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1話 「行動」

 



 久しぶりです。斉藤寧子です。この元々の作品は以前にここで発表し、その後、私の短篇集「ゆわゆら」も掲載された作品です。色々賛否両論があって、様々な感想も頂きました。その時は、あえて言葉を省いたり、消していた部分もあるのですが結果、本質をぼやかしてしまった感があるなと最近思い直してきました。今回加筆、修正を加えて新たな作品に仕上げられればなと、思います。 

 この作品のテーマは「居場所」です。

 例え社会から不道徳な物と見なされている場所でも、その本人が希望を持って生きられるなら、そこは紛れもない光ある居場所です。以前読んだ方も、初めて読む方も、何か感じ取ってくれれば嬉しいです。


「いってらっしゃい」

「ん」 

 靴に履き替える私。

 驚く母。

 うん、無理もないと思う。二年振りの外出だったし。確かに唐突と言えば唐突かな?でも、ま、私にとっては全然唐突じゃないんだけどね。結構前からの予定だったのよ?この日を待ち遠しく思ってたんだから!でもねえ、一つ気掛かりだった事があるの。それは、外出する際に一々、こまごま訪ねられる事。

 どこ行くの?とか。

 もう大丈夫なの?とか。

 何時に帰ってくるの?とか。

 ああ、邪魔。そんな会話が煩わしい。構われる事が鬱陶しい。気持ち悪いわ、ほんと。まさに、外出する気掛かりが、それ。なんかむかつく。引きこもりの私を特別視しないでよ。かと言って、変に甘い声で接せられる事も不愉快。頑張って!とか。私も一緒に出掛けようかな〜なんて母親面したり。ああ、考えるだけで身震いがする。

 でも偉いものね。いってらっしゃい、母はただそれだけの言葉を私に投げ掛けた。うん、一応は娘の気持ちを解ってる。この構って欲しくないオーラを見抜いてる。偉い偉い。少しは母を見直した。敢えて行き先を聞かない、母。うん、その方がいい。私の行動に水を差されては困るしね。折角の行動なんだし。余計な気遣いはかえって、ね・・・こっちが恐縮してしまう。

 全く、ほんと・・・引きこもりも楽じゃない。もっと自由にさせてほしいわ。別に悪い事してる訳じゃないんだし。やれやれ、ね。私が引きこもったのは十六の時。別に無視された訳でもない。いじめられた訳でもない。学校が嫌だった訳でもない。友人がいなかった訳でもない。ま、強いて言えば・・・学校に行く理由がなかった。見つからなかった。それぐらい。勉強もしたくなかったし。部活もしたくなかったし。友達と会えるって言ってもね・・・毎日毎日、顔合わせてたら飽きちゃうし。

 うん。

 毎日ケーキは飽きるでしょ?毎日お寿司は飽きるでしょ?どんなに大好きな物でも毎日は無理。飽きちゃう。だから、学校に通う行為自体、飽きた。第一、学校その物が好きじゃないし。引きこもったのは当然の結果。道理よ。一応、進学校らしかったけど。私には関係なかった。母が要望したから受けただけ。母が要望したから勉強しただけ。ただ、それだけ。で、私は、その要望に応えた。要望は叶えた。で、私は決めた。要望は終わり。止めよう、って。もういいや。勉強なんていいや。学校なんていいや。大学なんていいや。で、二年引きこもった。自分の生活。自分だけの生活。人の眼を気にせず。人の口に従わず。

 快適な毎日だった。寝たい時に寝て。起きたい時に起きて。食べたい時に食べる。ある意味、人間らしい生活よね。全然、苦じゃなかった。寂しいなんて思わなかった。そして、その二年間で、私は見つけた。私は、私を、見つけた。

 生きる意味。生きる楽しみ。生きる目的を私は見つけた。メール。チャットに私は興味を持った。最初は興味なかったけれど、そこにあなたがいたの。あなたを見つけてしまったの。

 同じ引きこもり。

 同じ理由で。

 同じ境遇。

 同じ性格。

 同じ願望。

 同じ欲求。

 同じ逸脱。

 同じ刺激。

 同じ逃避。

 同じ不満。

 顔を合わせる事もないし、好きな時間でメールもチャット出来るから飽きないしね。

 そして今日、私はあなたに逢う事に決めたの。


 

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