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彼女の何かが終わった日

構想はあるけど多分連載が続かないシリーズその2。うん、多分続かないね。続くとしたらPartyBlood's区切りつけてからだね。早くアレも次回を出さなければ……

 燃え盛る、燃え盛る、燃え盛る、燃え盛る。何もかもが燃やし尽くさんと、炎が総てを飲み込んでいく。


「助けてくれ!畜生!なんだこれ、地獄じゃねぇか!!」


 あぁ、そうか。ここは地獄なのか。


「右腕は?私の右腕は何処だぁ!!」


 多分、貴方の腹部に刺さっているそれですよ。


「クソ!誰か火を消せ!軍の連中はまだ来ないのか!?」


 一番冷静ですね。でも、多分来ても間に合わない。


 きっとこれは悪夢だ。こんなものが現実である筈がない。悪夢、なら眠ろう。そうすれば目を覚ましさえすれば………


「立て、走れ」


 短く鋭く、そしてはっきりと兄の声が響き現実に立ち返る。


「兄……さん」

「走れ、往くんだ!ここから一歩でも遠くに逃げろ!」


 そうして、兄はこの災禍の原因に目を向ける。兄を止めなければならない。自分の兄が強いことは知っている。だが、あんなものに勝てる筈がない。

 それは一言で言うなら鋼の悪魔だ。鉄の鬼神だ。無理だ。兄が全身全霊で立ち向かったとしても死ぬ未来しか考えられない。


「兄……さん」

「大丈夫。だから泣かないで」


 こんな異常事態にも関わらず兄はいつもの優しげな声で語りかける。それに安堵を覚えたのは一瞬だった。

 大地を切り裂く光条が放たれる。それは鋼の悪魔からしてみれば戯れでしかない。だが、普通の人間からすれば過剰な暴力だ。

 鉄の両翼を広げ、矛のついた尾を鞭のように叩き付ける。人が泥のように血を撒き散らしながら砕け散る。口許と両腕の鉄の爪がスパークを放ち光線を己を造った施設ごと焼き払う。そこは自分と兄の家でもあった場所だ。


「あ…………あぁぁ」

「…………行ってくれ。君がここにいると僕が全力で戦えない」


 兄は大振りの銃槍を構え、鋼の悪魔は口の砲門を開き二つの閃光が激突した。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 数日後、完全に消し炭と化した施設に赴いた二人の男女がいた。


「また失敗だな。全く上手くいかない」


 どうしたものかな、そう彼女は笑う。美麗な白髪を揺らし面白げに肩を震わせる。


「…………シング、もう止めにしないか?君の成そうとしている事は多分だが上手くいかないよ。僕や君が傷付くだけなら黙認できたけど、これだけの被害を出した以上()めるべきだ」

「そうだな。そうかもしれない」


 彼女は親友の婚約者だった相手の苦言に肯定を返した。機械の義手をガチャリと鳴らし、彼の頬に手をかける。


「だが、それがどうした?上手くいかない?なら、別の手段を求めるさ。被害がデカい?なら、次は最小限の被害に留まるように尽力する。その上で今度こそ上手くやってみせる」

「その言葉は何度目だい?」

「さてな。そんなもの、とうの昔に忘れた」


 ククッ、とまた面白そうに彼女は笑う。笑う。屈託なく少女のように笑い続ける。

 その彼女を見つめ思い出すのは一人の女性の言葉。将来を約束した亡き恋人の最後の一言。


『ねぇ一つお願いしても良いかな?彼女が本当に危ないと思ったら止めてね。もう私には出来ないから』


 あぁ、分かっている。だから__


「だから私をここで倒すか?それも一つの選択だろう、な」

「ッ!?」


 眼前にもう義手は無い。その代わり存在していたものは一つ極光。原初にして最強の鋼核。


「やってみせろ。私は先に往く。どれだけの亡者の轍を積み上げようと止まらない。

 その上で私を止めたいのなら私の灰色の心臓を破壊するんだな。絶対値でこの私を上回り蹂躙してみせろ。お前ならばやれるかもしれないぞ、親友の忘れ形見よ」


 その光輝は留まる所を知らないかの如く煌めく。そう、だ。彼女を止められるのは現状二人しかいない。自分と彼女を主と仰ぎ見る一人の老武人。彼はきっと彼女とはもう二度と戦わないだろう。ならば、彼女に対する抑止力は己しかいない。

 だが、

 そこで、何かを察したかのように彼女は口を開く。


「妹の事ならば心配するな。私達の下らないいざこざに彼女まで巻き込む気はないさ。あの子が私と敵対するのなら話は別になるが、今はあの子を傷つける気は毛頭ない。お前を亡くした後も個人的な援助はさせてもらう」

「……ありがとう、シング」

「構わないさ。お互いこの手の後腐れは残したくはないだろう?」


 それに、と彼女は続ける。二人の間にはもはや殺し合う選択しか残されていない。のに関わらず彼女は穏やかな微笑を浮かべていた。


「私の唯一の友人の男だ。無下にはしないさ」


 シングと呼ばれた女性は二つに纏めてある白髪を翻し、己の武器を構える。


「来い。鋼核を創る時間ぐらいは待ってやる」

「あくまでも『対等』に……か。君らしいなシング。本当に君は変わらない」


 男も銃槍の鋼核を創り構えた。


「すまない。本当に申し訳ない」

「誰に向けての謝罪だ、それは?」

「さぁ。多過ぎてもう分からないや」


 男は鋼の悪魔と対峙した時と同様に駆ける。全力で。全霊で。己の総てで。しかし、


-キィン……!!


 別離の言葉も戦闘の戟音も一瞬でこの世界から消え去る。それほどまでに二人の戦闘力に圧倒的な差が出来ていた。


「さようなら、嘗ては私を理解できたかもしれない男よ」


 何も成せぬまま、何者にも至れぬまま男の命は途絶えた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


二十年後


「おめでとうございます、灯月ひづきさん。元気な男の子ですよ」


 鋼の悪魔や鋼核とは関係のない命が産声を上げる。


れいはどう?」

「名前の事か?でも、何でそんな」


 夫である男は自分の子の生まれた時間をを見て納得した。


「スゴいな。0時00分って何の偶然だ?」

「でしょ。なら、それに記念した名前が良いと思うの」

「事前に用意した名前は?」

「二人目につけてあげればいいわ」

「適当な……お義母さんになんて言う気だ」

「そこは頼りにしているわよ、旦那様」


 そんなやり取りをしつつ、男の方が結局折れた。


灯月零也ひづきれいや


 それが二人の子の名前となった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 この物語の原点(始まり)は誰も知る事の許されない悲劇(マイナス)でなければならない。

 この物語の終点(終わり)喜劇(プラス)のない二人だけの孤独でなければないらない。


 これはそれだけの物語。


 零を求め続けている漆黒と、

 理を越えんと足掻く純白の。


 総ての思惑が、あらゆる闘争が誰にも理解されない二人だけの孤独に収束せねばならない。

 ならば、それ以前は?鋼の悪魔は?原初の終着点は?そんなものは決まっている。ただの前座にしかすぎない。

 そして、前座はまだ続く。純白シロ漆黒クロを、漆黒クロ純白シロを、二人は己の対極たる光をまだ知らない。

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