浦島太郎?いいえ、別の何かです。
初っ端から滅茶苦茶。あちこちカオス。それでも読みますか?
むかしむかし、ある所に浦島太郎と言う人物が居ました。彼は環境破壊の達人であり、漁をするという名目で海に潜ってはサンゴをその手で次々にねじ切って破壊したり、浦島の両親が開発した妙な化学兵器を周辺の海や川に垂れ流してそのあたり一帯の生き物を全滅させたり、突然変異を引き起こさせて遊んでいたりしていました。
ある日のこと。浦島が海に繰り出して沖のサンゴを粉々にするために海岸にやってくると、二人の帽子をかぶったヒゲオヤジが亀を防波堤の壁際に追いやって何度も踏んづけて遊んでいました。亀はその辺の亀よりは大きいですが、踏んづけられるたびに甲羅に潜ってしまうので二人のヒゲオヤジのカモにされ、何度も何度も踏んづけられていました。
浦島はその光景を見ていられなくなり、二人のヒゲオヤジに亀を踏みつけるのを止めるように言います。二人のオヤジは「この亀を無限に踏んづけて俺たちの残機も十分増えたし構わない」と意味不明な事を言って即座に亀を解放してくれました。去り際に二人のオヤジが突如巨大化しましたが、そんなことは気にしてはいけません。
何はともあれ無事に亀を解放できた浦島太郎。早速この亀を両親の化学兵器の実験台にしようとしますが、その亀が「竜宮城に連れて行ってあげますからどうかそれだけは勘弁してください」と泣きながら浦島にお礼を言ってきたので薬を使うのは止めてあげました。その代わりに浦島は、亀に竜宮城に案内してもらえるようになりました。
亀によって竜宮城に案内されることになった浦島太郎。もし約束を違えればこの亀を化学兵器の実験台に使うだけなので、亀は大人しく浦島を竜宮城に案内しました。海の中なので人間の浦島には息が出来ないと思われましたが、浦島は両親の化学兵器の影響で体に鰓が発生しているため、海の中でも問題なく活動できます。浦島の髪の毛の一部が突然分かれてそこから鰓が生えてきたときは、あわよくばここで浦島を窒息させようと考えていた亀の表情は一気に驚愕した物になりました。
さすがに人間の身体から鰓が生えてくるとは思わなかった亀は思わず浦島に問いかけます。
「え……あの……浦島さん……それは一体なんですか……?」
「見て分からんかね?これは鰓だ。漁に邪魔な生物である海月を死滅させるために海の中で両親特製の化学兵器を使ったら何故か自分にも鰓が生えてきてしまってね……。だが効果は抜群でね。周辺どころか、隣の国に居る海月まで死滅したらしいんだよ」
海月を死滅させるためだけに物騒な化学兵器を使う浦島の思考にも驚いた亀ですが、浦島の両親の化学兵器の恐ろしさにも驚きます。普通化学兵器と言えども水に垂らせばどんどん拡散して効果は薄くなり、消えていきますが、そんなことはお構いなしに隣の国にまで影響を与えたと言う事はその化学兵器はかなり危険な物体です。人間のはずの浦島に何故か鰓が生えていたり普通に海の中の浦島が喋っているんですから尚更。
(もしかして最近海月がほとんど出ないのはこいつのせいなんじゃ……やっぱりこいつを竜宮城に連れて行くのは……)
さすがに亀もこんな危険な相手を竜宮城に連れて行くのは不味いと思ったんでしょう。しかし、そんなことを考え出した亀の首元に何かが当てられました。
「亀さん。ちゃんと竜宮城に行かないと、あなたで実験を始めますよ?」
浦島が亀の首元に突きつけたのは化学兵器の入った瓶です。そんな物をここで開けられたら亀はどうなるのか分かりません。それに、竜宮城に行ってしまったら、もう竜宮城の中に閉じ込めて玉手箱で始末すればいいんです。それを考えると、目的地に向かうことが亀の命を守ることにもつながりました。
「ひっ!分かりました!連れて行きます!なのでどうか命だけは!」
「分かればいいんですよ。さあ、目的地まで急ぎなさい!」
浦島と言うある意味最悪な来客を竜宮城が迎え入れることになるのは、そう遠くない未来でした。
