S級パーティが数年かけるダンジョン攻略、Excelなら1秒で終わるんですが?
※「王宮魔導師が一生かける難解術式、Excelなら1秒で終わるんですが?」の続編ですが単体でも読めます。 (シリーズから飛べます)
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異世界召喚でハズレスキル扱いされた元限界OLが、スキルExcelで無双するお話です。
「……アズサ、頼む。この通りだ! 君の力が必要なんだ!」
定時退社まであと10分。
私のデスクに突進してきたのは、王国騎士団長のレヴィス様だった。
普段はクールなイケメン騎士団長だが、今は必死な形相で私に頭を下げている。
「レヴィス様。……私の定時後のスケジュール、空き状況はご存知ですよね? パブのハッピーアワーは待ってくれないんです」
「わかっている! だが、古代魔法の石碑が見つかったんだ。場所は『静寂の古穴』の最深部。だが、解読不能な魔力言語で封印されていて、魔導師たちが束になっても歯が立たないんだ!」
古代石碑の解読。……つまり、言語の翻訳。
TEXT関数やSUBSTITUTE関数を使って置き換えれば、なんてことのない仕事だ。
「……残業手当は?」
「銀貨50枚。プラス、王宮御用達の最高級エール1樽だ!」
「……交渉成立です。行きましょう。直行直帰が原則ですよ」
***
というわけで、私は騎士団の一行に混じって、薄暗いダンジョンの奥深くを歩いていた。
どうせExcelがあれば簡単な仕事だろうと、そう高をくくっていたことを私は後悔する。
「……ッ、伏せろ!」
レヴィス様の鋭い声と同時に、暗闇から何かが飛び出してきた。
壁と同化した魔物『カメレオン・レイス』だ。
「うわっ……!?」
悲鳴を上げる間もなく、あちこちから不気味な気配が迫る。
騎士たちが剣を抜くが、姿の見えない相手に防戦一方だ。
「ひぃ! 魔物が出るなんて聞いてないですよ……!」
銀貨50枚じゃ割に合わない仕事だ。
「くそっ、これでは奇襲を防げない! アズサ、下がっていろ! こいつらはレベル5以上の手練れだ。我々でも苦戦する……!」
「レベル……?」
私はレヴィス様の背中に隠れながら問い返した。
「ええと、この世界の魔物には、強さを示す『レベル』という数値が割り振られているんですか?」
「ああ。魔導師の鑑定眼があれば数値が見えるが、こんな乱戦の中じゃ一人ひとりのレベルを確認して優先順位をつけるなんて不可能だ!」
数値。
レベル。
個体ごとのデータ。
「……なんだ。数値化されているなら、話は別です」
私は眼鏡を指で押し上げた。
「レヴィス様。それ、なんとかなるかもしれません。……スキル『Excel』発動」
『――スキル「Excel」が、発動しました。』
脳内に響く無機質な声。
次の瞬間、私の視界がスプレッドシートへと切り替わる。
通路全体が整然としたセルに分割され、隠れている魔物たちがデータとして浮かび上がった。
「『条件付き書式』、発動」
私は空中に指を走らせる。
「レベル5以上の個体に色を付けて。レベルが高いほど『赤』を濃くする『カラースケール』を設定」
「アズサ? 何を――うおっ!?」
レヴィス様が驚愕の声を上げた。
私のスキルを共有された彼の視界でも、暗闇のあちこちが「鮮やかな赤」に染まったからだ。
「レヴィス様、時計の2時方向。色が濃い赤、レベル8です。……天井のあそこはレベル12。真っ赤ですね」
「なっ……なんだ、これは!? 魔物の位置と強さが、色の濃淡で丸見えじゃないか!」
「ええ。ただの『条件付き書式』です。赤が濃いものから順に処理してください」
その後は、もはや戦闘ではなく「作業」だった。
赤が濃い強敵から順に騎士団が叩き、色の薄い雑魚は後回し。
優先順位が可視化された騎士団は、完璧な効率で魔物を駆逐していった。
しかし。
最深部の石碑の間に入った瞬間、私の視界が「真っ赤な警告」で埋め尽くされた。
「……ッ!? なんだ、この色は! 目が痛い!」
部屋の中央に鎮座する巨大なガーディアン。
それは、もはや赤を通り越して、「どす黒い赤」のような色に染まっていた。
レベル:99。
「ぐっ、強すぎる……! 攻撃が一切効かない! アズサ、下がれ!」
「ひぃい……!」
レヴィス様の一撃が弾かれる。圧倒的なステータスの差。
さすがにこれは私も危ない。
「くそ……弱点が分かれば!」
「弱点、そうか……!」
もしこの世界の魔物がゲームのようにレベルで数値化されているとしたら。
だったら――
「条件付き書式……ルールの編集。『防御力が最低の箇所』を、青色で塗りつぶして」
ピカッ。
ガーディアンの右膝。そこだけが、不自然なほど鮮やかな「青色」に変わった。
「レヴィス様! あの青いセルを叩いてください! そこが防御力が低い場所……つまり弱点です!」
「……信じるぞ、アズサ!」
レヴィス様が放った一撃が、青い光を貫く。
無敵を誇ったガーディアンは、まるで「保存せずに閉じたファイル」のように、あっけなく霧散していった。
***
数日後。
私の元には、かつてないほどの人だかりができていた。
「うちのダンジョンも可視化してくれ!」という冒険者たちの依頼書が、山のように積まれている。
私は、ため息をついた。
「スキル『Excel』発動」
空中に浮かぶ膨大な依頼書リストに対し、私は厳格な条件を設定した。
「条件付き書式設定」
私は指をパチンと鳴らした。
「『報酬が銀貨50枚以上』かつ、『難易度が3以下』をパステルグリーンで塗りつぶして」
パッ。
数百枚の羊皮紙の中で、わずか数枚だけが、目に優しい緑色に輝いた。
私は緑色の羊皮紙だけを掴み、バッグを持って立ち上がった。
「よし。定時まであと5分。この依頼を受けたら、そのまま直帰して、エールをいただくとしましょうか」
『fx』の文字が、夕焼け空に静かに輝いていた。
お待たせしました!Excelなら1秒シリーズの続編です。
今回は「条件付き書式」をテーマにかいてみました。
もし異世界Excelでこんなことできそう!というアイディアがあれば感想欄にいただけるとネタにさせていただきます!
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「異世界転生おばあちゃん ~王子を孫扱いしていたらなぜか溺愛されています~」連載中です。
人生80年の知恵と図太さで異世界を無双していくおばあちゃん(見た目は少女)のラブコメディです。




