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喪失の神降巫  作者: 黒花 ロカ
一つの別れは一つの始まり
1/7

少女と学院

人は古くから、『神』を崇めてきた。それは獣でもあり、魔の者でもあり、現象そのものでもあった。総じてそれらは、皆一様に人が及ばぬ領域にいるものであった。


しかし、人が及ばぬ領域にあるものを人の身に降ろそうとする者たちがいた。何年もの時をかけて、人はついに神をその手に掴んだ。それが何を引き起こすのか知らずして。


山奥に隠れ住むようにある集落。

ゴオオオオッ

荒れ狂う黄昏色の焔が村を包んでいる。そこかしこで死の匂いが漂っている。その中に一人の少女がいた。年は10かそこらといったとこ。美しい銀の髪をした少女だった。

「うっうっ、お母さん・・・」

少女の前では彼女の両親が倒れていた。不思議なことに外傷は何処にも見当たらない。それなのに、生きている気配がしない。この焔は不思議なものだった。


「・・・悲しげな声が聞こえると思えば、幼児か。」

振り向いた少女の先には男がいた。簡素な布服、手には黒光りする鋼の大剣。その剣こそがこの焔の元であった。しかし少女の目にはそんなものは映っていない。見えたのは一本の蜘蛛の糸。

「お、おねがい!お母さんとお父さんを助けて!」

少女は必死に懇願する。自分の命ではなく、両親の命を助けようと。故に男は興味を持った。

「残念ながら、この焔に包まれたものは助からぬ。この焔が焼くのは身体ではなく魂そのもの。人の身では魂は甦ることはないのだ。」

少女は男の言ってる意味が理解できない。だが、両親を助けられないことは理解した。少女が絶望に潰されそうになったとき、男は笑った。いや、笑ったような気がした。

「少女。我と共にこい。」

男はスッと手を差し伸べた。

「お前が、もうこのような目に遭わずにすむようにしてやろう。」

少女は混乱しながらもその手をとった。少女は混乱しながらも1つ心に決めた。

(もう、こんな思いは嫌だ。)

男はその少女を背に担ぎ、歩き出す。

「少女よ。名はなんと言う。」

「・・・ジャンヌ。ジャンヌ・デュラク。」

「勇ましい名だ。ジャンヌ、私の名はな・・・」

そのとき、1つの歯車が回りだした。


央都セントキルダ・アルス巫学院

「皆さん、この度は入学おめでとうございます。この・・」

体育館の壇の上で学院長が祝いの言葉を述べている。しかし、入学生の大半がその話を聞いていない。この少女、ジャンヌもその一人だった。

(まったく、あの男ときたら・・・。フラリと姿を消せば、この学院に通えだと?身勝手にも程があるぞ。)

目を閉じ頭の中でとある者への悪態をつく。そんなことを考えているうちに校長の話が中盤に差し掛かっていた。

「えー、皆さんも知っての通りこの学院では通霊術、通称巫術と呼ばれる人ならざる者。いわば「神」との交信をする術を覚える場であります。」

何十年も前、人は特殊な「神力」と呼ばれる力によって神を身に降ろす術を作った。神を降ろした者は正に人知を超越した、神になることができた。だが、

(それだけならよかったのだがな。)

人はそれだけでは飽きたらず、神では無いものも呼び出してしまった。それが「魔」と呼ばれるものであった。魔は今現在も生まれ、この世を乱している。だから

「皆さんにはここで魔への対抗手段、巫術を習得してもらうことになります。」

その後も長々と校長の話が続き、次にこの学院の生徒会長が登壇した。

「おー!」「なんて美しいんだ・・・」

周りから歓声が起こる。ジャンヌもその意見に同意せざるを得なかった。細い目、女性らしい身体、きらびやかな金の髪。そこにたっていたのは人ではないのでは、と疑わせる美少女であった。

