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恋は大人になってから!  作者: 絵巻
2/8

聖王女の憂鬱

アイーシャがうなだれていても周囲の人間の対応は馴れたものだ。ディオンハルトはアイーシャをソファーに座らせると自分もその隣に座り、突然の来訪者へ驚いた様子もなく視線を向けた。

「悪かったわね、イザルグ。突然呼び立てたりして」

特に悪いと思っていなさそうなディオンハルトの言葉に気を悪くした様子もなく、イザルグと呼ばれた男は妖艶に微笑んでみせる。

「いいえ。呼ばれる気はしておりましたからお気になさらず」

イザルグ・アルキオーレ。

メリオロッド国の随一の魔術師にしてディオンハルトの側近でもある男。見た目は兄であるディオンハルトとそう変わらないように見えるけれども、そもそもアイーシャが物心ついた頃から既に今と同じ姿だったような気がするので実際の年齢は定かではない。魔術師としての腕だけではなくその美貌も国内外へ有名で、実際アイーシャも彼程美しい男を他に見たことが無かった。長く床に届きそうなくらいの黒髪は安息をもたらす夜の闇そのもので、些か冷たさを感じさせる赤い瞳は紅玉を嵌め込んだように輝く。染み一つない陶器のような肌は世の女性が嫉妬するほど羨むだろうが、その様子が彼の絶対的な美貌を決定づけると共にどこか人形めいた無機質な美を感じさせる。

「昨夜の舞踏会の様子は私も離れた場所から拝見しておりました。王女殿下の見事な手腕に脱帽する思いです。あの他国の殿下も良い思い出が出 来たことでしょう」

彼もまた昨夜の件でディオンハルトに呼び出されたようだった。しかしディオンハルトとは違い説教を始めるつもりはないらしく、むしろ良い余興のように感じたようで愉快そうである。昨夜舞踏会に参加していない筈の彼だが離れた場所から見ていたということは魔術か何かでこちらの様子を伺っていたのだろう、ディオンハルトの身辺 警護だと言えば聞こえは良いが、イザルグの場合覗きは単なる悪質な趣味だ。

「王女殿下が昨夜七面鳥の丸焼きを投げつけた王子側に動きはありません。別に気にしていない・・・いえ、そもそもあの王子が王女殿下を責めるなど出来るはずもないのですから」

「それはどういうことですか」

「どうも何も、そういうことなのですよ。ふふふふふ」

まるで王子の心情まで知っているかのような口ぶりにふと疑問を抱いたアイーシャが尋ねても、イザルグは詳しく語ろうとしない。それどころか怪しい笑みを浮かべられアイーシャは顔を引き攣らせる。こんな顔だけが良い男にときめいてしまう自分が忌ま忌ましくて、小さくなってしまった自分の手を睨みつけていると隣に座っていたディオンハルトが頷く。

「そう。ならひとまず安心して良さそうね。良かったわねアイーシャ。あんたのうっかり無礼を許してくれる相手で」

「私であれば王女殿下から投げつけられたものであるなら、むしろ自ら当たりに行きますけど」

微妙に嫌味を混ぜてくる兄とよく解らない主張をしてくる魔術師に挟まれ、アイーシャは何も言えなかった。



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