答える


イヌ達のごはんと毛の手入れを済ませると、シジュウ様がいらっしゃり、皆で朝食にしましょうと仰られた

朝食は賑やかになるかと思ったのだがエルフ達は皆静かに座り朝食を待つ

程なくしてシジュウ様が皆の前に皿を並べる

今日は潰したモロコシを焼き固め砂糖をまぶした物によく冷えた乳を掛けたものと山盛りの果物、私の前には大きな腸詰と、とろけるような卵焼き

エルフ達の前には腸詰の代わりにまだ季節の早い栗と薄い果実の色をした飲み物が出された


お心遣いいたみいります

テイがそう言って頭を下げ栗をひとつ懐にしまうと残りの三人もそれに習った

そこからは皆おとなしく食事を済ませる


食事が終わりお茶を飲を受け取る頃、シジュウ様がエルフ達に声をかける


「今宵は何時頃になるのです」


「余り考えが回る輩とは思えませんので、寝静まるのも待たぬでしょう」


テイは少し笑うように答えた

シジュウ様はふむと頷くと、私に今日は少し夜更かしをすることになりそうですから昼寝をしておきなさいと仰られ

エルフ達もひと眠りしておいた方が良いぞ、我等も少し休むよと笑う


ところでとシジュウ様はエルフ達に向き直り、昨晩の賊はどうなりましたと聞いた

センがニゴの腹のなかかハヤの何処かになりましたよと菓子を摘みながら答えると、シジュウ様は一人くらいは返しても良かろうにと呆れていた

私は午前は先日の魔法の訓練の続きと裁縫を教わり、昼食を済ますと、少し寝ておけと言われ、横になった



眼が覚めると空は紅く染まっており、程なく夕食となった

夕食は軽いもので済まされ

エルフ達に至っては水を飲んだだけだった

美しく化粧をし髪を調えたエルフ達が言うには、ハラワタと一緒に晩飯までブチまけては末代までの恥だとの事だそうだ


エルフ達は相変わらず裸よりはマシな程度の格好に肘当てや膝当てを着け、黒い外套を羽織り、各々の腰の物と弓を手にした

私はシジュウ様に連れられ、皆の前に立つとシジュウ様が声を上げる


「主人様の僕たるスズをその代理とし命ず、その役目必ず果たし、また此処へ戻れ」


その言葉にエルフ達は膝をつくと、最初にセンが立ち上がり、細く透明な鞭を私に見せると、裏手はこのセンにお任せくださいと頭を下げる

私はシジュウ様に言われるまま、頼みますと声をかけセンは裏手へと向かう

次に立ち上がったのはリヨだった

リヨはその体に似合わぬ小振りなナイフを二本見せ、御屋敷の右手は只今より鉄壁となりましたと頭を下げ

私は先程と同じように声をかけた

立ち去るリヨと入れ違うようにキィが立ち上がり、無数のトゲに覆われた金棒を軽々と持ち、御屋敷の左手には地獄を用意いたしましたと頭を下げた

それは頼もしいと声をかけると、キィも立ち去り、残されたテイが私の前に立つ


「御屋敷の正面はこのテイが露払いさせていただく、盾の戦存分に御覧あれ」


“楽しみにしています”


