表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放鑑定士は、真の力で才能の原石だけを拾って最強パーティーを作る  作者: しぃ
第1章 追放鑑定士と新たな仲間たち
20/21

第18話 魔族少女の心

 この人間は、何が目的なのだろう。自分に何をさせたいのだろう。


 新たな主人――レイに奴隷として買われた時から、私はずっとその事を考えていた。

 宿に泊まる時に夜伽をさせるわけでもなく、強引に襲ってくるわけでもなく。

 ダンジョンに入り、私を盾にするわけでもなかった。


 その得体の知れなさが、私には怖かった。

 何かをされる前に、逃げようと考えた。


 奴隷に課された制約は僅か二つ。

 主人の命令に背かない事と、主人に反意を抱かない事。

 つまり、言われた事の範囲外であり、かつレイに危害を加えたりする内容でなければ、私はなんでもできる。


 そこを上手く利用した、つもりだった。

 レイとリリアが殺したゴブリンの解体に夢中になっている間に、コッソリと抜け出し、地上まで逃げる作戦だった。

 地上まで逃げれば、私は自由だ。狭い街の中ではいつか見つかるかもしれないが、レイ以外の人間であれば見つかっても問題は無いし、最悪レイに見つかりそうになれば、街の外に逃げればいい。魔物に襲われて死ぬかもしれないが、その覚悟もあった。


 しかし、私の計画は、途中で失敗した。

 自由になれるという高揚感の前に私の視野は狭まり、避けられたはずの罠に引っ掛かった。

 ダンジョンに入る階段を下る時、レイが私に忠告していた事だった。私はレイの話を聞いていなかったから、罠についてよく分からなかった。


 結果、大量のゴブリンをおびき寄せ、囲まれる事になった。


 私は死を覚悟した。

 私にできる事と言えば、申し訳程度の風魔法のみ。詠唱の速度は遅いし、魔力の量も少ない。少し魔法を放てば動けなくなるし、そもそも囲まれた状況下では、魔法を詠唱する余裕も無かった。


 死ぬ。

 死を前にして、私の中には絶望感だけでなく、これで自由になれる、という解放感もあった。

 最後まで、私は人間を恨み憎み嫌ったまま逝ける。最期まで、私は人間に心を許さなかった。


 その、はずだったのに。


 ゴブリンの解体を行っていたはずのレイは、大量のゴブリンの頭上を通って、私の傍までやってきた。

 呆れた事に、武器も何も無いのに駆け出して、私を助けに来たと宣った。


 私は驚き、呆れ、そして――何故か、嬉しかった。

 人間に対してそんな感情を抱いた事がおかしくて、私はまるで照れ隠しのように、そっぽを向きながら言葉を返す事しかできなかった。


 その時は、何故かはよく分からないけど、レイと一緒に死ぬのもいいかも、と思っていた。


 しかし、レイには私を死なせる気は無かった。

 レイは極限状態の中でできる事を考え、実行し、そして成功させた。

 私の魔法を活用してゴブリンの武器を奪い、そして抵抗した。


 魔力切れ寸前のお荷物となった私を庇って、傷を負いながら。

 傷だらけの中で、剣を振るい続けた。


 やがて、私とレイが居なくなった事に気付いたリリアも駆けつけてきた。

 私は初めて人間を信じて、残った魔力を最大限使い、人間に自身を託した。気を失うほどの魔力を使い、出会ってからほんの少ししか経っていない二人の人族に、自分の命を賭けた。


 人間など、恨んで憎んで、殺したいとまで思っていたはずなのに。

 私は、それを信じた。


「……ん」


 その結果が――これだ。


 私は、木製の天井を見上げ、柔らかいベッドで寝ていた。

 自分がダンジョンを脱出した事を理解し、ベッドの上で安堵する。


 周りを見渡せば、部屋にある他のベッドで満足そうに眠る、黒髪の青年と、銀髪の少女の姿があった。

 私を庇って負った傷は完治しており、二人は幸せそうな表情をしていた。


 私はベッドから起き上がると、二人が眠るベッドに移動した。

 ベッドに体重を掛け、二人の傍まで動く。


 レイの頬を撫でた。

 柔らかく温かくて、何故か心の奥から、愛おしいという気持ちが湧き上がってきた。


 リリアの髪を撫でた。

 手触りが良く美しくて、何故か心の底から、もっとリリアを知りたいという気持ちが溢れてきた。


 二人の手を握った。

 温かくて、確かに二人がここに存在しているという事が伝わってきた。


「……ありがとう」


 自分でも聞こえないくらいの小さな声で、感謝をした。


 二人の顔が、直視できなかった。


 見たくないわけではない。二人の顔をもっとよく見て、もっとよく知りたいのに、顔を見れば、何故だか顔と胸が熱くなって、目を逸らしてしまう。


 ……なんなんだろうか、この感情は。


 私は自分の心がよく分からなくなりながら、眠る二人の間に入り込み、再び眠りに就いた。







 パチリ、と目が覚める。

 カーテンを閉め切っているからか部屋は薄暗く、とても静かだった。


 ゴブリンの包囲網を抜け出した俺とリリアは、気絶したフェードラを抱えたまま、二層を脱出し一層に上がり、そして地上まで帰ってくる事ができた。

 武器の代わりにフェードラを担ぎ、その上傷を負っていた俺は、ひたすらリリアに守ってもらうのみだった。

 しかしリリアは嫌な顔一つせず、度々俺の身を心配してくれた。


 再び武器を失くし、治療院での治療代も支払う事になったが、無事にフェードラを罠から救えたので、後悔はしていない。


 昨日の出来事を振り返っていると、ある事に気付く。

 自分のものではない体温を感じている。それも、二つ分。


 リリアは分かる。最近は自分から俺と一緒に寝ようとしてくるぐらい、俺の事を信頼してくれている。寝る時も体温を感じていたので、これは分かる。

 しかし、もう一つ分の体温は?


 俺は薄暗い部屋の中で、向かいのベッドで眠っているはずのフェードラを探した。

 しかし、どこにも見当たらない。


「……んんぅ……」


 自分の傍で声が聞こえた。

 ふと視線を下ろすと、俺の上に乗っかる形で、フェードラが居た。小さな体に実った豊満な胸が、俺の胸に押し付けられている。


「……参ったなぁ……」


 二人を起こさないよう、声を殺して呟く。


 恐らく、寝惚けたフェードラが、ベッドを間違えたのだろう。


 俺はフェードラを起こさないよう、ゆっくりと体を横に動かし、フェードラをリリアの傍で寝かせて、布団から出た。

 少しでも面白いな、と思って頂けたら、感想・評価・ブックマーク等して下さると非常に嬉しいです!今後の活動のモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