ちょうやう
今日は遅くまで仕事があったのか、明次と三成が帰ってきたのは夕方近くだった。
話を聞くと宮中での宴を途中で抜けて、こちらへ速攻で帰って来るとの事で、一成が無念そうな顔をしていたと明次が笑って言っていた。
しかも、貴明も来るらしいとの事だ。
寝殿前の簀子にはすっかり宴の準備が出来ていた。周りには菊の花が飾られており、良明の提案でかがり火を庭で焚いているので、池の水面まで綺麗に見える。
日が沈む方向を見ながら、雪子は物思いに耽る。美しいと思うほど、切なく思うのは何故だろうか。
早く一成に帰ってきてほしい。
一緒に宴を楽しんで欲しい。
そう思ってしまうのは何故だろうか。
「姫様、一成様は遅く帰られるとのことですから、もう宴を始めても宜しいでしょうか」
「あ、えぇ。わたくしも行くわ」
この宴のために小竹達は色々と頑張ってくれたが、皆、とても楽しそうに準備していた。
目の前に並べられた料理には子ども達が釣ってきた魚を煮たものや、季節の野菜を蒸したものが様々並んでいる。
この量を浜木と小竹で作るのは大変だっただろう。
どうやら宴はすでに盛り上がっているらしく、子ども達は楽しそうに料理を食べ、お喋りに興じている。普段なら、自分も小竹も浜木も酒を飲むことはないが、今日は珍しく飲んでみようということで、自分達の杯も用意している。
「あー、次兄達だけお酒ずるい!」
幼い子ども達には水の上に菊を浮かべたものを渡していた。
「ふふん。まぁ、お前達も元服するまで我慢だね」
得意げに菊の花びらが浮かべてある酒を一気に飲み干す。隣に座っている三成は飲むよりも食べる方が好きらしく、栗と粟を混ぜて炊き込んだものを食べている。
女の子達はというと、菊の花を頭に飾ったりして楽しんでいるようだ。階の下には小夏丸も来ており、明悟達が栗と粟を混ぜ込んだものを食べさせてやると味が気に入ったのか、もっと食べさせろと尻尾を小刻みに振っていた。
「こういうのも、たまにはいいですねぇ」
お酒を飲んでいるはずだが、全く顔が赤くなっていない浜木はしみじみと子ども達を眺めながらそう言葉を漏らす。
「まぁ、たまになら、いいですね。たまになら」
一方、小竹はすっかり酔いが回っているのか、顔を少し赤らめている。あまり、お酒は勧めない方が良さそうだ。
「そうね……。もう少し、葉が赤くなったら、ここで紅葉狩りをしてもいいわね」
雪子は楽しそうにはしゃいでいる子ども達を見て、小さく微笑んだ。ささやかなものしか出来ないが、また宴をするなら、きっと喜んでくれるだろう。
「あ、姫様、見てください。月が出てきましたよ」
「あら、本当。昼間は晴れていましたからねぇ。綺麗に見えますよ」
「……綺麗ね」
秋の月はとてもはっきり見える。
だが、冬の方がもっと綺麗に見えるだろう。冬なら雪見をしながら月を見てもいいかもしれない。その時は、一成は一緒に居てくれるだろうか。
居てくれると嬉しいと思う。雪子は口元を少しだけ緩めて、周りには気付かれないように袖で隠していた。