テイは大小の魔人刀を腰にさし正門へと向かった

残された私はシジュウ様が茶や菓子の用意を始めるのを手伝う

シジュウ様が言うには庭に出て盾の様子を見物するそうだ


暗くなった空の下、いつもと変わらず夜でも明るい庭に出ると、椅子とテーブルが用意され、その周りに大柄なゴーレムが並び、その手には黒い板を持っていた

私とシジュウ様が席に着くと、ゴーレムが持つ板に何かが映った

コレは凄いと驚くそこには、醜い盾のエルフ達が映し出されていた


「動かずして四方の働きを見物することができます」


シジュウ様は茶を飲みながら楽しみましょうと笑われる

程なく私の前に人馬のゴーレムとぐねぐね動くゴーレムが3体ずつ現れ、さらにガラスのゴーレムを大勢引き連れた別のシジュウ様もいらっしゃった

ゴーレムを引き連れたシジュウ様はきつく髪を結われ、全身が黒尽くめで、肩当てや胸当てをされ、脚元などは男の様な格好をされている


「どうです?中々のものでしょう」


茶を飲むシジュウ様が自慢げに言うと今度は黒尽くめのシジュウ様がこちらにいらっしゃり私の前に立つ


「私は主人様のお世話をする者で戦はとんと不得手です。が、タマには体を動かそうかと」


そう言いながら黒尽くめのシジュウ様は黒い手袋をつけながらふふんと笑い、茶を飲むシジュウ様がそれを手伝った


さてそろそろでしょうか

シジュウ様が正門の方を向き

私は耳を澄ませる

シジュウ様が私の肩を叩き、テイの映る板を指差した

板の中のテイは門前に立ち、松明を持って迫る集団に声をあげた


「止まれ!この先は主人様が治める地!用があれば日が昇ってから出直せ!」


一瞬止まった集団はまた前へと進み出し

テイは門の前で微動だにせず

その距離は石を投げれば届く程までになった


「魔法を使う女はいるか!」


集団の中から野太い声が響くが、テイはそれには答えず集団を睨む


「怯えて隠れたか?今回はこちらにも賢人がおるぞ!地に伏せ財を捧げ出せば命までは取らん!主人共々出て来て詫びよ!」


テイは怒気をはらんだ声で返す


「お前がレルとやらか?私の飼い犬と同じ名だな!私の飼い犬の方が賢そうではあるが!」


集団に領主の息子の姿は見えず、私が板の中を隅々まで探すと、後ろの後ろに足を添え木で固め馬に乗った領主の息子をようやく見つけることができた

野太い声の主は馬に乗り鎧を着ていて領主の息子とは別の男だ


突然音も姿もなく矢が飛び、テイの外套に突き刺さる


「賢人がいると聞こえなかったか?愚か者」


野太い声はテイの外套を貫き心の臓まで達したであろう矢を見て嘲笑った

その時

矢はポトリと落ち

テイはだから何だと言う顔で集団を睨み返した


「布切れ一枚貫けんとは、子供の遊びか?」


呆れてしまうといった口ぶりのテイ


お前も賢人かと驚いた野太い声の主は弓兵達を前に出すと、従者にまだ火の手は上がらんのかとイラついた様子で声をかけていた


シジュウ様が今度はセンの映る板を指差す

そこには大勢のヤクザ者が倒れ

幾人かがセンの前でガタガタと震えながら命乞いをしているところだった


「頼まれただけなんだ!」


センは震えるヤクザ者の一人を鞭で打つ、そのヤクザ者は打たれたところから裂け落ちこと切れる


「お願いだ!金で雇われただけなんだ!」


センは震えるヤクザ者の顔を爪先で蹴り上げ、顔を覗き込む


「どうした?ガンバレガンバレ、御居館に火をかけるのだろう?そら、相手は小娘一人ではないか?大の大人が小娘に尻込みしてどうする?」


「あんたみたいな腕利きが居るなんて知らなかったんだ!」


再びセンが鞭を振るうと、別のヤクザ者の顔が消し飛んだ


「そうか、知らなかったか」


また別のヤクザ者の首が飛ぶ


「それは悪いことをしたな」


さらに一人、頭を吹き飛ばされ

ついにはヤクザ者のカシラと思われる男ひとりになってしまった

センは足元に転がる樽をヒョイと持ち上げると、ヤクザ者のカシラに声をかけた


「這い蹲り己の行いを悔えば許してやろう」


それはそれは優しい声で

それを聞いたヤクザ者は身を投げ出し俺が悪かったと泣き、赦しを乞うた


「ダメだ」


センは笑顔でそう言うと、担いだ樽をヤクザ者の頭に振り下ろし、ヤクザ者の頭は樽とともに砕け散った

センは飛び散った樽の中身に松明を投げ込み、それは燃え上がる


「さて、コレで盛り上がるだろう」


センは満足げに頷いていた



今度はテイの映る板に視線を戻すと野太い声の主が裏手から上がる炎を見て待たせおって!と唸り鐘を鳴らす

