うたげ
左近衛府の詰所で貴明とこの後の宴の事について話していると、舎人姿の明次と三成がこちらに気付いて駆け寄ってくる。
「あ、貴明兄、おはようございまーす!」
「おはようございます」
「おう、明次は朝から元気だなー。三成はいつも通り眠そうだが」
「元々、こういう顔です」
「ねぇ、ねぇ、一兄! 今日、屋敷で宴があるんだって! 重陽の宴!」
明次が嬉しそうに腕をぶんぶん上下に揺らしながら早口で話す。
「三条のお屋敷で、ということかい?」
「そうだよ! 出仕する前に七尾が来てさぁ、今日は重陽だから宴をしようかって姫様が言ってたって!」
「……ずるい」
興奮気味に話す明次を一成は唇を噛み締めて唸るように言う。
「なぁ、貴明。今日の宴は、私は欠席に……」
「させないからな」
半笑いで貴明が即答すると一成はがくっと肩を落とす。
「まぁ、さっさとこっちの宴を終わらせて行くか」
「行くかって……。まさか貴明も付いて来る気か」
「だって、そっちの宴の方が、気楽で楽しそうだしな。明次、三成。あとで俺も行くって言っておいてくれるか。こっちの宴を早めに切り上げて行くからって」
「了解! じゃあ、仕事に戻るねー!」
「じゃあね、一兄、貴明兄。宴、頑張ってね」
そう言って二人は颯爽と走り去っていく。
どうやらそれだけを言うために来たらしい。
「一成、あいつらに一本とられたな」
「……何が」
「あいつら、お前の悔しがる姿を見に来たみたいだったし」
そう言って貴明は意地悪く声を上げて笑う。もう、笑いたければ笑うといい。
だが、今日の夜にある宴には必ず参加してみせる。
「まぁ、今日は宮中内でやる宴だから、人ごみに紛れて退散するか」
「そうだな」
貴明の方も早めに切り上げて三条の方へと来る気満々らしい。それはそれで心強いが、姫君が貴明とばったり顔を合わせたりしないか心配である。
普通の姫君なら、男の前で顔を晒すことはないのだろうが、あの姫君はどちらかと言えば動く方が好きらしく、普段は扇で顔を隠していることの方が少ない。
自分でも心が狭いと思っているが、どうしても見られたくないと思ってしまう。
「おーい、一成。そろそろ仕事に戻るぞー」
「あ、あぁ……」
多分、そう言ったら大笑いされるので、絶対に言わないが。
だが、恐らく貴明の事だから、自分の姫君に対する感情が何なのかを悟っているかもしれない。深く息を吐きながら、一成は仕事へと戻っていった。




