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●不幸を呼ぶ犬

作者: かや博史

不幸を呼ぶという、不気味なドーベルマン。

やがて、恐ろしい事件の真相が姿を現す。


●不幸を呼ぶ犬


私をひいきにしてくれている社長から電話があった。

占い師にも、立派な事務所を構えている方もいるが、

私みたいに自宅で、電話一本で使いっぱしりの占い師もいるのだ。

特にこの社長には逆らえない。


昼も食べずに、事務所に伺うと、

さっそく一人の男性を紹介された。


「こちら、高島さん(仮名)といって、ベイカリーの社長さん。」


ベイカリーというと耳慣れないかもしれないが、

要は、パン屋さんを2店経営されている人である。


様子からして、社長はそのパン屋に出資している様だった。


私の所にはよく動物に関しての相談事が舞い込むが、

その犬や猫が良い運をもたらしたり、

亡くなった犬や猫の恩返しなどの話が持ち込まれる話がほとんどであるのだが、


その点でも、今回の話は異例の事件だった。


パン屋の高島さんは、いきなりこんな事を聞いてきたのである。


「かやさんは、ジンクスを信じますか?」


「信じる時もありますよ。」と答えた。

無難な答えだ。


高島さんは続けて、

「一匹の犬が、店をつぶすという力を持っているなんて事はありますか?」

と、少し驚く事を聞いてきた。


私は、少し考えてから、

「その犬を虐待死させたとか、ひどい殺し方をされたとかしましたか?」


「いえ、その犬は、今も生きています。

 私の店のはす向かいに住んでいますよ。」


「生きている?」


生きている一匹の犬が、店をつぶすというのだ。


しかし、高島さんも社長も、真面目顔で私の反応を待っている。


こういう時の私の返事は決まっている。


「どうして、

 一匹の犬が、店をつぶすと思うのですか?」

と逆に尋ねた。


高島さんは、テーブルに出されていたお茶を一気に飲むと、

彼に降りかかった不運とその犬(ドーベルマンの様な犬)の話を話し始めた。


彼は17年前に町中にパン屋を開き、順調に乗ると、

半年前、街はずれの街道に面した所に、2号店兼倉庫を建てた。


それが、あの犬のはす向かいだったのだ。


そこに店をオープンさせてから、その店に常に不運が付きまとうと言う。


そして先月、決定的な出来事があったという。



午後3時頃だった。


出来上がったパンを、棚とテーブルの上に並べいると、

自動ドアが開き、一人お客が入ってきた。



と、その時である。



開いた入り口から、

はす向かいの犬が飛び込んできたのである。


どうやら、散歩中の飼い主の手を離れてしまった様だった。


犬は、テーブルの上に飛び乗ると、

ピザパンやジャムパン、メロンパン、フランスパンなどを、

踏んだり、かじったり、舐めたり、床に落としたりと、

やりたい放題暴れまわった。


それに脅えたお客は、

厨房の中に逃げ込み、


店の従業員も

飼い主が入って来るまで、怖くて店の奥に避難していた。


被害にあったパンなどの弁償は、その飼い主にしてもらったものの、

問題は他にもあったという。


それは、そこで働く従業員の奥さんによると、

あの犬には、前科あるのだというのだ。


あの犬に荒らされた店は、ことごとく潰れるという。


近くにあったラーメン店は、

その犬によく店前で小便をされていて、

やがて、客が来なくなり、潰れた。


そして、このパン屋がオープンする前にここにあった飲食店でも、

同じ事があったという。



あの犬が、その飲食店に飛び込んできて、

テーブルの上のお客の食べ物を荒らしたのだ。


その後、

その店は3ヶ月と持たずつぶれたのだという。


実際この店も、

あの犬に襲撃されてからというもの、

不可解な事が起こり、どんどん業績が下がってきているという。


業務用オーブンと発酵機の不可思議な故障や、

厨房でのボヤなど、

今まで本店では有り得なかった事が、この店では起き始めているというのだ。


裏口からヘビが厨房に迷い込んで、一時閉店になったり、

従業員が転んで、出来たてのパンを床に落として足を怪我した事もあるという。


いずれも本店では起きた事が無いことだという。



不幸を呼ぶ犬。


