2話 「接触」
今日の待ち合わせ場所は地下鉄中島公園駅。そこの一番右の切符売り場。
約束の場所。
約束の服装。
私は白のシャツ。髪はショートで紺のジャケット。グレーのプリーツスカートなんて何年ぶりに履いたんだろうか?ああ、久しぶりの地下鉄。人の流れが嫌。相変わらず混んでるし。二年前から何も改善されてない。もっと地下鉄も乗りやすくなってると思ってたけど、淡い幻想を抱いてたみたいね。人がうざいわ。目障り。酔う。
「・・・」
そんな気持ちが落ち着かない時、私は飴を舐める。
昔から飴を舐めると、何故か気分が落ち着いた。鞄にはいつも入ってた。そうね、安上がりな精神安定剤ってとこ。ま、チョコも落ち着くんだけど、太るからまだ飴の方がいい。寝る前にも必ず舐めるのよね。快眠になる。寝起きが爽快になる。良い夢が見られる。或いは夢を見る事なく、ぐっすり寝られる。そして昨日は・・・昨日は寝る前に一袋空けた。飴を舐め続けた。眼が冴えた。喉が乾いた。眠れなかった。
それだけ緊張してた証拠。
それにね、震えるなと言う方が無理。二年振りに家族以外の人と会うんだもの。メールだけのあなたと、ね。
「美鈴さん・・・?」
「・・・はい」
あなたの目印は傘。緑色の傘。遠目からでも見つけられたわ。だって外は晴れだもの。緑色の傘が妙に映えていた。私に声を掛けたあなた。
震える声、私もあなたも。
俯く私。
見つめるあなた。
上がる脈拍。
乾く唇。
吹き上がる汗。
私は周りを見渡した。
小さな駅。
もう人はいない。
もう大丈夫。
私は、スカートを捲り上げた。
下着は約束通り付けていない。
あなたの視線が下に向く。
私は俯いたまま。
恥ずかしい。
死にそう。
逃げたい。
でも・・・脚が竦んでる。
いや。
絶対。
きっと。
もし動けたとしても、私は逃げない。私は、今を楽しんでる。この初めての感覚に酔っている。
あなたの紅い頬。
私の頬も同じ色。
「じゃ、行こうか・・・」
私は小さく頷いた。
あなたは照れて先に行く。
私は小走り追っかける。
挨拶程度の会話。
会話は二言、三言。
それだけ。
あなたは歩く。
私は後を追う。
私は、もっと声を聴きたい。
あなたの声を、もっと、長く、生で。