その鐘の音にを待ちわびたように屋敷の左右から物陰に潜んでいた男達が御屋敷に押し寄せる


「如何に腕利きの賢人とて四方からではどうにもならんだろう」


野太い声の主は勝ったとばかりに嘲笑う

テイはそれを聞き、それは良かったなと言いながら足元に転がる山の様な矢の中から一本を拾い上げた


「今後活かす機会もないだろうが、弓の使い方という物を見せてやろう」


テイは背負った弓を手に取り構える

戦装束の集団は無駄と知りつつもテイに弓を射かけては外套に阻まれ、顔を狙え!との指示も深くかぶったフードではどうにもならない様で

テイは集団の中ほど目掛け、ひどく軽く矢を引き放つ

矢は、ひとりふたりと貫いて行き、その奥にいる賢書を持つ賢人の胸を射抜いた


「矢の手入れという物は手間ばかりかかってな、しかし今日はその心配をしなくてすみそうだ」


唖然とする集団をよそに、テイは次の矢を拾い上げる


「怯むな!斬りかかれ!」


野太い声を聞き弓兵は下がり、男達は剣を抜き槍を構える


「これを待っていた」


テイは矢を捨て、魔人刀に手をかけ目深に被ったフードをジャマだとばかりに払いのけた


「エルフか!忌々しい!」


野太い声はテイの姿を見て吐き捨てると

かかれ!と叫ぶその瞬間

最初の一列が切り倒された


男達も野太い声も唖然とする

何が起こったのか分からぬのだ


私もハッキリとは見えなかったが、テイは魔人刀を抜くと前列に飛びかかり、端から一文字に切捨て、元の位置に戻り、魔人刀に付いた汚れを振り払い、魔人刀を鞘に戻した

それを「かかれ」のかの字もいい終わらぬうちにやって見せたのだ



テイの早業に驚く私を、シジュウ様がこちらも見頃だとリヨが映る板を勧める

そこには怯え立ち尽くす戦装束の男達と、外套を脱ぎ捨て、両手にその身体には不釣り合いなナイフをもち、天を仰ぐリヨ


「分かっただろう?力とは強さだ、力とは速さだ、力さえあれば守りなど要らぬのだ」


リヨは両手を広げ男達を追い詰める

ひとりの男が叫びを上げ槍をリヨの腹に突き立てた

突き立てたのだが、穂先は壁でも突いた様に弾かれ、男はリヨの前に蹴躓く

その勢いで兜が脱げた男の顔はまだ若く、フウや私と変わらぬ年頃に見える


「皆殺せとは言われてはいないからな、若く勇気のあるお前は見逃そう」


リヨはその男の横を通り過ぎ

そして姿が消えた

速すぎて全く見えなかった

それは先程のテイの比ではない


いつの間にかリヨは男達の真ん中に立ち、それに合わせる様に十人ばかりの男が倒れる

残された男達は悲鳴をあげ逃げ惑い

リヨが姿を消すたびにその人数は減っていく


「この短刀は慈悲の刃と言ってな、軽く触れればそれだけで命を奪う」


リヨはいつの間にか先程の若者の前に立ち、己のナイフを見せる

若者はガタガタと震え、助けてくれとリヨの顔を見上げて泣いていた

参ったな、リヨはそう呟き手近な男から順に斬り伏せ、若者一人を残し屋敷へ戻る


「悪くはなかったのだが」


何故かリヨは気落ちしている様だった



シジュウ様はふむと頷きキィの映る板に視線を変える、そこにはキィ以外の人の姿はなく

なんだかよく分からないモノがそこら中に飛び散っているだけで

その真ん中で全身を赤黒く濡らしたキィが、やり過ぎたかと言いながら仁王立ちで高笑いを上げていた




「それではそろそろ私も良いところを見せるとしましょう」


シジュウ様はそう呟き

黒装束のシジュウ様が真黒な面を被りゴーレム達の先頭に立ち正門へ向かわれた


テイの映る板を見ると、男達は遠巻きにテイを囲み、チンチンと魔人刀を鳴らしながら、どうした掛かって来ぬのか?と嘲笑うテイを攻めあぐねていた


「間も無く館に火が燃え移り、お前の背後からも矢が飛ぶぞ!」


野太い声は、幾らか人数が減ったとはいえまだまだ軽く百人を超える男達を率い、意気は高い


「ああそうか、そうなると良いな」


対するテイは最早ヤル気など失せた様に見える

テイは耳をすます様なそぶりを見せると、頃合いかと呟き、門扉の前まで下がる


「さあ!お前達の男ぶりを見せてくれ!」


テイは嬉しそうにそう叫ぶと門の脇まで下がり、膝を付く

何だとにじり寄る男達

その男達が異変に気付き足を止める

門扉が静かに開き、黒装束に黒仮面と異様な出で立ちとなったシジュウ様に率いられたゴーレムが現れ、男達は息を呑んだ


「レーレンのナントカは居ないのか?」


シジュウ様のよく通る声が静まり返った門前に響く


「ナントカは少しばかり足を挫いただけで臆病にも隠れてしまったと見える」


シジュウ様は大袈裟に両手を広げ、笑う


「あの時の魔法使いか!」