話を聞くと、私も正直少し怖くなってきた。


犬は大好きだが、なんとなくドーベルマンは苦手だ。


それに、

何軒もの店をつぶすパワーを持つという犬。


いずれにしろ、

話だけではまったく訳が分からなかった。


さっそく、2号店のパン屋に行く事になった。



「社長も行かれるんですか?」


「いや、ワシは止めとくよ。

 よろしく頼むよ。かやくん。」


社長は気軽である。

危なそうな場所には、絶対行かない。


今回もそのたぐいだろう。


昔出会った時は、どこでもかや先生だったのだが、

今や、社長の友人の前では、かやくんとなっている。

まぁ、いいけど。


私は高島さんが運転する車の後ろからついて行く形で、店に向かった。



今回に限っては、あまり気が進まないが、

とにかく、

不幸を呼ぶという、その不気味な犬を見ない事には始まらない。


雨が降ってきた。


幸先悪いな。嫌な予感がする。


高島さんのパン屋2号店は、やや町はずれの街道沿いにあった。


車が2台くらい駐車できるスペースが店の隣にあったので、

私たちの車はそこには止めずに、倉庫の脇の道を行き倉庫の裏に停めた。


車を降りると、私たちは街道に戻った。


「あそこが、犬がいる家です。」



高島さんが指さす方を見ると、街道を挟んだはす向かいに、

2階建ての庭付きのりっぱな家が見える。


普段は家の中にいるという、そのドーベルマンは庭には見えなかった。


彼によると、

時々、そのドーベルマンはあの2階の窓のカーテンをのけて、

この店をじっと見つめているという。


この店が以前ボヤ騒ぎがあった時も、

その犬がじっと、こちらを見つめていたと言う。


「今日は見てませんね。」と私が言うと、

「もうじき、散歩の時間だと思います。」と高島さん。


無理もないが、

高島さん、だいぶあの犬にナーバスになっているようだ。


犬の散歩の時間まで把握している。


「あの犬は、家を出たらいつもどちらの方向に行きますか?」


「あっちの方です。」


以前は、この店の前を通るルートらしかったが、

あの事件以来、この店の前は通らないという。


私はなるべく近くでその犬を診たかったので、ひとり街道を渡って、


その犬の散歩コースに陣取って、犬が散歩に出るのを待った。


15分くらい待っただろうか。 


店の中に居る高島さんが指を差して合図している。


どうやらあの犬が、家から出て来た様だ。



「来た!!」




門からドーベルマンと飼い主さんが、姿を現した。


大きさは、柴犬よりもやや大きいという感じの

黒と茶色のやや痩せ型の犬である。


多分ドーベルマンだろう。


高島さんが言っていた様に、散歩コースのこっちに真っ直ぐやって来る。


私めがけて、一直線にハア、ハア言いながら小走りだ。


ま、まずいか? まずいかぁ・・・。


と思ったら、

私の前の電信柱の前で止まり、

クンクンして、小便をかけて、また小走りし始めた。


小便かぁ。脅かせやがって。


どうやら目的は私ではなく、電信柱だった様だった。



私の前を通り過ぎたが、

意外と可愛い目をしていた。


それに犬を散歩に連れていたのが、

女子大生くらいのお姉さんだったのも意外だった。


高島さんの話によると、以前はお母さんが散歩に連れて行っていたが、

あの事件以来、娘さんが散歩に連れて行くようになったという。



それにしても、

普通の犬に見える。


犬が目の前を通っても、まったく恐怖感みたいなものが無い。



というより、

私がイメージしていたドーベルマンよりも可愛い。


優しい目をしていた。



飼い主がけしかけて、店を襲わせたとも考えられない。



こりゃあ、もしかしたら、

犬が原因じゃないんじゃないか。


という考えに傾き始めた。


私は店に戻る前に、ここで少し考える事にした。


今までの事をまとめてみよう。


仮に、犬が関係無いとして、改めて考えてみよう。


すると、2つの事が気になる。


◆2号店をオープンさせてから、常に不運が付きまとうと言う。


◆前の飲食店もつぶれている。


たしかオフォスで、2号店は居ぬきに近い設計で建てたって言ってたなぁ。


(居ぬきとは、前の店の状態のまま利用するので、新たに店を建設させるよりも、

 はるかにオープン費用が節約できる。)


