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1日目 悠斗side



いつの間に、そんな態度に、接し方になったのだろう。



あの頃は分け隔てが無かったのに。




――1日目悠斗side





悠斗は、玄関に据え置きしている下駄箱から自分のスニーカーを出す。


下へ投げ出すように置くと、勢いで舞った砂ぼこりにむせかえった。



「それじゃ、お袋。行ってきます。」



そう奥にいる母親に挨拶をし、スニーカーに自分の足をおさめた。




家に出ると、一つ大きな深呼吸をした。

爽やかな朝の空気が悠斗のブレザーの首もとと髪との隙間を撫でるように吹く。


今日の降水確率は0%らしい。

カラッとした朝だった。


「さて。」


今日は隣に住む幼なじみ、遥波と一緒に登校する日だ。



彼女の家に行き、呼び出すといつもと同じくらい――いや、それ以上元気なおばさんと、それを追うように遥波が出てきた。


遥波は見るからに不機嫌だ。



「おはよう、悠斗。」



「…おはよう。」



遥波の挨拶を返す。

そんな不機嫌な彼女声から漏れる「嫌です」オーラは、自然と悠斗に無愛想な言葉しか生み出さなかった。



(そんなに俺と一緒に行くのが嫌なんだろうか。)


最近、明らか遥波が自分に接する時の態度が変わった。


なんというか"接したくありません"というピリピリした何かを感じる。



確かに、こんな幼なじみ――自分と一緒に登校するなら、同じクラスの男子と行く方がいいだろう。


そうは思うものの、自分から「やめよう」と打ち出せない。


何故なら、自分は。



(遥波に惚れてるからな……。)隣同士、年が近いという事もあり、昔は仲がよかった。


悠斗自身も、兄が居るものの5つも離れている為に遥波といつも一緒に居た。


物心ついた頃から、二人で遊んで居た為、妹というよりむしろ双子のような存在だった。



しかし。

悠斗が小学校に通い初めてから、二人の間に見えない壁が出来た。



悠斗は同じ学年の男子と遊び、遥波も近所の違う子と遊ぶようになった。

それからしばらく接点がなくなってしまった。



その後中学に上がり、遥波も後を追うように入った時。



遥波の母から「娘が心配だから、出来る範囲でいいので一緒に登下校して欲しい。」と頼まれたのだ。


この時ほど、断れない自分の性格を恨んだ事は無い。

二つ返事で承諾した悠斗は、その次の日から出来る限り遥波と帰った。



そして今日まで至る。




確かに小学校の頃に接しにくい壁が出来ていた。


だけれども、その壁は中学のあのエピソードがあってから無くなった、と思う。

一緒に登下校をするのを始めた頃は、楽しく話をしながら帰ったものだったから。



そうだ、その時だ。

遥波の柔らかそうなピンク色の唇から紡がれる可愛らし言葉。

くるくると喜怒哀楽がはっきりする顔。


それに惚れていくのに時間はそうかからなかった。



多分、自分に遥波への気持ちが募っているのを気づいた時からだろう。


また、"壁"が出来たのだ。


帰ってきた悠斗は、ブレザーを脱ぎハンガーにかけた。

ネクタイも慣れた手つきでほどく。



(俺は何してんだか…。)



先ほど、遥波と一緒に帰った時。


あんな時間にいる事が珍しいのに、その上まさか彼女が待っていてくれるなんて思わなかった。

確かに目は合った時、"先に行ってろ"と目配せしたはずだったが。

彼女はその意図を捉え間違えたのか、それとも。



(俺に気がある、なんてな――…。)



自嘲じみた声が自然に漏れる。



そして、彼女が転びかけた時、咄嗟に本能で庇った。


その時、自分の腕の中にいる彼女は小さかった。

昔はあっちの方が身長は大きかったのに、どうしてこんなに彼女は繊細になってしまったのか。


それに驚いていると、遥波を心配する前に自分の心配をされた。

「腕は大丈夫か、足は」などと必死に問いかける姿が不意ながら可愛かった。



「大丈夫」と宥める為に――この年ながら頭を撫でると「セット髪の毛が!」と叫ばれた。


その発言に少し困惑した。



誰の為にやったんだろうか?

彼女は好きな異性がいるんだろうか?



そんな言葉が胸に詰まった。


見えない誰かに


(…まさか嫉妬するなんてな。)


ふう、と息をついた。


外から差す今にも消えそうな斜陽が、赤々と部屋を燃やすようにてらした。



(恋ってのは厄介だ――……。)

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