人をかき分ける様にひとりの男が馬を進め前に出た


「貴様だけは許さぬぞ!この足の恨み!貴様は裸に剥き!人前で獣に犯させ!殺した後は犬に食わせてやる!」


領主の息子の言葉を聞き、引き上げかけていたテイが鬼の形相で振り返るが、シジュウ様がそれをたしなめる


「それは良い、では先日の続きをしようではないか?」


そう言ってシジュウ様が前に出る

バカめと呟いた領主の息子はドロン!と叫び、おお!と答えながら野太い声の男が割って入ると、シジュウ様に何かを浴びせかけた


「賢人が魔法に備えて作り出した魔封じよ!コレでお前もただの女と変わりないわ!」


高笑いする領主の息子と、まだこの様なものを使っているのですかと落胆するシジュウ様

シジュウ様は、もとよりお前らに術など使うつもりなど無いとため息を漏らす


「しかし、少しばかり汚されて腹が立ちました」


そう仰り男達に手のひらをかざす、すると数人の男が姿が見えぬ程吹き飛んだ


「さて、もう術は使わんから安心して掛かってこい」


唖然とする男達にシジュウ様は手招きし、構えをとる


「私の流儀は徒手空拳、遠慮などせず掛かってこい」


シジュウ様の挑発にドロンと呼ばれた野太い声の男がいきり立った


「女だからとて容赦せんぞ!」


ドロンは馬を走らせ槍をシジュウ様に突き立てた、その瞬間

シジュウ様はふわりと飛び上がり、馬の首を蹴り飛ばす

文字どおり馬の首は飛んで行き、ドロンは放り出された


「昔、繞鉢を蹴って鳴らすことに凝っていたのですが。意外なところで役にに立つものです」


シジュウ様はステップを踏む仕草を見せておどけていた


「化け物か!」


驚く領主の息子や男達

それを聞きシジュウ様は笑う


「お前達の方が余程化物に見える」


笑うのをやめたシジュウ様は、楽には死ねぬぞ?と言い放ち、門前に控えていたゴーレム達が恐ろしげな雄叫びを上げる

ぐねぐねするゴーレムは人馬のゴーレムに次々と飛び乗り

それを合図に人馬のゴーレム達が槍を構え駆け出す


人馬のゴーレム達は馬も男達も跳ね飛ばし踏み潰す、さらには構えたその槍からは、見えぬ何かが次々と放たれ、訳も分からぬまま男達は消し飛ばされていく

人馬のゴーレム達が領主の息子が引き連れた男達の中を駆け抜けると、ぐねぐねと動くゴーレムがその背から飛び降り、男達に襲いかかる

ぐねぐねと動くゴーレムは両手に円形の刃物を持ち、あらぬ方向から斬りつけ切り裂く

逃げようにも自分たちが来た道は人馬のゴーレムに塞がれてしまい、盾かと思われていた物からは炎を吹き上げ近く者を焼き殺していた


散り散りに成り、逃げ惑う男達

その男達も助かりはしなかった

いつの間にか姿を消していたガラスのゴーレムたちが、其処此処に身を潜め暗闇の中から襲いかかっては消えてを繰り返しているのだ

その光景を映し出す板をシジュウ様と二人茶を飲み眺める

何とも現実味のない光景だ


「アレらがまだいた頃はあの様に戦っていたのです」


シジュウ様はどこか懐かしそうに呟かれる


「あんなに強いのに滅んだのですか?」


「あぁ、アレではワンワンとその一族の前では的も同然。ハナから勝ち目の無い戦を仕掛けて来たのです」


ほら、そろそろ終わりますよとシジュウ様は板を指差す

そこは、最早動く者の方が少なく

ゴーレム達は包囲を狭め

領主の息子達は追い詰められていた


ドロンと呼ばれた男は周りを見渡すと一点を指差し「走れ!」と叫び、領主の息子が乗る馬の尻を叩く

領主の息子と残った男達はその一点を目指し駆け出し、次々と倒れながらも領主の息子を含めた数名が囲いを破り逃げ果せた

一人残ったドロンは慈悲を感謝するとシジュウ様に頭を下げ

シジュウ様も忠節大義であると答えた


「しかしこの身は逃げ出すわけにはいかん!」


ドロンは槍を構えシジュウ様に一騎討ちを望む


「見事です、しかし主人を見る目はなかった様だ」


いざ!と叫びドロンが突き出す槍をシジュウ様はサッとかわし、爪先で突き上げる様にドロンの顎を蹴り上げる

そのままドロンは宙を舞い

おかしな方向に首を曲げながら倒れた


「さて、思いの外楽しめました」





茶を飲むシジュウ様は立ち上がり

夜の茶会と洒落込みましょうと私を連れ御居館へと引き上げた


玄関にはエルフ達が控えており、続いてゴーレムを率いた黒装束のシジュウ様もお戻りになられた

ゴーレム達は次々にやって来たシジュウ様に水を浴びせられ、その汚れを落としたが、おかしな物を浴びせかけられた黒装束のシジュウ様と返り血を浴びたリヨ以外の三人のエルフ達は浴室へ向かった


