ごす
朝一番で一成から届けられた文には今日の昼過ぎに直接伺うといった内容だった。
恐らく昨日の話の事だろう。
「今日、来るんですか? えーっと、それなら寝殿に上がってもらうとして、ここの渡殿とか掃除した方がいいですよね」
「あ、何かお食べになるなら、作るものも考えないと……」
「あぁ、姫様、それなら何か果物でもお出ししましょうか。昨日、市に行った時におまけで頂いた梨がありますよ」
そこへ、浜木が志木を連れてやってきた。
まだ、八歳くらいの腕白盛りの志木は外での仕事が好きで、率先して、汚れるような仕事をしてくれる立派な家人でもある。
「姫様っ、寝殿の周りの草むしりしてもいいですかっ」
伸びた髪をちょこんと後ろでひとくくりしている。失礼なことだと分かってはいるが、いつも志木と自分の弟の面影を重ねてしまうのは悪い癖だと自覚している。
「えぇ、お願いね。もし、梨が余ったなら志木も食べるといいわ」
「ありがとうございますっ」
早速草むしりに行ったのか、志木の姿はもうそこにはなかった。
「じゃあ、わたくしもここの室礼を変えるわ。皆は掃除をお願いね」
雪子の言葉に各々が動き始める。
ここの家人には、自分がこれからどうするのかを伝えた。あとは、返事を待つだけなのだ。
「…………」
目を閉じると、ここでの思い出が蘇ってくる。
いつも母の宿下がりには付いて来ていた。叔父も自分をわが子のように接してくれていた。祖父母も存命の頃はもっと人がたくさんいて、とても賑わっていた。
だが、それはもう、自分の力では取り戻すことは出来ないのだ。それならば、必要とする人にこの屋敷を譲って、使ってもらう方がいい。
覚悟は決めているのだから。