「こ、ここです、ここが竜宮城です!」
「なるほど。道案内ご苦労様でした。では、さっさと行きなさい」
「は、はい!それでは!」
竜宮城に到着するや否や亀は逃げるように浦島から離れていきました。これでは浦島は帰れないと思うかもしれないですが、知っての通り浦島には鰓があり、海の中でも自由に生活できるので別に困ってはいませんでした。ゆっくり泳いで帰ればいいだけです。
亀と別れた浦島が竜宮城に入ると、さっそく浦島を歓迎するための食事がふるまわれました。中身はフグの危険部位などの食べると中毒を引き起こしてあっという間に死ぬものばかりですが、浦島はすでに両親の化学兵器で毒物に耐性があるため、何も影響を受けずに全て美味しそうに平らげます。
「あ、ありえない……あれだけ食べたら中毒症状で死ぬはずなのに……」
竜宮城の姫様も浦島の人外っぷりに絶句しています。周りの魚や海の生物も浦島の人外っぷりには茫然とするだけでした。もしこれが普通の人間であれば、海中ですでに15回窒息死してしまい、更に今の食事で135回中毒死で死んでいますが、浦島は平然としています。化け物です。
「うん、美味いね。ごちそうさま」
(ありえない……あれだけ食べて何ともないなんて、こいつ一体どんな体してるの……)
姫様の思ったことは、この場に居る浦島以外の全員が思った事でした。
(で、でも、これをなんとかしないと不味いわ。両親がいくつか知らないけど、危険な化学兵器による被害も減らさないといけないし、せめて使用者のこいつには両親が逝くであろう時期までの二年はここに居てもらわないと……)
姫様は海を守るため、化学兵器の使用者の浦島を閉じ込めるため、何とかここに浦島を留めることができる策を考え始めました。どっちが悪役か分かりませんが、気にしてはいけません。
「酒を頂いても?」
「あ、はい!ただ今お持ちしますね!」
浦島に酒を要求され、すぐに姫は思考を切り替える。
(全ての料理と飲み物を毒物入りにすればきっと……倒せるはず)
これから出す料理全てを毒物にすればこの浦島も倒せるだろうと考え、姫様はさっそく実行することにしました。
それからの二年はあっという間でした。浦島は幸い大人しかったですが毎回毒物料理を出したにも関わらず平然としており、姫は死なないどころか全く異変の無い浦島を何とか退治するために日夜毒物の研究に励んでいました。何か姫のやっていることが滅茶苦茶ですが、浦島は海に化学兵器をばらまく人間であるため、何とかしなければ海の生態系が危ないのです。
「ああもう、これも駄目……。だったらこれならどう!?」
そして今日も姫はせっせと毒物作りに励みます。浦島が来てから二年半が経ちました。
「姫?それは何だい?」
「ああ、浦島様!これは、新しい飲み物でございます。お飲みになりますか?」
「ああ。ありがとう」
そして浦島がやってきたときは新しい飲み物として平然と毒物を振舞います。そして浦島はそれを飲んでも全く影響を受けていない、つまり来たときから全く浦島は毒の影響を受けていないと言う事になります。
(ああ、もう!どの毒物もさっぱり効かない!一体どんな毒物を使えばこいつを倒せるの!?)
浦島がここに来てからもう二年半。このころになると、姫は海を守るためとかでは無く、どんなに毒物を与えても死なないし全く弱らない浦島を自分の開発した毒物で倒すために毒物を作っていました。ある意味、姫の心は浦島に囚われていました。とっくに玉手箱を与えて地上に帰ってもらい、そのまま自滅させても良いのですが、そうするという意識をどこかに置いてきてしまいました。
「ふう。これも美味いな。ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
口ではこう言っている姫ですが
(もう!何でこれだけ強力な毒物を与えても死なないの!私の作った毒物がそんなに弱いの!?一体どこまで強力な毒ならあなたをあっさりと倒せるの!?)
