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喪失の神降巫  作者: 黒花 ロカ
一つの別れは一つの始まり
3/7

少女と龍神

「黙ってついてきてくれればそれでいい。」

空から降ってきた鎧の少女は口元を笑みにして、そう告げた。後ろ手で『魔人』を叩き斬った巨大な斧を片手で軽々と持ち上げる。

「理由を問いてもいいか?」

「うちの主が呼んでいるとだけ答える。」

それだけでこの少女は誰かの下にいることがわかる。ジャンヌは剣を構え直し、その目に抵抗の意思を浮かべる。

「断る、と言ったら?」

「・・・頼むから私の仕事を増やさないでくれ、よ!」

言うな否や踏み込みからの巨斧を横薙ぎに振るう。ブンッと音をたてジャンヌの首があった場所を薙ぐ。ジャンヌはその場でしゃがみ、低めの体勢で走り出す。

「仕方ないな!少し無力化させてもらうよ!」

(無力化だと・・・?完全に殺しに来てるぞ?!)

デュランダルを斜めに切り上げる。が、その剣は彼女の鎧にあっけなく弾かれる。

「悪いな、あんたの剣じゃ切れないよ!」

斧を引き戻し、今度は垂直に降り下ろす。

ドガアアアンッ

舗装された道が木っ端微塵に砕け散る。欠片をかわしつつ、後退する。

《んー、なるほど。ジャンヌ、奴の契約神がわかったぞ。》

剣を通して、彼女の契約神、ロランが話しかける。

「本当か?」

《あぁ、名前はまだだが英雄の刃を通さないってんなら一つしかねえな。恐らく龍型じゃねえか?》

英雄と共によく語られる存在。それが龍。人を超越した英雄の前に立ちはだかるものとして神話やおとぎ話で伝えられている。

「・・・刃は届かなさそうか?」

《多分な。だが、所詮はあの鎧も神力で構成されたものだ。お前のアレならいけるはずだな。》

「何を話してるのさ!」

少女は次々と斧を繰り出してくる。受け止めれば、剣が折れる可能性もあり結果、襲いかかってくる斧を避け続けなければならなかった。

「くっ!ロラン、補助を頼む!」

《わかった。それじゃ始めるぜ。》

一度距離をとり、その場で目を閉じる。そうして神力を練っていく。彼女の持つ、あらゆる力に対抗する力へと。


(何をする気だ・・・?)

突然立ち止まり瞑目したジャンヌに、少女は戸惑う。彼女は力や技術はあろうとも、実戦というものはあまり経験したことがなかった。それゆえに動かない相手を斬るということに抵抗があった。だから、その一瞬をつかれた。

「はああああ!」

雄叫びと共にそれまでとはまったく違う速さで飛び込んできたジャンヌに少女は反応できない。そのままジャンヌは斜めに少女を斬り上げた。この時、少女は斬られても鎧が傷つくだけで済むと思っていた。

「なっ!?」

だがその予想は外れ、斬られた部分から鎧が光の粒子となって消えていく。

《ドウイウコトダ?神力ノ結合ガ崩レテイク・・・》

斧から低い地鳴りのような声が聞こえてくる。その声には少しの驚愕が含まれていた。


(やったか!)

極度の疲労でガシャンと剣を降ろす。神力とは人の精神に深く関わりがあるとされ、過度に消費すると疲労感や倦怠感が出てくる。肩で息をしつつ、少女を油断なく見つめる。

「くっ・・・!」

鎧が消えていき、その下から見慣れた学院の制服が現れる。やがて少女の顔を覆っていたところも消えていった。

「・・・おまえだったのか。」

呼吸を整え、剣先を向ける。そこには自身の失態に唇を噛んだ少女、ルリ・ミソラがいた。

「失敗でしたね。まさか、あなたがこんな隠し技を持っていたなんて・・・」

ポケットからメガネを取りだし、かける。鎧をつけてる時といない時ではまるで別人のようである。いや、恐らくそのように振る舞っているのだろう。

「食堂でのことは感謝します。もう少し続いていたらあの人を叩き潰すところでしたよ。」

フッと笑って、斧を担ぎ直す。ジャンヌも剣を構え直そうとするが、腕に力が入らず地面についてしまう。

「無理しなくていいですよ。あれだけの技を放ってピンピンしている方がおかしいですし。」

あくまで穏やかな口調で話し続ける。だが、先程から殺気だけはまったく衰えていない。

「見られてしまった物は仕方ありません。腕の一本でも断てば、ショックで記憶も飛ぶでしょう。」

と言った後、ジャンヌにはルリがその場から消えたように見えた。咄嗟に剣を体の前に盾のようにして構える。

キイィンッ

甲高い音と共にこれまでとは違う衝撃がジャンヌを吹き飛ばす。軽々と宙を舞い、後ろにあった柱へと激突する。

「がはっ・・・」

巫装によって外傷はないが衝撃そのものは殺しきれず、肺の空気が全て吐き出される。

「意外と頑丈ですね。貫けると思っていたのですが・・・」

感心したような声と共にヒュンヒュンと風切り音がする。

(スピードがこれまでとは段違いだった、一体・・・まさか、戦術切換か!)

戦術切換は巫の戦闘方法の一つであり、まったく毛色の違う戦い方を戦闘中に瞬時に切り換え、相手の意表をつくものである。そしてそれを使う巫にはひとつの共通点がある。ジャンヌの目の前には黒く細い、レイピアを構えるルリがいた。

二重契約(ダブルキャスト)か。」

「流石に知ってましたか。」

二つ以上の契約を行使しているものを二重契約者と呼ぶ。そしてそれが戦術切換の使い手の共通点だった。

「まあ、それがバレたところでってやつですね。」

その姿がまた、一瞬で消えて腕甲から火花が散る。その衝撃で手の甲が少し痛む。ルリは止まらず、次々と突きを繰り出してくる。いくつかは防ぎ、いくつかは巫装を傷つけていく。

「くっ・・・!」

一際強い突きをくらい、大きく後方へと吹き飛ぶ。そこでふと、ジャンヌは違和感に気付いた。先程から受け続けた衝撃は和らいでいるのに、最初に受けた手の甲の痛みがまったく和らいでいない。むしろ、痛みが増している。

「その手では剣も扱えないでしょう。残念ですがここでおしまいですよ。」

口振りから察するにこの痛みはルリの仕業だとジャンヌは気付いた。ルリはレイピアから元の斧に切り換え、構える。

「そこまでにしろ。ルリ・ミソラ。」

空から男性が降ってきた。こちらに背を向けていて顔はわからないが、白髪で学ランの上から学院のブレザーを羽織っている。

「連れてこい、とは言ったがここまでやれとは言っていないはずだが?」

「・・・はい。」

ルリは静かに返事をする。白髪の方はため息をついて、

「今回の件は特に追求はしない。エルザと合流し、残党の処理に向かえ。」

「承知しました。ありがとうございます・・・」

ルリはこちらを一睨みして、その場から飛び去った。男はこちらに振り向き頭を下げる。

「ルリの詫びはあとでする。今はこちらについてきてもらえないだろうか?」

「あ、あぁ。無論、構わないが・・・」

顔を上げた男と目があった瞬間、ジャンヌの言葉が切れた。

「恩に着る、騎士ジャンヌ。」

そこには自分に剣を授け、ロランを授けてくれた、

「師匠、なのか?」

彼女の師匠の姿があった。

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