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勇者の素質  作者: 篠竹
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1、骨折り損のくたびれ儲け

書きました。

これからも書きます。

 この大陸には、今でも勇者だとか伝説の剣だとかのおとぎ話が各地に数多く語り継がれている。

 大昔に武勲を挙げた騎士がいたのだろう。

 ずっと前に人々を苦しめた魔物を討った戦士がいたのだろう。

 その人となりや武器に尾ひれがついて、子どもが目を輝かせて憧れる理想が生まれる。よくある話だ。

 でも、今はただの空想でも、ルーツをたどれば強い力を持つ確かなものをつかめるはずだ。

 ―――と、僕は考えている。

 火のないところに煙は立たない。

 例えば、勇者の英雄譚の始点を探せば、本物の勇者を見つけられるはず。

 例えば、伝説の武器の起源を辿れば、神話の時代の剣を手に入れられるはず。

 

 今は平和な世界でも、これからどんな危機が訪れるかわからない。

 世界は―――僕は、絶対的な力がもたらす救世を求めて、旅をしていた。


 今回聞いた話は選定の剣のお伽話。

 森の深い奥地で、選ばれし者にしか抜けない伝説の剣が巨岩の台座に刺さった状態でいつか来る勇者を待っているという。

 とある情報筋でかなり有力な情報を手に入れた僕は、東方の森で川を超え藪に潜り土に塗れながら、ついに伝説の剣を見つけることに成功した、はずだったのだが……。


 「これは、すごい」

 転んでフレームを曲げてしまったせいでずり落ちそうになる眼鏡――左目のレンズは割れている、をあげながら、僕はようやく目的地にたどり着いた。

 小鳥がさえずり、そよ風が草を揺らし、大樹がざわめく。

 深い深い森の中心部にはまるでそこだけまるで別の世界がやってきたかのようにぽっかりと円い広場が広がっていた。

 広場は一面草原になっていて、小さな砦ならすっぽり入ってしまうくらいの広さだ。

 妖精が作ったのではないかというくらい神々しく、浮世離れしている空間だった。

 

 ひと際目を引くのが、広場の中心の咲き乱れる花。

 どの色の花でも、どの形の花でも、まるで何かを隠すかのように、花は狂ったように外に向かって花びらを広げていた。


 僕は確信を持ってその異様な花園に向かって足を進めた。

 身体のあちこちが痛んでいたし、お腹も空いていた。

 でも、この光景を見た瞬間、この旅の中で感じていた苦痛は全て忘れてしまった。

 

 故郷を離れ、数年間僕は冒険を続けてきた。

 路銭を稼ぎながら、大陸各地を巡って、伝説を追い求めてきた。

 騙されたこともあったし、死にそうになったこともあった。

 それでも旅を続けてきたのはこの瞬間のためだったんだ。

 苦労が、今日報われる。

 走り出しそうになりながらも、足を痛めていた事に気がついて少し早歩き程度のスピードで歩く。 これまでの旅路を思い出していると、目に熱いものがこみ上げてきた。

 

 花園にたどり着くと、すぐにその中に潜り込んだ。

 少し人より高めの僕の背丈より一回り高い花の中をかき分けていく。

 爽やかな甘い匂いがそこらじゅうからしたしどの花も美しかったけれども、今の僕に花を愛でる余裕などない。

 花と草たちが手足に絡みついて、思わず転びそうになる。

 まるで、僕がこの中に入るのを拒むかのように。

 でも、僕は進むのをやめなかった。


 旅を始めてから5年とちょっと。

 森に彷徨い――いや、探索に入って一週間目。

 僕はやっとのことで伝説の剣、らしきものを発見した。

 らしきもの、というのは自分の考える剣とは似ても似つかないカタチをしていたからだ。

 

 もしかしたら仕掛けがあったりしないか、となでたりさすったり持ったりしてみる。

 それらしきものは、ない。

 見つけたものが間違いなんじゃないかと辺りを見回してみる。

 それらしきものは、ない。

 

 「えーーーーーー・・・・・・」

 有力だという情報は確かなものだった。

 東方の森、中心の美しい広場、巨岩の台座。

 それと、台座であろう巨岩からにょっきり突き出た柄。

 でも、剣の名残はそれだけ。

 鋭い刃先も、輝く刀身もない。

 すべすべした白味がかった岩から、両手で持てるくらいの剣の柄が突き出ている。

 

 自分がへたり込んでいたことに気がついた。

 疲れきった身体は、衝撃の事実についに限界を迎えてしまったらしい。

 

 伝説の剣は、完全に台座と一体化していた。

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