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日常:ジジ抜き:ジャンケン

天真爛漫に見えて、結もこの部の部員らしく少しは頭が切れる。

このじゃんけんにおいて、偶数枚数の五人は積極的な行動を起こすつもりはないはずなのだ。八分の七の確率で望み通りになるのだから。

ーーつまり、奇数枚数の三人の勝負なのです! そう思って彼女は五人にテレパシーを飛ばす。


(ぱーだして)


結は一夫に向けてニッコリと笑った。五人は負けたい。そして結は勝ちたい。利害は一致しているのだ。五人はこれに従わない理由がない。

結は五人にテレパシーを送ったことによる多少の疲れを感じながらも、満面の笑顔を浮かべていた。

一夫はその様子を見て、一年生の二人に対してちょっとやりすぎじゃないかな、と思った。

その二人の一年生、このみと飛鳥は結のテレパシーに気づけないだろうし、亜空間製作と浮遊という超能力ではじゃんけんに勝つことには役立たない。それに、テレパシーに気付けてもその内容は絶対にわからないのだから。


飛鳥は高い位置からテーブル全体を見渡しながら異変に気付いていた。五人が一斉に少し反応したのだ。

ーーこれは夏目先輩がテレパシーを使いましたわね。そう気づき、結の方をちらりと見た。いつもより笑顔が大きいように思えた。

飛鳥はテレパシーに気づいた上に、一夫が思っているよりも賢かった。結のテレパシーの制限、ぴったり五文字という縛りがヒントだと飛鳥は考えた。

この状況で、五人に伝えるべきことは、自分が出す手、または相手に出してもらいたい手。

つまり、五文字の間に二つの情報を入れなければならない。何の手かという情報と、相手か自分かという情報だ。

この二つの情報を入れようとすると、五文字ではギリギリだろう。だから『グー』『チョキ』『パー』のうち三文字のチョキが選ばれる可能性は低いと推測される。

もちろん、あくまでも可能性の話でしかないことを飛鳥は自覚している。

しかし、圧倒的優位にある結に対して一矢報いるにはこの程度の可能性に賭けなければならないのだ。

そして自分がグーを出すというのか、相手にグーを出せというのか、だ。

三文字でできうる言葉を考える。

「ぐーだすよ」「ぐーだすね」「ぐーでいく」「ぐーだして」「ぐーだせよ」「ぐーでよろ」

はっきり言って、どちらの可能性も同程度としか言いようがなかった。

だから、飛鳥は結の性格を考えた。相手に考えてもらうよりも、自分で全てやってしまおうという性格。積極的に意見を言う彼女の性格。そこから、相手の手の指定をしただろうと、決めつけた。

「ぐーだして」あるいは「ぱーだして」、そう推理した。

それに対応して結が出す手は、パーまたはチョキ。

ならば出す手は一つ、パーならば勝ち、チョキならばあいこになる手……。

ここまでの思考に飛鳥は一秒と少しを要した。


「「最初はグー」」


八人の拳が机の上で振られる。


「「じゃんけん、ポン」」


その掛け声とともに、八つの手は形を変える。

偶数枚の五人は全員がパーを出した。結は作戦通りチョキを出した。結の作戦に気付けなかったこのみは、パーを出した。そして飛鳥は、チョキを出した。

飛鳥は賭けに勝った。

確率論に過ぎない仮定に仮定を重ねた推論であったが、彼女は結のことを勝ち誇った目で見た。

圧倒的優位にあったはずの結を、純粋な運のジャンケン勝負の場に引きずりおろしたのだ。喜ばない方がおかしい。

しかし、結にとっては驚くべき結果ではなかった。一回戦で勝てるとは思っていなかったのだ。自分の思い通りにならない二人、このみと飛鳥について、出しうる手は、三掛ける三で九通り。

その中で一回で勝ちきれる手は一つしかない。二人ともグーを出す手だけ。つまり、九分の一の確率に過ぎない。

だが、それでも運だけの勝負を強いられる残り二人と比べれば圧倒的優位。負けるという可能性はゼロだったのだから。


と、結ちゃんはそう考えたのだろうな……幻太郎は、自分と他の偶数枚の四人がパーを出し、結がチョキを出したことを見ながら思った。

結ちゃんの作戦は悪くはないが、まだまだだなあ、と微笑んだ。

負けを望む五人を一斉に負かすのは、作戦としてうまくない。

一回目の勝負は確かに勝率を上昇させられるし、負ける可能性はゼロにできる。けれど、二回戦目以降は、今実際にそうなっているように、純粋なジャンケン勝負になってしまう。

俺が結ちゃんだったなら、一人にパーを出させ、他の四人には自分と同じチョキを出させる。そうすれば、二回戦目以降も同じ戦略を用いて、負ける可能性ゼロの状況を五回戦目まで継続できた。このみちゃんと飛鳥ちゃんは、三分の一の確率を五回切り抜けてからでないと、結ちゃんと対等の勝負にならないのだ。

そんなことを考えながら幻太郎は軽く頷いていた。

教え甲斐があるなぁ、可愛いなぁ、と益体も無いことを考えていた。


そんな幻太郎の妄想も知らず、結は飛鳥と純粋なじゃんけん勝負を始める。

これは、完全に運の勝負である。純粋なフィフティーフィフティーのゲーム。


「最初はグー、じゃんけんポン!」


グーとチョキ、飛鳥がじゃんけんに勝った。

まだまだだね結ちゃん、と幻太郎は優しい目で結のことを見ていた。


(まけちった)


結は、一夫の方を見て小さく舌を出した。



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