つまり、不運はこの店から始まったのでは無いんじゃないか。


前の店の時から始まってる?のか。


そんな事を思いながら、私は高島さんの店に戻った。


「どうでしたか、かやさん?」


開口一番、高島さんが聞いてきた。


「まだはっきりとはいえませんが、

 犬の他に、何か原因があるかもしれません。」


「他に?」


「何ですか?」


「店の中を見せてもらっていいですか?」


「どうぞ」


こういう時は、まず、問題が起きた所を調べてみるのが鉄則だ。


この店で問題や不可思議な事が起きた所は、

◆業務用オーブンと発酵機の不可思議な故障


◆厨房でのボヤ


◆裏口からヘビが厨房に迷い込んで、一時閉店になったり、


◆従業員が転んで、出来たてのパンを床に落として足を怪我した。


上の4点だ。


まず、気になるのはボヤだ。


「ボヤはどこで起きたんですか?」


「こちらです。」


どうやら従業員の不注意でのボヤらしい。


「パン屋さんでも、油をこんなに使うんですね。」


「はい。コロッケパンとかカツサンドを作っているので。」


「なるほど。」


ボヤが起きた場所は、裏口の横にあり、

裏庭が見える窓があった。


「従業員さんが転んで怪我したのは、どこですか?」


「あっ、それもここです。」


「ここ? 裏口の前?」


「・・・・・」


なんだろうー。 偶然かなぁ。


上の4つの問題の内、3つが、

裏口が関係している。



不可解な事がよく起きる場所が裏口なのは、何かあるのか。


「ヘビが入って来たのも、この裏口ですよね。」


「はい、そこから入って来て、

 業務用オーブンの下に逃げ込んだんです。」


なるほど、業務用オーブンは床から5cmくらい浮いた感じでスペースがある。


そこに逃げ込んだのか。


私は、もうヘビはいないだろうが、

一応しゃがんで、そのオーブンの下を覗き込んだ。


今は綺麗になっており、ゴミも無かった。


しかし、

私が立ち上がろうした、その瞬間である。





臭いがした。



なんだろう、このニオイ。



「ん?」



「このニオイは!!!!」



動物のニオイだ。


「あのう、この部屋にペットとか入れますか?」


「いや、パンを作る所ですから、ペットなんか入れませんよ。」



「そうですよねぇ」


という事は、


ここに動物霊がいる!