その心中ではいつまで経っても全く毒の影響を受けない浦島に対する対抗心の炎が燃え上がっていました。二年半毒物や危険部位を浦島に与え続けているうちに自分の毒物でこいつを仕留めたいという思いが姫の中に生まれていたのです。
(浦島……なんとしても私の毒であんたを仕留めてやる!)
そんな姫の様子を周囲の魚たちは呆れた目で見ていました。さっさと浦島に玉手箱を渡して帰らせればいいのになぜそうしないのか、という思いでした。しかし、浦島を自作の毒物で倒すことばかり考えてる姫には自分たちの思いは届きません。なので、間接的に浦島を帰らせるように持っていこうとしました。
「浦島さん、浦島さん」
「ん?何だい?」
一匹の魚が浦島に話しかけました。
「浦島さん。そろそろ帰らないと、両親が心配しているんじゃないですか?」
「両親……?」
浦島は魚の言葉を聞いて、両親の存在を思い出したようです。
(そうだ。僕には両親が居る。一回帰らなければいけないな……)
もう二年半は帰っていません。浦島は両親がどうしてるのか気になり、帰ろうと思いました。
「そうだね。ずっとここに居たい気もするけど、一回帰って両親の様子を見に行くよ」
浦島は家に帰ることを決意します。
「そうですか。では、せっかくここにいらしたのですから、記念にこれを持って帰ってくださいな」
魚の一匹が浦島に大きな箱を手渡します。
「これは?」
「玉手箱ですよ。地上に帰ったら記念になりますし、ぜひ地上で開けてくださいな」
「ここで開けたら駄目なのかい?」
「え?」
浦島の発言に魚たちは固まってしまいます。もし玉手箱をここで開けられれば浦島はともかく、自分たちにも被害が出るかもしれません。
「ほ、ほら、お土産と言うのは帰ってから開ける物でしょう?」
「おかしいなあ。中身の分からない物を受け取れって言うのかい?そんな物受け取れないよ」
魚たちにも予想外のことが起きてしまいました。別に中身を浦島自身が確かめるのは構わないのですが、煙に巻き込まれると自分たちが危険なのでここで開けさせるわけにはいきません。
「ほ、ほら。記念に受け取ってくださいよ」
「得体のしれない物は受け取れないよ」
どうやら簡単には浦島に玉手箱を受け取ってもらえないようです。こうなったら無理やりにでも押し付けるしかありません。
「大丈夫ですって。金銀財宝ですから」
「中身を見せてくれない時点で信用できないよ」
「すごく立派な宝物も入っていますよ?」
「中身が分からない以上、核爆弾かもしれないだろう?要らないよ」
「受け取ってくださいよ」
「要りませんってば」
「受け取ってください」
「要りませんよ」
「受け取ってください」
「要りません」
「受け取ってください」
「要りません」
「受け取ってください」
「要りません」
「受け取ってください」
「要りません」
「受け取ってください」
「要りません」
「受け取ってください」
「要りません」
「こんだけ頼んでんねん。はよ受け取れや」
「要らんっつってるでしょうが」
「受け取らんかい」
「こんな粗大ごみ要らんわ」
「持って帰れ」
「要らんわボケ」
「手前わしの好意を台無しにする気か?ああ?」
「要らんっつってるだろうが。聞こえんのか?」
魚と浦島の根競べと言う名の無限ループが始まってしまいました。実際玉手箱の中身は浦島であろうと即死させる老化させる毒ガスなのですが、そんなものここで開けたら竜宮城で何年も過ごしている自分たちも当然危険です。なので魚も必死です。
「ああ……肝心な説明を忘れてました。玉手箱は地上でないと開けられないんですよ」
「どういう事ですか?」
魚は浦島に嘘の説明をすることにしました。
「玉手箱はですね……地上でないと開かないように鍵がかかっているんです。その鍵がかかっているここや海の中では開けられないんですよ……」
