そらごと
まだ、日が落ちる前に帰ってきたが、門はしっかりと閉まったままである。梨壺からの使いが来るかもしれないので、浜木に頼んで内側から閉めてもらっていたのだ。
志木が内側から開けてくると言って、しばらく待っていると、大きな門がゆっくりと開く。牛車に乗っている雪子たちを降ろすためにとりあえず、寝殿まで入ってもらい階の所で降ろされた。
七尾と八代は料理の入っていた筥を抱えて台盤所へと向かい、小竹と夕凪は荷物を牛車から降ろしていた。
そこへ、足音を立てながら、浜木が急いでやってくる。
「姫様、姫様……!」
「どうしたの、浜木……」
「じ、実は……先ほど、梨壺からの使いが参られまして……」
「またですか! 全く、あそこも飽きないですねぇ」
隣にいた小竹がわざとらしく溜息を吐く。
「それで、姫様に用があって来たと申していましたが、姫君は参詣で今は居られないと返事しておきました……。宜しかったでしょうか」
「えぇ、構わないわ。わざわざごめんなさいね、浜木。あなたにまで迷惑をかけて……」
「いえ……。屋敷内には入れずに、外の門の前で対応しました。でも、使いの方はとても気がたっているようでしたよ。何か……そう、連れていかないと、お怒りに触れるのは自分達だと仰っていましたわ」
「まぁ、呆れる言い訳ですね。自分達がお咎めを受けないようにするために、姫様を連れて行こうとするなんて、今度会ったら一発殴りとばしましょう」
「もう、小竹ったら……。……他には何か言っていた?」
「確か、また来ると言っていましたよ。どうやら、姫様を梨壺へ連れて行こうと必死みたいでした」
「そう……」
どうやら、そろそろ梨壺の怒りの限界のようだ。
自身の思い通りにならないことがあるとすぐに周りに当り散らすことは知っていたが、まさかそこまで執拗にしてくるとは思っていなかった。
「皆さん、お集まりで、どうかなされましたか?」
一成達が西の対屋の方の階から上げって来たのだろう。
こちらへと向かってくる。
「いえ、大丈夫です。留守中に何かあったか浜木から様子を聞いていただけですから。……浜木、夕餉の準備は出来ている?」
「あ、最中でした。戻りますね」
「小竹、夕凪も手伝ってあげて」
「分かりました」
浜木についていくように、小竹と夕凪が動き出す。
「本当に、何もないようですので、ご安心を。……夕餉までは時間があるので、ゆっくりしていて下さい。わたくしは寝殿の方で貴明様に今日のお礼の文を書きたいと思います。宜しければ明日、届けて下さいませんか」
「え、えぇ。いいですよ」
「今日は本当にありがとうございました。……では、暫く失礼いたします」
一成に頭を下げてから踵を返す。
少し、不自然に思われただろうか。
背中に視線が刺さるのは分かっているが、踏み止ることも振り返ることもせずにただ、寝殿の奥へと入っていき、畳の上へと転がるように体を倒す。
「…………」
今日は一日、本当に楽しかった。
屋敷内から紅葉を見ることはあっても、外に出て紅葉狩りをすることは初めてだった。きっと、忘れる事はないだろう。
だが、そんな日々をまた、迎えるためには今の問題を片付けなければ来ない。雪子は体を起こして、文台へと体を向けてから、墨を硯ですり始める。
今はとにかく心を静めて、どうすれば縁が切れるのかだけ考えるのだ。自分だけではなく、この屋敷に住んでいる者に関わることになる前に片付けなければならないのだから。