「リヨ、お前も汗を流してこい。スズも湯を浴び寝間着に着替えてくるといい」


シジュウ様は夜の茶会の準備があると言い、奥へ行かれる

着替えを持ち脱衣所へ行くと、エルフ達は、いやいや腹が減ったなどと言い合い笑っている

いくら広い脱衣所とは言え、この人数では狭く感じるモノだと思いながら、私はシジュウ様が黒装束を脱ぐのを手伝った

助かりましたと仰るシジュウ様の黒装束を洗濯箱に入れ、私も服を脱ぐ

脱ぐのだが

何故かエルフ達は浴室へ向かわず、服を脱ぐ私のことをちらちらと見る

同性とは言えやはり裸を見られるのは恥ずかしく、隠れる様に裸になった

それを見たエルフ達は何か言いたげな顔をし、シジュウ様を見たが、シジュウ様は何も言うなと仰り、どうにかしようとは思っているのだと続けられた

私は脱いだ下着をカゴに入れるとシジュウ様の手を引き浴室へ向かった

エルフ達はシジュウ様が浴室入るのを待っていたようで、皆それに続いた


私がシジュウ様の御髪を洗うのを手伝っていると、汗を流すテイが話しかけて来た


「今度、私と大大都へ出向い服をみてみないか?安くて品揃えのいい店が沢山あるのだ」


森の中の服屋となれば是非行ってはみたいのだが


「休みの日に日帰りで十分だ、どうだろう?」


テイは随分と熱心に誘って来る


“出来ればお願いしたいのですが、シジュウ様のお許しを頂かなくては”


「構いません、行きなさい」


シジュウ様はアッサリとお許しを下さった


「次の休みにでも行くといい、案内は任せる」


テイはお任せをと頭を下げた


湯につかるキィはリヨが何も言わず電気のボタンを押したので何事だと飛び上がり、リヨがなかなかいいものだぞ?と言うが、お前と私の体の作りを一緒にするなと叫び湯船から逃げ出した

テイとセンは丹念に化粧を落としていた

私はシジュウ様の背中を流し終えてから湯船に浸かり、全身を襲う刺激を楽しむ

そんな私をおかしなものを見る目でキィが見つめ

テイは一瞬だけ湯船に浸かると飛び出してしまった


私が湯船から上がると、すぐさま電気は切られ、エルフ達が湯につかる

リヨはのぼせたと言って脱衣所の長椅子に裸で横になっていた

私が髪を乾かしていると、シジュウ様が浴室から出られ、そろそろ用意もできたと仰り、皆食堂へ迎と言われる

エルフ達は洗い髪もそのままに肌着をまとい食堂を目指した


「どうしました?お前も行きなさい」


シジュウ様は髪を乾かす私に声をかけられたので、私は、シジュウ様のお仕度を待とうかと思いますと答えた

するとシジュウ様は私はこのまま部屋で休みます、早く行きなさいと笑い、裸のままゴーレムやシジュウ様達のための部屋へ向かわれru


私は後を追い声をかける


“おやすみなさい、シジュウ様”


「ええ、おやすみ」


シジュウ様は振り返り笑うと、奥の部屋へと去って行った




食堂に着くとエルフ達は待ちかねたぞと声を出し

テーブルの上にはよく冷えた酒や弾ける飲物などが並ぶ

菓子やつまみも所狭しとひしめいていた


“茶会ではないのですが⁈”


驚く私にセンが、しぶ〜い茶がよければそうするが?と私が見つめる氷菓を隠すフリをしてみせる

焼きたての甘くて柔らかい、子供の日に食べた菓子を持ったシジュウ様が現れ、揃ったのならば始めましょうと仰り

エルフ達は酒を

私は氷菓を手に取り夜の茶会の幕が上がった


シジュウ様は柔らかい菓子を切り分けながら余り遅くなるなよといい

私がハイと答えると、お前では無い、盾に言ったのだと笑う

テイが真面目な顔で、シジュウ様、日が昇るまでは夜でありますと答え、己の言葉に我慢しきれずに笑い出した

シジュウ様は好きにせよと呆れ

私には、スズはほどほどに切り上げるのですよとクギを刺す

そしてシジュウ様はエルフ達に向き直ると、しかしこれらを残す事は許さぬと言い放ち

下着の上に肌着を羽織っただけのエルフ達はオオ!と答え笑った





酔ったテイが私に酒を飲まそうとしてシジュウ様に首を切り落とされかけた話はまた別の話


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