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特技科の必修みたいな授業

 セルフコントロールの授業は、のぞみが今いる教室と同じ一般棟で行われるらしい。のぞみは近いからいいか、と安易な気持ちで見学することにした。


 セルフコントロールの授業とは、その名のとおり、生徒がどのような状況になっても平静を保っていられるように訓練する授業らしい。特技科の生徒は一芸に秀でている者が多く、国際舞台で活躍する者も多い。どんなシチュエーションでもいつもと同じパフォーマンスを出せるようにするため、特技科の生徒のほとんどはこの授業を選択するらしい。まさに特技科の生徒にとっては、必修みたいな授業だと言う話だった。


 この話を聞き、才能ある人も大変なんだな、とのぞみは思っていた。同時に自分にはあまり必要ない授業だと思っていた。とはいえ皆も受けているし、こんな授業は他では受けるチャンスもないから受けてみてもいいかな、とも考えていた。


 一般棟の5階の端にある教室へ来ると、桜が扉を開けた。

 先ほどチャイムが鳴ったことを考えると、特にノックとかはしなくていいらしい。


 のぞみは桜と松の後に続いて恐る恐る部屋に入った。なんだか部屋の中が少し暗いような気がする。


 …………なんでいるの?


 部屋の中に入った瞬間、気づいてしまった。清三がいたのだ。相変わらずの威圧感だった。


 制服を着ている……やっぱり高校生だったんだ。


 清三が高校生であることを、のぞみはその時初めて実感した。


「あ、清三様もいらっしゃいますね!」

 松が先ほどよりも挙動不審になり、目をきょろきょろさせながら、少し声を上ずらせている。

 もしかして……

「もしかして、清三さんがいるから連れてきたの?」

 のぞみは自分の声が少し低くなるのが分かった。松はびくっとすると、口笛を吹き始めた。ごまかしたいのだろうか?

「のぞみちゃん、それもありますが、この授業をほとんどの生徒がとっていることは本当です。取ることをおすすめします」

 桜がすかさずフォローを入れた。のぞみが桜の顔を見ると、桜の顔は普段と変わりない。桜が言っていることは本当のようだった。

「そうなんだ」

 のぞみは少しため息をついてしまった。


「のんちゃん」

 清三がのぞみに近寄ってきた。


 おとといも聞いたけれども、この顔でのんちゃんと呼びかけられるのに、未だにのぞみは慣れない。


「清三さんも、この授業をとっているのですか?」

 のぞみは清三に話しかけられて、仕方なく会話を返した。

「うむ」

「そうですか……」

 のぞみが清三を見上げると、清三は相変わらず眉間にしわを寄せている。とはいえ心なしか声が嬉しそうな気がするのだ。


 のぞみが教室の中をきょろきょろと見渡すと、教室の中には人が一人は余裕で座れるような機械が何台も置いてあった。ゲームセンターにあるような機械に見える。先生はどうやらいないらしい。完全に自習タイプの授業のようだった。


「のんちゃん、使い方を教えよう」

 清三はのぞみにそう告げると、近くにある機械へとのぞみをエスコートした。清三は顔に似合わずエスコートに慣れているようにのぞみは感じた。


 のぞみが機械の中へ入ると、大きなモニターとヘッドフォンがあった。

「ここに座って、そう、それからヘッドフォンを付けて、スタートボタンを押す。そうするとランダムに選ばれたストーリーでシミュレーションが始まる。正しい判断を瞬時に入力していくんだ」

 清三は画面を指さしながら丁寧に説明してくれる。


 どうやら、車の運転をしているときに急なアクシデントがあったり、急に演奏会で舞台に立つことになったりと、様々なシチュエーションが画面に映し出されるらしい。その中での適切なふるまいを体験することで、現実の世界で何か起こった時への免疫を付けていくらしかった。

 なんともハイテクな機械だった。

「いくらするんだろう……」

 のぞみはついぼそっと口に出してしまっていた。シチュエーションは何百通りもあるらしく、少しやってみたがとても精巧に画像が作られているのだ。


「む!欲しいのか!のんちゃん。注文しておこう」

 横から清三の声が聞こえる。

「え!?いりません!」

 のぞみは慌てて清三に対して否定する。欲しかったわけではもちろんないのだから。

「しかし!欲しいのであれば、それほど高くはない」

 清三は安心しろ、と言わんばかりだ。

「いえ!本当にいりませんから」

 のぞみは清三に伝わるように、少し強めの口調ではっきりと断った。

 清三はのぞみを見て目をカッと一瞬見開くと、その後に肩を少し落としたようにのぞみには見えた。


 目を見開かれて……怖かった……


 のぞみはやっぱり清三の顔にはまだ慣れないな、とドキドキしながら考えていた。



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