第7話 追放鑑定士とトラッパー
ゴブリンは30体を超える数。
それに対し、こちらの戦力は俺とリリアの二人だけ。
更に、気絶している二人の冒険者を救出する必要がある。
かなり厳しい状況だが……一度覚悟を決めた以上、最後まで戦うのみだ。
俺とリリアが顔を見合わせて頷いたタイミングで、先頭のゴブリンがこちらに飛びかかってきた。
飛びかかってきたゴブリンの喉元を突き刺しながら、横に避ける。
そして、立て続けに他のゴブリンもこちらに向かってくる。
それから、俺とリリアは、ひたすらゴブリンと斬り結び続けた。
最初に負った頬の掠り傷以外にも、腕や肩などに小さな傷が次々とできていく。
幸いなのは、相手に後衛が居ない事。
弓矢を扱うアーチャーが居たら、恐らく後方からの射撃で致命傷を負っていただろう。
回避し、斬り、また回避する。
ゴブリンたちの攻撃の合間を縫って、ただひたすら数を減らす事だけに専念する。
残りの敵の数は考えず、ただただ剣を振るうのみ。
何分経過しただろうか。
数分かもしれないし、数十分だったかもしれない。
気付けば、残りのゴブリンはあと5体となっていた。
「ふぅ……」
息を吐きながら、現状を確認する。
俺は体の各所に傷を作っているが、まだ戦闘は続行できる。
リリアも似たような感じだが、俺より僅かに傷が少ない。
そして、倒れている二人は、未だ意識が戻らない。
もしかすると……もう……。
いや。
考えるな。
良い方向にのみ考えろ。
あの二人は気を失っているだけで生きていて、俺たちはあのゴブリン5体を全て殺し、ここから生き延びる。
そのためには、何が最善か。
やはり、あの二人を先に救出すべきか。
ゴブリンたちは俺たちが30体近い同胞を殺したからか、恐れを抱いて動きが鈍っているように見える。
現に、俺たちが黙って息を整えている間も、こちらを睨むばかりで一向に攻撃してこない。
それが好機になりうる。
先に二人を逃がすか?
いや、無理だ。これまでの戦闘音の中でも意識が回復しなかった以上、自力で逃げてもらうのは不可能。とはいえ、俺たちが運ぶのも、目の前にゴブリンが居るこの状況では無理だ。
つまるところ、どうしても、あのゴブリンたちを始末する必要がある。
「……やるぞ、リリア」
「ん」
俺が必死に頭を回転させている間に、リリアの息も整った。
傷を負ってしまってはいるが、当初の状況から考えれば、かなり良い状況。
行ける。
そう、思っていた。
俺とリリアは同時に踏み込むと、ゴブリンたちに斬りかかった。
しかし。
ズサッ、と、リリアが転んだ。
ただ転んだのではない。
床には、いつの間にか、油が敷かれていた。
ゴブリンの中に、罠師――トラッパーが紛れ込んでいたのだ。
――クソッ、罠には気を付けていたのに……このタイミングでか!
ゴブリンの内3体が、転んだリリアを狙った。残りの2体は、俺の方へ。
ちくしょう!