「皆さま、ごきげんよう。生徒会長のシャルル・ツヴァインと申します。」

校長の話には耳を向けなかった生徒も皆、今ではシャルルから目を離さずにいる。そんな中、ジャンヌは戦慄していた。

(あの男に連れられ、様々な者を見てきたが・・・あの少女は危険だ。)

ジャンヌには見えた。彼女から溢れでる神力を。 並みの巫の持つ量ではない。

(なるほど、あの男の意図が少し理解できた。)

ジャンヌはまた目を伏せ、意識を飛ばした。


入学式のあと、クラスに戻り自己紹介やらクラス体制を決めるなどした。ジャンヌは我関せずと言った風で窓側の席で外を眺めていた。すると、いつの間にかお昼になっていたらしく教室の中は人が少なくなっていた。

(皆、食堂に行ったのだろう。私も行くとするか。)

立ち上がろうとしたとき、その机に影が差した。顔を上げると一組の男女がこちらの前に立っていた。

「ジャンヌさん、よね?私はアカネ・クサナギ。東国の出身なの。よろしくね。」

「俺はレイ・アレックス。生まれも育ちもココだぜ。」

女子、アカネはおとなしめでメガネをかけている、いかにも文学少女といった感じ。レイの方は軽薄そうで悪く言えばチャラい。

「ジャンヌ・デュラクだ。なぜ私に声を?失礼だがあなた方とは接点はないはずだが。」

「あぁ、いや。自己紹介の時に趣味は剣術と鍛練と答える女はあんまりいないと思うぜ?」

レイが呆れながら、アカネも少し苦笑している。自分は正直に答えただけなのだが、とジャンヌは首を捻る。

「まあ、そういう理由なの。それで、良かったら一緒に食堂にいかないかなと思って。」

「なるほど、そういう理由か。ちょうど私も行こうと思っていたところだ。」

席を立ち上がり、傍に置いてあった身の丈程の剣を背負う。

「自己紹介の時も気になってたけど、その剣はあなたの疑似武装?」

巫には、魔と戦う為に神との契約によって武器が与えられる。それは契約神との親密度によって疑似武装、果ては固有神装というものになる。普通、疑似武装の待機状態はアクセサリーのような小さいものとなる。アカネの手首にある鈴のついた紐、レイの腕に巻き付いているガントレットがそうである。

「あぁ、まあそんなところだ。」

ジャンヌは適当に誤魔化す。まだコイツの正体を見られるわけにはいかない。食堂へと向かうなかで様々なことを話した。アカネが薙刀部へと入っていること、レイが最近女にフラれたこと。他愛もない話の一つ一つがジャンヌにとっては新鮮だった。


「ん?おい、なんか異常に混んでねえか?」

レイが指差す先では生徒たちが食堂の前で壁を作っている。

「おい!この俺の話が聞けねえのか、アァ?」

「い、いえ、そういうわけでは・・・」

人混みの奥からは男と女の言い争う声が聞こえる。人混みを掻き分けて進み、視界を確保する。するとそこでは、同じ学年の女子生徒に男子生徒(恐らく二年生)が一方的に絡んでいる感じである。

「あの二人、見覚えがあります。」

アカネが呟く。レイも「女の方は知ってるぜ」とうなずく。

「男性の方は二年生の六番手、『猛獣』レイジ・キリサカ。神力を纏わせた状態での肉弾戦を得意とする格闘戦士(ファイター)です。」

「女の方は一年の主席にして、謎の多いザ・ミステリアス美少女のルリ・ミソラ。ちなみに俺をフった相手だ。」

二人からもらった情報と観衆の声を広い、状況を整理していく。

(恐らく、あの一年にナンパして失敗したんだろうなぁ)

ジャンヌは二人をよく観察する。霧坂の方はかっこいいといえばかっこいいが、少し粗暴に見える。瑠璃は髪が長く片目が隠れているが、レイの言うとおりそこがまた違った魅力を引き出している。そんなことを考えているうちに、進展があった。

