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追放鑑定士は、真の力で才能の原石だけを拾って最強パーティーを作る  作者: しぃ
第1章 追放鑑定士と新たな仲間たち
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第5話 少女剣士の涙

 それから、リリアは合計で二十体ほどの魔物を討伐した。


 この街のダンジョンの1層に出る魔物は、マイナーアント、メジャーアント、キラーアントの三種類。

 その中でも、マイナーアントを11体、メジャーアントを7体、キラーアントを2体討伐した。マイナーアントに苦戦しかけたリリアだったが、その上位の存在であるメジャーアントやキラーアントは、危なげなく討伐する事ができていた。

 もちろん、俺もただ後ろで見ているだけでなく、ある程度のサポートはした。しかし、リリアの成長が思いの外早く、後半は俺の仕事はほとんど無かった。


「よし、そろそろ外は夕方だろうし、今日はこれぐらいにして帰ろう」

「……ん」


 そして、これまでの戦闘を経て、リリアの態度が少し軟化した気がする。

 今日の朝よりも少し、返事を返してくれる事が多くなったのだ。これは、良い傾向だろう。


 そんな事を思いながら、入手した魔石がしっかり小袋に仕舞われている事を確認し、俺はリリアを連れて帰路に就いた。




 出入口とあまり離れていなかった事と、周辺の魔物をある程度殺した事もあってか、帰り道は魔物と遭遇せずに済んだ。

 もうすぐ帰れるという気の緩みと、それまでの疲労が最も蓄積した瞬間である帰り道は、パーティーが壊滅しやすいタイミングと言っても過言ではない。なので、魔物と遭遇せずに済んだのは運が良い。


 職員に冒険者カードを提示し、帰着報告をする。

 ちなみに、ダンジョンに潜る時には、最初に予定帰還日を伝える必要がある。それを超えても帰ってこなかった場合、行方不明判定が出され、その後更に一週間の間帰還してこないと、死亡判定が出される。

 俺たちの場合は今日中に帰ると伝えていたので、仮に日付が変わっても帰ってきていなかった場合、行方不明判定が出されていた、という事だ。


 ダンジョン入り口から出て、ギルド内部に入る。

 窓から見える外の景色は夕焼けだった。まだ夜にはなっていないらしい。


 そのせいか、アリアのカウンターには人が並んでいなかった。

 リリアを連れてアリアのカウンターに向かうと、こちらに気付いたアリアが手を振ってきた。


「おかえり~。怪我はしてない?」

「ああ。リリアが危うく怪我をしかけたけど、大丈夫だ」

「危なっかしいわね……ちゃんと守ってあげるのよ?」

「……善処する」


 多分、そう遠くない内に守られる側になるぞ……という言葉は飲み込んでおいた。


 さておき、アント系の魔物たちから回収した魔石を、アリアに見せる。


「お~、結構倒してきたのね。これ、レイがやったの?」

「いや。ほとんどは、リリアがやった。俺は背後からのサポートぐらいしかしてない」

「へぇ~、リリアちゃん、初日なのにやるじゃん」

「…………」


 アリアに褒められたリリアは、何故か俺の背後に隠れた。

 恥ずかしかったのだろうか?