俺は心の中で悪態を吐きながら、俺に向けて剣を振るうゴブリンに体当たりした。
振るわれた剣が俺の右肩に突き刺さり、激痛が走ったが、無視してそのまま奥に居たもう一体ごとゴブリンを押し倒す。
突き刺さった剣が倒れたゴブリンの手元に戻った事を確認すると、俺は精一杯腕を伸ばして、リリアに斬りかかろうとしている内の一体の背中に剣を突き刺した。
――あと二体。
もう一体は通路のスペースの都合上、後ろに居るのでまだ問題無い。
問題は、今にもリリアの背中を突き刺そうとしているゴブリンだ。
リリアも起き上がろうとしているが、床に油が撒かれているため、思うように起き上がれていない。
どうする。
ここからでは、俺の剣が届く前に、ゴブリンの剣がリリアの背中を貫いてしまう。
考えている暇は無かった。
俺はほぼ無意識に、手に持っている親父製の剣を、ゴブリンに向かって投擲した。
剣はくるくると回転しながら飛び――運良く、ゴブリンの首を切断した。
――あと、一体。
最後のゴブリンは、未だ後方に居るままだ。
俺は投擲した剣を急いで拾うと、最後のゴブリンを殺すため、踏み込んだ。
それが、間違っていた。
「――ッ!?」
ガタッ。
床が抜けた。
落とし穴だ。
トラッパーはアイツだったのだ。
ずっと後ろで、俺たちを罠に嵌める機会を、虎視眈々と狙っていた。
そして俺は、それにまんまと嵌まった。
俺は空中で剣を捨て、着地の態勢を取る。
落とし穴の罠に掛かるのは久々だが、着地の瞬間さえ注意すれば、あまり脅威ではない事は覚えている。
落下の浮遊感が恐怖をもたらすが、無視して心を落ち着かせ、受け身を取って着地する。
幸い、骨が折れたりする事もなく、無事に着地する事ができた。
カランカラン、と俺とほぼ同時に落下した剣を拾う。
剣が壊れている様子は無い。
よかった。流石は、親父製。耐久力も抜群だ。
剣に問題が無い事を確認すると、俺は剣を支えにしながら立ち上がった。
ここは、3層。
体の各所に軽傷を負い、肩に重傷を負った上で、一人で3層から帰還しなければならない。
「まったく……」
俺は溜め息を吐いた。
最後の最後でドジを踏むとは。
リリアを守るために、気が急いてしまったのだろうか。
そうだ、リリアは?
リリアは無事か?
残っていたのはトラッパーだけだ。
トラッパー単体には、大した戦闘力は無い。
他の罠が無ければリリア一人で余裕だろうし、トラッパーが逃走した可能性もある。
ならば、心配しなくていいか。
今はそれよりも、自分の事を心配しなければ。
俺は頭を振って意識を切り替えると、記憶の中にある2層への階段目指して、歩みを進めた。
どうしよう。
ご主人様が。
転んでしまった私を庇うために飛び出て、落とし穴に落ちてしまった。
ゴブリンは搦め手も使ってくるから罠には気を付けろ、とご主人様に注意されていたのに。私は床に撒かれた油に気付かず、まんまと罠に嵌まってしまった。
生き残った最後のゴブリンは、逃走した。自分一匹では私に勝てないと判断したのだろう。
私は横になったままぐるぐると回転して移動し、油溜まりから抜け出して立ち上がる。
体が油塗れだが、関係無い。ご主人様を助けなければ。
落とし穴に飛び込む?
でも……そうしたら、せっかく守ったこの人たちを、置いて行く事になる。
私が逡巡していた時、私たちが元来た方から、声がした。
「お~い、大丈夫かー! あんたらが遅いから、戻ってきたんだが――」
ご主人様が最初に逃がした男だった。
「おい、あんたのパーティーメンバーはどうした? 姿が見えないようだが?」
「…………」
私は無言で落とし穴を指差した。
男はそれで察したのか、押し黙って、倒れている仲間の様子を確認した。
男は二人ともに脈がある事を確認すると、懐から何かの瓶を取り出した。
その瓶の中身を、倒れている二人に振りかける。すると、みるみる内に傷が塞がっていった。
ポーション、というものだろうか。
傷が塞がって少しすると、倒れていた二人は目を覚ました。
「っ、たた……」
「あれ、私……」
「おお、良かった……!」
目を覚ました二人を見て、心底喜ぶ男。
助かったのは良かったが……ご主人様は、下の階層に落ちてしまったままだ。
もう、あの三人は大丈夫だろう。
私は三人から視線を外すと、落とし穴に飛び込もうとした。
そんな私を見て、男が叫んだ。
「おい、あんた! 早まるな!」
「…………」
「あんたらには恩があるから、協力する! 3層への階段の場所は知ってるから、そっちから行った方がいい! 落とし穴から行けば、遭遇できない可能性があるぞ!」
「…………」
ご主人様は、凄い人だ。
男が言うように、今から私が落ちても、もうそこにはおらず、上を目指して行動していてもおかしくない。
私は少し悩んだ後、男の言葉に従う事にした。
倒れていた二人も回復し、私にお礼を言ってきた。
「助けてくれてありがとう。僕はクメール」
「本当にありがとう。私はポーナよ」
「本当に感謝する。俺はユンザだ。あんたのとこの仲間は、必ず見つける」
「……リリア」
こうして、私は、この三人と共にご主人様を探す事になった。
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