「あぁ!もうめんどくせぇ!」

霧坂が叫び、その腕を伸ばした。無理矢理にでも連れていくつもりだろう。ルリの腕を掴もうとした、その時。


「先輩、すみませんがこの女子は嫌がっているので。」

二人の間に瞬時に入り込んだジャンヌがその手を捻りあげる。その目にははっきりと怒りが浮かんでいる。

「い、痛てててて!」

容赦のない捻りあげに二年きっての肉体派が悲鳴をあげている。その光景にレイやアカネ、当事者のルリまでもがポカンとしてる。

「先輩、引いていただけますか?」

ジャンヌは無表情に告げる。だがその返事は、キリサカの反対の手から放たれた拳で返ってきた。

「そうですか・・・まあ、これで正当防衛成立ですね。」

捻り上げていた腕を背負うようにして地面に叩きつける。いわゆる背負い投げである。霧坂よりも少し小柄な女子が霧坂を投げ飛ばすという光景に今度こそ周りは驚愕に包まれる。あちこちから「おい、あれ誰だよ?」「き、綺麗な銀髪美女!?」「素敵・・・お姉さまとお呼びしてもいいかしら」など様々な喧騒が聞こえてくる。そんなことは気にせず、その場から素早く立ち去ろうとする。

だが、瑠璃はまだ、現状を把握できていないようだ。それを置いて立ち去るジャンヌではなかった。

「勝手な真似をしてすまない。つい手がでてしまったんだ。」

瑠璃は「は、はい。」と戸惑いながらも頷く。そしてジャンヌは瑠璃に手を降って全力疾走で離脱する。


「意外ね、ジャンヌ。あなたが人助けなんて。」

「俺も意外だったぜ。あんたは何事にも干渉しないタイプかと思ってたんだけどな。」

レイとアカネが口々に先ほどの事を述べる。ジャンヌは真面目な顔で、

「可愛い女子が困っていたら、助けるのは当然だろう。」

などと答える。レイは「違いねぇ」と苦笑し、アカネは神妙な顔で

「・・・あなた、そっちの気はないのよね?」

「なんのことだ?」

ジャンヌは何を言われたかわからないと言う風で答える。アカネは「・・・そう。」と息をつく。

「昔、師匠から言われていてな。可愛いは正義だ、と。」

ジャンヌの言葉に二人揃ってずっこける。彼女の師匠は女が好き、酒が好き、博打が好きで何よりも剣が好きという不思議な男だった。

「今は何をしてるんだろうな、あの男は・・・」


「・・・クシュン。」

一本の日本刀を背負った男がいた。学院の奥地、教師ですらも入れないその領域。そこに入れるのは学院でも、たった六人。男はその中の一人だった。

「タクト様」

暗闇の中でも煌めく金髪をひらめかせながら彼女、シャルルは話しかける。

「あぁ、シャル。どうしたいんだい?」

「ご休息のところ、申し訳ありませんわ。少し残念なお知らせがあるんですの・・・」

形のいい眉を少しだけ歪めるシャルル。タクトにはシャルルの言うことがわかっていた。が、そのことは言わずに黙って話の先を促す。

「・・・校内に『魔』の気配がします。それも複数。」

タクトの予想と寸分違わず、わかっていた通りの報告だった。

「最近増えてきたな・・・、皆の状況は?」

「問題ありません。全員、いつでも出れます。」

「そうか。」

タクトはそういうと立ち上がり、背中の刀をかけなおす。

「いつも通りの時間に掃討を始める。区域はこれにまとめてあるから、皆に説明しておいてくれ。」

足下に置いてあった鞄から一枚の紙を取り出し、シャルルにわたす。シャルルは直ぐ様その紙面を見て、疑問を覚える。

「あの、タクト様?この区域わけですと、ここの部分がぽっかりあいてしまいますが。」

シャルルが指摘したのは学院の東側、一学年の棟がある場所である。タクトは「あぁ」と言って笑い混じりに、

「そこは大丈夫だ。念のためにエルザを向かわせるが、恐らく必要ないだろ。なんといっても、」


「騎士と龍神を配置しておいたからな。」





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