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青の炎

作者: いのり
掲載日:2026/07/26

 蝋燭の火が静かに消えていく。


 私は、王の顔色をうかがう。


「シド、私の蝋燭はどれだ?」


「そ、それは⋯⋯」


 問いかけには誰も応じない。答えてしまえば首が飛ぶかも知れない。

 こんなに大勢の部下も口を閉ざしている。


 ここは、宮廷魔術師が教えてくれた禁断の場所。人の寿命がわかる蝋燭がある。青い炎の蝋燭は、今にも死んでしまう。赤い炎の蝋燭は、これからも長生きする。王もそれは重々承知だ。


 名前のある王の蝋燭は、青い炎を灯している。


 私は、頭を垂れた。


「シド、私の寿命も短いのだな」


 吐き捨てるように王は呟く。


 悪名高い王は、国民を震え上がらせてきた。逆らう者は、死刑にする恐ろしいお方だ。


「因果応報ということか」


 王には、私の親も殺された。ざまあみろ、私は心の底からそう思った。私は、農民育ちでやっとここまで這い上がった。


「最期にシド、私の代わりをお前にしたい」


「──私に?」


「お前ならこの国を任せられる」


 この血も涙もない王が私に王を譲るわけがない。なにか裏があるに違いないのだ。


「お言葉ですが、私にはまだ荷が重いのです」


 王は、目を閉じて笑った。


「私は、国のために人を殺しすぎた。この罪を償うときがきたのだよ。それが今なんだ」


「しかし」


「なあ、シド。お前の蝋燭も青い炎を灯しているのに気付いたか?」


 私は、私の名前がある蝋燭を見た。青い炎を灯している。


「私も死ぬのですか⋯⋯?」


 王は、視線を傾け口を開いた。


「青い炎に青い炎を足すと赤い炎になると、宮廷魔術師に聞いた。私は、シドの青い炎に私の青い炎を与えようと思う」


 目の前が涙で歪む。


「どうして、そんなことを?」


「今までの罪滅ぼしだ。お前なら民を幸せに導くと思ったからだ。死んでいった者たちには、申し訳なかった」


 唇を噛み締めた。


「──私の親は、あなたに殺された」


「すまなかった──」


 王は、深々と頭を下げた。今まで威厳がある王は、もういない。


「どうして、今になって⋯⋯こんな」


「⋯⋯すまない。許してくれと言っても許されないだろうがな」


 蝋燭の灯火が揺らいだ。


「本当にすまない」


 王は、自分の蝋燭を手に持ち、私の蝋燭に近づけた。


「待ってください!」


 私は、叫んだ。


「私は、豊かな国を作ります。あなたは私の親を殺したけれど──」


「──すまない」


 王の蝋燭は消えた。


 消えた蝋燭を眺めた。また、涙がこぼれた。


「王よ、私はあなたを許せない。でも、あなたの想いは忘れない。許せるときがくるのはもうまもなくです」


 ふと、私の蝋燭を見つめた。赤い炎の蝋燭はまた青い炎に変わっていたのだ。


「王、私もあなたのもとに近々いきます。そして、酒を飲みましょう。すべてを忘れてね──」


 蝋燭の青の炎は、美しく燃え盛っている。

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