階段
握っていた手を離して君は僕の7.8段階を上がってこちらにくるりと回った。
窓から入ってくる太陽の光のせいで君の顔がはっきりみえない。そこから君がとても小さな声でまるで独り言を話すような感覚でこう言うんだ。
「一年間って長いのにそれを思い出話をするとあっという間に終わっちゃうんだね」
それは僕の耳にはしっかりと聞こえていた。
「君が言ってない思い出話僕はまだ沢山知ってるよ」
「ごめん…あなたが知っていても私は知らない、思い出として残ってないの」
「言えば、思い出すよ!ほら、遊園地で絶叫マシン克服したりさ、お化け屋敷でさ君よりも僕の方が怖がったこととかさ、それにほら誕生日に貰ったブレスレットだよ、君が去年買ってくれたんじゃん…ほかにもいろい…」
「ごめん…」
と言う言葉と同時に太陽が雲に隠れて君の顔が見えて、目が合って気づいたんだ、今の僕が何を言ったって別れる事には変わりはないことを。
泣いていなければ笑ってもない、無表情な顔
目が合ったのは確かだ、けど僕を見ていなかった。
「じゃあ私そろそろ行くね、他の生徒とか来ちゃうし、さようなら。」
「まって」
「…ごめん」
真夏はそのまま階段を上がっていく
僕はその背中を見つめたまま涙は流さない。
大きく息を吸った
「今の俺はお前を幸せに出来ない。
それにすぐ変われるって事も正直出来ない。けど、お前を忘れることなんて絶対に出来ないんだ…だから俺はもう一回お前を惚れさせに戻ってくる、いつになるかはわからないけど、お前が望んでる最高な男になってやる、」
「泰樹…」って僕の名前を読んだ気がしたが多分気のせいだろう。真夏はなにも言わず階段を上がり続けていった。
足音が響き渡る、その足音が自分の心臓の鼓動と重なってた気がした。
太陽がとても輝いた卒業式の朝の事であった