「あちゃ……人見知り?」

「多分……。ま、取り敢えず、それは全部売るから、査定してくれ」

「ほ~い」


 残念そうにしたアリアに査定を頼むと、アリアは俺の手から魔石を持って、奥に消えていった。

 熟練のギルド職員はその場で査定を終えたりできるらしいが、まだ3年目のアリアはそこまでではない。奥にある資料と見比べたりして、査定を行うのだ。


 アリアが査定をしている間に、リリアに今日の夕飯を尋ねる。


「リリア、何か食べたい物とかあるか? 特にないなら、昨日のベルンさんの店に行くけど……」

「……それがいい」

「そっか。分かった」


 昨日結構な勢いで食べていたし、ベルンさんの店が気に入ったのだろうか。


 コクリと頷いたリリアを見て、心の中でそんな事を思った。


 やがて、査定を終えたアリアが、金の入った小袋を持って戻ってきた。


「はい。全部で銀貨5枚よ」

「安いなぁ……」

「いや、そりゃ、Aランクの稼ぎと比べたらそうでしょうよ。むしろ、5日も宿に泊まれる事に感謝するべきよ……あ、リリアちゃんが居るから、2日分だっけ?」

「いや、相部屋だから間違ってないぞ」

「あ、相部屋ぁ……?」


 俺とリリアが相部屋で宿に泊まると聞いて、怪訝な顔をするアリア。

 一瞬して、険しい顔になって言った。


「まさか、リリアちゃんに手を出したりは……」

「してねぇよ! 妹みたいなもんだよ……」

「知ってる? そういう事を言う男は、大体内心ではそう思ってないのよ」

「んぐっ……」


 喉の奥から変な音が出た。

 実際に思ってるんだけどなぁ……。


 アリアは溜め息を吐くと、続けて言った。


「はぁ……まあ、一応信じてあげるけど……興奮して手出したりしちゃダメよ?」

「しないわ……それに、もし仮にそうなったとしても、娼館とか手段はあるだろ」

「そ、それはダメよ……」

「なんで?」

「え、えと……」


 理由を問うと、アリアは言葉に詰まった。

 娼館を利用する冒険者は結構多いと思うのだが、何故ダメなのだろうか。


「そ、そう! お金の無駄だからよ!」

「あー……まあ確かに、今は金が少ないしな……」

「そうそう! だから娼館はやめておいた方がいいわ!」

「ま、元々使う気も無いけど、そうまで言うならやめておくよ」


 一度でも娼館に行けば、夢中になって続けて通い始めそうで怖い。

 勿論そんなつもりは毛頭ないが、人の欲というのは底知れないからな。リスクヘッジをしておくに越した事は無い。


「それじゃ、俺たちはご飯食べてくるよ。また明日」

「あ、うん、また明日」

「…………」


 俺がアリアに別れを告げると、それに呼応してリリアが頭を下げた。


 ……少しは心を開いてくれている、という事だろうか。







 またもベルンさんの店でお世話になり、今度はしっかりと料金を支払った。

 料金は、二人前で銀貨1枚。結構良心的な価格ではなかろうか。


 そして今度もガツガツと飯を食べたリリアを見て、俺はなんだか、心が温かくなった。


 ベルンさんの店を出た頃、完全に日が落ちた。


 う~ん……日が落ちたとはいえ、まだ宿屋で寝るには早い。

 ……もう一度、奴隷市場に顔を出すか?

 リリアの才能を見て冒険者を続けると一旦は決めたが、冒険者を続けるならば、リリアと俺の二人だけでは厳しい。

 他の才能のある奴を見つけて、買うのもいいかもしれないな。


 ただ……奴隷市場は深夜にも開いているはず。


 なら、それまでの間に、リリアの行きたい所でも行こうか。

 リリアは少しずつこちらに心を開いてくれているし、今日も活躍してくれたので、その褒美……というか、お礼をしてあげたい。


「なあ、リリア。どこか行きたい所はあるか?」

「……行きたい……所……?」

「ああ。流石に街の外には行ってやれないが……それ以外なら、どこでもいいぞ」

「…………」


 そう伝えると、リリアは首を傾げて考える様子を見せた。


 突然言っても、思い付かないだろうか……。


 リリアにゆっくり考えてもらうために、急かしていると思われないよう、ジッと待つ。


 しばらくして、リリアはボソリと呟くように言った。


「……お墓、行きたい」







 この街――サバンド街で死んだ人間は、基本的に街外れの共同墓地に埋葬される。

 街外れと言っても、城壁に囲まれた内側なので、魔物が発生したりという事はない。


 共同墓地は街の死者のほぼ全てが埋葬される場所なので、きちんとした管理も行き届いており、誰でも自由に訪れる事ができる。


 リリアは墓地の敷地に入ると、迷わずある場所を目指した。

 俺は無言でリリアを追う。


 きっと……彼女が奴隷になる以前の事が、関わっているのだろう。


 そして、リリアはある墓石の前で立ち止まった。

 俺も止まり、周りを見渡してみる。


 ここは……死んだ冒険者の墓石が多いな。

 近い場所に同じ職業の者が集まる法則があるわけではないだろうが、同時期に死んだ者は同じ場所に集まっているだろう。

 ならば、リリアが墓参りしに来た相手も、冒険者なのかもしれない。


 視線を戻し、リリアの目の前にある墓石を見る。

 書いてあるのは、名前と生没年月日ぐらいで、リリアにとってどういう相手だったのかは分からない。


 ただ、なんとなく俺は、両手を合わせて瞑目した。


 冥福を祈った後、未だ微動だにせず立ち尽くしたままのリリアに、祈り方を教えてやる。


「リリア、こういう時は、目を閉じて両手を合わせるんだよ」

「…………」


 リリアは、黙って俺の言葉通りの事をした。


 やがて……リリアの目から、一筋の涙が零れた。


 リリアが初めて、俺の前で感情らしい感情を見せた瞬間だった。




「……もう、大丈夫」


 しばらくして、涙の止まったリリアは、俺に向かって小さな声で言った。


 俺は無言で頷くと、墓石を一瞥して、リリアと共に墓地を出た。


 あの墓が誰のものなのか、興味はあったが……それをリリアに訊くのは、野暮な気がした。

 その内リリアが話したくなった時に、静かに聞いてあげる。そうするべきだろう。


 俺はそう考え頭を振ると、後ろを付いて来るリリアに言った。


「それじゃあ、次は奴隷市場に行くから」

「え……」

「どうした、リリア?」


 俺が次の行き先を伝えると、リリアは急に立ち止まって呆然とした。


 俺が振り返ると、リリアは涙を流しながら俺に飛びついてきた。


「捨てないで……! なんでも、するから……! 捨てないで……!」

「え、えっと……」


 あまりに突然の出来事に、固まる俺。


 捨てるなんて、一言も言ってないんだが……。


「捨てない、捨てないから。一回落ち着こう」

「だ、だって……一度奴隷を買った人が市場に戻るのは、売るためだって……!」


 誰から聞いたのだろうか。

 奴隷商人か、他の奴隷か。どちらにせよ、要らん事を言ってくれたのに変わりは無い。


「売らないよ。リリアが俺に毒でも盛らない限り、絶対に売らないよ」

「で、でも……!」

「分かったよ。そこまで言うなら、今日は行かないよ」

「…………」


 俺がゆっくりと頭を撫でながらそう言うと、リリアは涙を流しながら黙って頷いた。


 早いところ戦力を増強したいが、ずっと無表情だったリリアが、ここまで感情を露わにしてくれているのだ。言う事を聞いてあげるべきだろう。


 そして……今日のリリアは、涙もろいらしい。


 リリアが泣き止むまでの間、俺はリリアの頭を撫で続けた。

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