もちろん大嘘である。魚が玉手箱を押し付けようと必死だったのは浦島にここで玉手箱を使われないための策だからである。
「それを先に言いたまえ」
「申し訳ありません。まさか拒否されるとは思わず肝心の説明を忘れておりました……」
納得した浦島は玉手箱をしぶしぶ持って帰ることにしました。まあ、別に使う気も無いのでとっとと捨ててしまう気でしたけど。
「それでは浦島様。さようなら」
「ああ。楽しかったよ。皆さん。ありがとう」
浦島は竜宮城の魚たちに別れを告げ、浦島は地上に帰ります。泳いで帰ってしまいましたが、まあ問題ないでしょう。姫はまだ起きていないとのことで別れの挨拶ができませんでしたが、伝言を頼んだので気にしてはいません。
「ふう。久々の地上だ……」
浦島が帰ってきたとき、辺りの様子は一変していました。見たことも無い建物が立ち並んでおり、別の場所に来てしまったのではないかと言う錯覚に襲われます。
「……ここはあの場所であってるんだよな?一体どうなってるんだ?」
浦島は怪訝な顔でしたが、とりあえず陸に上がって自宅のあった場所に向かいます。しかし、そこには別の人が住んでいます。どういう事か尋ねると、何と300年も前に空き家を購入して先祖代々住んでいると言うのです。つまり、竜宮城で過ごした二年半の間に地上では300年もの月日が流れてしまっていました。
(なんてこった……)
浦島は文字通り絶望します。両親に顔を見せようと帰ってくれば、地上では300年もの月日が流れており、誰一人浦島の事を覚えている者は居ません。おまけに浦島には戸籍も無く、住所も無いため、文字通り居ない人になってしまいました。
浦島はさ迷い歩き、誰もいない海岸にたどり着きました。そこに寝転がり、これからどうするのか考え始めました。
(家が無いから暮らしていけない。親が居ないから家族もいない。当然のことながら財産も無い。文字通り絶望のどん底か……)
絶望した浦島の目に魚から無理矢理押し付けられた玉手箱が入りました。魚に無理やり押し付けられたことから考えても明らかにろくでもない物……自分が死んでしまったり、それに準ずる何かが起きるであろう物だと言うのは想像がつきますが、それもこの状況でなら最高の宝に見えます。
(開けて……みるか……?)
そして浦島が起き上がり、玉手箱を開けようとしたその時、何かが玉手箱を蹴り飛ばしました。
「なっ!?」
「あのバカども……何考えてるのよ……あたしに一切断りなく勝手な事を……帰ったらこの玉手箱にぶち込んでやる!」
玉手箱を蹴り飛ばして浦島から離した存在……それは姫でした。口調があきらかにおかしいですが、怒りによって乱暴な口調になっているだけなので気にしてはいけません。
「ひ、姫!?何でこんなところに姫が……」
浦島もさすがにこれには茫然とします。竜宮城に居るはずの姫が何故か地上の海岸までやって来て、自分が開けようとした玉手箱を強引に蹴り飛ばしてしまったのですから。
「浦島!あんたを倒すのはあたしが作った毒物だ!勝手にこんなもので居なくなられたら困るんだよ!それでも死にたいならあたしが毎日強力な毒物作ってやるやら、それを飲んでくたばりな!それ以外でくたばるなんてあたしが許さねえ!」
何とも滅茶苦茶な理由ですが、姫によって強引に命を繋ぎとめられた?浦島はそのまま姫と暮らすことになりました。後日、玉手箱を浦島に押し付けた魚と浦島が帰る時に理由をつけて姫と浦島をあわせなかった魚が姫によって玉手箱に閉じ込められて中の毒ガスで蒸発しましたが、竜宮城では今日も毒物を作り続ける姫と平然と姫の毒物を食べ続ける浦島の姿がありましたとさ。めでたしめでたし。
終盤の一ヶ所だけはどうしても暗くなりました。だって絶望させないと死亡フラグと分かっている玉手箱は使ってくれませんし……。
ちょっとコメディ要素薄かったかな……。