動物というより、


これは、


犬のニオイだ。


こう言うと、私が特別鼻がいいとか思われそうだが、

この動物臭は、普通の人でも時々察知する事があると思う。


その証拠に、ここで働いている人に聞くと、

やはり時々、犬のニオイがしていたという。


よく、犬を可愛がって人が、

その犬を亡くした後、

ふとその犬のニオイを感じる時があるだろう。


それは、もしかしたら、

その犬の霊が、飼い主を見守りに来ていたりする。


さて、この犬の霊と、裏口の怪現象は関係があるのだろうか。



私は高島社長に言って、

この店、以前の店、及びこの土地が

何か犬と関係があるかどうか、調べてもらう事にした。



すると、2日後である。

社長から電話があり、驚くべき事実を聞かされたのである。




私は再び2号店出向いた。



社長が調べた所、

この店の前に潰れた飲食店が建つ前、

ここには、一軒のペットショップがあったという。



しかし、土地の賃料を何ヶ月か滞納して、経営者は夜逃げしたという。


夜逃げだけならお金の問題なので、

それだけなら良かったのだが・・・・



夜逃げしたペットショップには、

10数匹の犬が残されており、

その内の4匹が餓死していたという。


また、当時の従業員によると、


売れなくて、成犬になってしまった犬を殺していたというのだ。


その数は多く、詳しくは分からないと言う。




「そんな事が・・・」



私は言葉を失った。


犬達の無念を思うと、胸が痛む。



そこからは、容易に想像がついた。




多分、犬達が殺された場所、もしくは、埋められている場所、


もしくは、餓死した場所が、

今のパン屋の裏口あたりだったのだろう。



動物が沢山殺された場所や、埋められた場所に、

何の供養もされずに建物を建てると、こういう現象が起きる事があるのだ。


さて、問題はここからである。



どうするか。


裏口あたりを掘り起こして、

もしそこが、犬達が埋められている場所なら、

骨を掘り出して供養してあげたいところだが、

それには、取り壊しなどの費用もかかるし、

犬達が埋められている場所ではなく、

殺された場所もしくは、餓死した場所であれば、骨は出ない。



そうなると、費用だけかかってしまい、堀り損である。



私は社長に、

裏口を出たすぐの所に、

ペットショップで亡くなった犬達の為に、

供養する小さい墓石を建てる事を勧めた。


その周りに沢山の花を植え、

そして、少なくとも1ヵ月は毎日、

水とペットフードを供えてあげ、

安らかに眠る様にお祈りしてあげる様に言った。


また、それが終わった一ヶ月後に、

店の表に、散歩をされている犬様に水飲み場を提供してあげる事。


そして、そこに犬用のリードフックを設ける様にも進めた。


これは、いつか亡くなった犬達が、

供養してあげた事に感謝して、

この店の為に、犬を連れている人を

お客として呼んでくれるかもしれないと思ったからである。


そんな犬・猫の恩返しが、よくあるからだ。




今回の事件は、

噂というものは、実際に調べて見ないと分からないという事を思い知った。


不幸を呼ぶという犬の噂に始まって、それとは関係ない意外な結末となった。



話はこれで終わりだが、

最後に、どうしても付け加えたい事がある。


誰も謝らないであろう誤解された、ある一匹の名誉の為に・・・・


彼に、これに捧げたい。


よかったら、下記も合わせて読んで欲しい。



●ドーベルマンの勇気


沢山の犬が殺されていた事は、周りの住人には気付かれなかったという。


しかし、

たった一人だけ、それに気づいていたものがいる。


いや、

一匹と言った方がいいのか。


そうである。

ペットショップのはす向かいにいる、あのドーベルマンだ。


ペットショップで殺された犬達の声を、


みんなが助けを呼ぶ声を、

毎日聞いていたに違いない。


ドーベルマンは、頭が良く、勇敢で、正義感が強く、

ドイツなどでは、警備犬や警察犬として活躍しているという。


ここからは、私の勝手な推測かもしれないが、

一度しか見ていない、あのドーベルマンの優しい目を思い出すと、

つい、こんな事があったのではないかと浮かんできてしまうのである。



以前は、あのドーベルマンは、

このペットショップの前が散歩ルートだったという。


当然、ペットショップにいた犬達との会話もあったと推測される。


そして、


もし、そこに、

あのドーベルマンと親しく会話していた犬がいたとしたら・・・


そこには、

人間には分からない世界があったかもしれない。と。








ドーベルマン様、




時々前を通る、りりしい貴方の事が好きでした。


私たちは、売れないと殺されるようです。


そして、それはもうすぐなようです。


だから、


だから、


私の事は、もう忘れて下さい。



いつか売れる。


いつか売れるよって、




いつか、売れるからって、


いつも、いつも励ましてくれた貴方。


うれしかったよ。




でも私、もう売れない歳らしいんです。


今まで私を勇気づけてくれて、本当にありがとう。



ありがとね。


どうやら、明日殺されるみたい。



さよなら、


さよなら。


私も一度でいいから、外で遊びたかったなぁ。


出来れば、貴方と・・・・





「待て、」



「オレが、


 オレが助けてやる。



 助けてやるから、死ぬな!」








「オレが・・・・・・



 オレが・・・・助けて・・・」


END

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