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【なぜ他人の目が気になると、凡人になるのか】観測宇宙のシナプス:量子重力、ペンローズの脳理論から紐解く「意識の収縮」  作者: 藤台団二


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第2章:ペンローズのOrch-OR理論――脳内における量子重力の火花

第2章をお開きいただき、ありがとうございます。


前章では、人間の意識が「周囲の視線」によって特定の行動へと固定される現象を、量子力学の「観測問題」に重ね合わせて考察しました。しかし、「それは単なる心理学的な比喩アナロジーにすぎないのではないか?」と思われる方も多いはずです。


そこでこの第2章では、その直感を最先端の物理学と脳科学の地平へと引き揚げます。挑むのは、2020年にノーベル物理学賞を受賞した天才ロジャー・ペンローズが提唱した、脳内のミクロの世界における量子重力作用――「Orch-OR理論」です。私たちの脳の奥深く、細胞の骨格に隠された「意識の火花」の正体に迫ります。

この「意識の量子現象」を、単なる心理学的なアナロジー(比喩)から、実在する物理現象へと引き揚げようとした狂気的かつ天才的な試みこそが、2020年にノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)と、アリゾナ大学の麻酔科学者スチュワート・ハメロフ(Stuart Hameroff)による「Orch-OR(Orchestrated Objective Reduction)理論」である。


ペンローズは、人間の意識、特に数学的なインスピレーションや「理解する」という行為は、チューリングマシン(計算機)のようなアルゴリズム的計算の延長線上にはないと考えた。ゲーデルの不完全性定理を引き合いに出しながら、彼は「人間の脳は、いかなるコンピュータも実行不可能な『非計算論的』な処理を行っている」と主張した。


では、脳のどこでその非計算論的なジャンプが起きているのか? 通常の脳科学は、ニューロン間のシナプス結合や電気信号の発火(古典物理的な現象)に意識の起源を求める。しかしペンローズは、それではただの複雑な回路コンピュータと同じであり、クオリア(主観的な質感)や自由意志は生まれないとした。


そこでハメロフが提示したのが、ニューロンの内部に存在する細胞骨格「微小管(マイクロチューブル:Microtubules)」だった。微小管は、チューブリンと呼ばれる中空の円筒状に並んだタンパク質で構成されている。ハメロフは、このチューブリンの内部にある疎水性ポケット(水分子を排除した領域)の中で、電子の配置が「量子重ね合わせ状態」を維持できるのではないかと仮定した。


量子力学の標準的な解釈(コペンハーゲン解釈)では、波の収縮には「人間の観測」が必要とされる。しかしこれでは、「観測する人間の意識を説明するために、人間の観測が必要」という循環論法(シュレーディンガーの猫のジレンマ)に陥る。


ペンローズはこの問題を解決するため、アインシュタインの一般相対性理論(重力と時空の歪み)を量子力学に融合させた。彼によれば、ある物質(あるいは電子の配置)が量子的な重ね合わせ状態になると、それは宇宙の最小の織物である「時空構造プランクスケール」そのものを2つの異なる形状に分岐させる。


重なり合った2つの時空の歪みは、一種の「エネルギー的な不条理(重力的な自己エネルギー)」を生み出す。この歪みの差が一定の限界値(プランク定数に関連する閾値)に達すると、外部から誰も見ていなくても、時空構造自体の重力的質量によって、自然にどちらか一方の時空へとパチンと「客観的に収縮(Objective Reduction = OR)」する。


ペンローズは、この一瞬の収縮の瞬間に、宇宙の根本に埋め込まれた原初的な意識の断片プロト・クオリアが弾け飛ぶと考えた。脳内の無数の微小管が、細胞全体、あるいは脳全体で調和オーケストレーションし、この客観的収縮をシンクロさせて起こすとき、私たちは「ハッ」と何かに気づき、選択を確定させ、意識的な一瞬を生きる。これが「Orch-OR理論」の核心である。


私たちの意識が1秒間に数十回、あるいは数百回という高頻度でこの「量子重力的な収縮」を繰り返しているとすれば、私たちの行動決定とは、絶え間ない「揺らぎ」と「固定」の連続である。


ここで重要なのは、ペンローズの理論における「収縮」は完全なランダム(確率的)ではなく、時空の幾何学に刻まれた「非計算論的な要因」によって選択されるという点だ。そして、脳外の環境や、私たちが受ける「視線(外部の量子デコヒーレンス因子)」は、この脳内の微小管の調和にダイレクトに関関与してくる。


私たちは宇宙の時空そのものと紐づいており、私たちの脳は、外部からの観測の圧力と、内発的な量子重力の崩壊のせめぎ合いの中で、次の行動を編み出しているのである。

第2章をお読みいただき、ありがとうございました。


脳科学の常識であるニューロンの電気信号を超え、細胞骨格である「微小管マイクロチューブル」の闇の中に宇宙の時空構造との繋がりを見たペンローズの仮説は、まさに既存の機械論的な脳観を揺るがすエキセントリックな深淵です。私たちが「ハッ」と何かを決断するその一瞬、脳内では時空を巻き込んだ量子重力的な崩壊と収縮が起きている――そう考えると、一つの選択の重みが全く違って見えてくるのではないでしょうか。


次章からは、この脳内の量子調和が、私たちが日常的に身を置く「3つの異なる視線(環境)」によって、どのように具体的な行動へと収縮・固定させられていくのか、その実相を解き明かしていきます。


本作を面白いと感じていただけましたら、ぜひご感想や評価をお寄せいただけますと幸いです。


評価ボタン(☆☆☆☆☆)に触れるあなたのその「観測(視線)」こそが、この思索という重ね合わせの波を、確固たる現実へと結晶化させるエネルギーとなります。次章の「三つの観測眼」の解析でお会いしましょう。

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