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 黒。

 黒の空間に少女はいた。そこは不気味というより不思議だった。

 真っ暗であたりは何も見えないのに、自分の体だけは発光しているみたいにはっきり見える。

「こんにちは」

 いつの間にか目の前にいた少女の存在に声を上げそうになるが、()えることができたのは、彼女の美しさに目を奪われたからだ。

 裾が短く袖のない白のワンピース。その腹部は花のようなかたちに裂けて肌を露出している。

「あなた誰? 名前は?」

「名乗るほどのものでもない。私はただの(かえ)す者」

「ふうん」つぶやきながら、目の前の少女のむきだしの腹部や脚を交互に見る。「それでここはどこ? 学校の倉庫?」

「どこでもない。強いていうならここはあなたの場所」

「ふうん」

「それにしても」白の少女はあたりを見わたす。「うっとりするくらい漆黒まっくろ)ね。あの子とはおおちがい」

「あの子って?」

「知る必要はない。でもあなたもよく知っている子よ」

「誰なの?」

 少女の質問は無視して、白の少女は語りはじめる。

「あなたには大好きな人がいた。でもあなたの大好きな人はあなたのことが大好きではなかった。だからあなたはあなたの大好きな人が大好きな人が大好きな人を攻撃しようとした。そうすることであなたは、あなたの大好きな人を独り占めできると考えた」白の少女は少女に冷たい視線をおくる。「だけど一つだけあなたにはわからない誤算があった。あなたが臆病だと決めつけていたその子は、誰よりも勇敢な心の持ち主だったこと」

「悪いけど途中から聞いてなかった。もうちょっとわかりやすく教えてくれる? そういえばあなたって返す人なんでしょ? 私に何を返してくれるの?」

「それは最後にとっておきたかったけど、望むならそうする」

「はやくちょうだい。あと、そろそろここから出してよ」

「……わかった」

 白の少女は抱きしめられるくらいまで、少女との距離を詰めた。

 それから両手を少女の顔までのばしていく。

 少女は白の少女の透き通る肌の色に目を奪われ、胸の高鳴りを覚えた。

 白の少女は両手を少女の両耳にあてる。そして──


 妖精が引きちぎられる音がした。


 獣が撃たれたような叫びを上げ、少女は地面に倒れ、藻掻(もが)き苦しむ。

 白の少女と距離は離れたにもかかわらず、その音は耳から消えない。

 妖精が引きちぎられる音。小さな命が無惨に切り刻まれ、奪われていく音。

「なにこれ! やめて! とめて! うるさい! たすけて!」

 体内のいたるところで爆竹を破裂させられているみたいに、手足を激しくじたばた動かし、(こっ)(けい)な舞を舞う。

「うるさい? とめて? 不思議なことをいう」白の少女は首をかしげる。「あなたはこの『音』を聞きながら(からす)みたいにガラガラ笑っていたのに」

「おねがいだから! ゆるして! たすけて!」言いながら、頭を何度も床に叩きつけている。

「与えたものは(かえ)される。(めぐ)(めぐ)って、大きくなって(かえ)される」白の少女は言う。「あなたのための涙などありはしない。だからそこでじわじわと(しお)れていけばいい。そしてそのうち、()ちてしまえばいい」

 少女の叫喚(きょうかん)に背を向け、白の少女は闇の先に姿を消した。

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