第17話 魔族少女と罠
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「あとは、任せて」
黄金に輝く剣を携えて現れたリリアは、頼もしくそう言った。
俺はリリアに一つ頷くと、魔法を放ったフェードラを見る。
姿勢を崩して、杖を支えにしている。
恐らく、魔力切れ寸前なのだろう。
しかし、あと一発分はあると言っていなかったか?
「フェードラ、大丈夫か?」
「……ええ、大丈夫よ。でも、ギリギリね。立つのがやっとだわ」
「……そうか。後は、リリアに任せよう」
俺はフェードラの背中を支え、膝の上に寝かせると、リリアの方を見た。
リリアは恐ろしいほどの速度で縦横無尽に動き回り、輝く剣を振るっている。
時折、微かな音だが、ビリビリという音が聞こえてくる。『雷閃』の効果だろうか。
首を刎ね飛ばされずに他の部位を斬られたゴブリンも、その効果を受けて動きを止めているように見える。
もし一発攻撃を入れただけで動きを止める事ができるのなら、かなり強力なスキルだ。
しかし……いくらなんでも、ゴブリンの数が多過ぎやしないか?
俺とフェードラで十五、六体、リリアが十体ほどはもう倒しているはずだが、まだゴブリンの囲いは薄くならない。
「……二層に、そんなに大量のゴブリンが居たか?」
俺の独り言の呟きは、フェードラに反応される事は無かった。
二層全体で見れば、この量のゴブリンが居る事は不自然ではないだろう。
しかし、二層の一か所にこれほど固まるとは、おかしい。
……そうだ、罠か?
フェードラは罠に引っ掛かったと言っていた。なんらかの罠が、ゴブリンを呼び寄せていて、今もそれが継続しているのか?
「フェードラ、罠に掛かったと言っていたけど、どんな罠に引っ掛かったんだ?」
「え? えーと、確か……なんだか、瓶か壺みたいなのがあったはず……よく覚えてないけど……」
「……瓶? 壺?」
瓶や壺が使われる罠と言えば、真っ先に思い付くのは、俺が引っ掛かったような油の罠。
床に撒いて滑らせたり、松明や火矢を使って燃え上がらせたりする罠だ。
しかし、そんな罠でゴブリンが集まるわけがない。
……ともかく、そのフェードラが見た物を実際に確かめる必要がある。
「リリア! 床に変わった物が落ちてたら、拾って持って来てくれないか!」
「分かった。武器は違うよね?」
「ああ! 多分、瓶か壺みたいな見た目のはずだ!」
戦闘中に頼む事ではないが、リリアは文句一つ言う事無く了承してくれた。あるいは、リリアもこの状況を不自然に感じているのだろうか。
リリアに頼んでから数分後、俺の足元に壺が運ばれてきた。
「ありがとう!」
戦闘の合間を縫って持って来てくれたリリアに礼を言い、壺の中身を見る。
蓋を開けると、中にはよく分からない液体のような物が入っていた。
「…………」
スンスン、と臭いを嗅いでみる。
無臭だ。何の臭いもしない。俺の鼻がおかしくなっているのか?
「フェードラ、何か臭いはするか?」
「臭い? ……しないけど」
「そうか、ありがとう」
フェードラも感じていないという事は、本当に無臭だ。
取り敢えず、鑑定をするべきか。そうすれば、何か分かるかもしれない。
俺は壺に触れると、意識を集中させた。
――鑑定。
────────────────────
対象:臭覚式誘引壺
危険度:C
ゴブリンにとって好まれる臭気を発し、ゴブリンを誘引する。
その臭気は、人間には感知できない。
未来分岐:
A:状態継続(生存率42%)
B:壺破壊(生存率89%)
C:逃走(生存率51%)
────────────────────
「……なるほど、そういうわけか」
鑑定結果を見た俺はそう呟くと、フェードラを優しく床に寝かせ、壺を抱えた。
――これを壊せば!
「ふんっ!」
俺は遠心力を利用して、壺を思いっ切り遠くへと投擲した。
壺はゴブリンたちの頭上を飛翔し、ダンジョンの壁に激突して、パリンと割れた。中に溜まっていた液体が、ぴちゃりと壁や床、ゴブリンの頭部に降りかかる。
あとは、なるべくこの場から離れる。
あの液体がそう遠くない場所にある以上、ゴブリンが集まる事は変わらない。
「リリア、なるべくあっちの方向のゴブリンを蹴散らしてくれ」
「分かった」
壺を投げた方向とは反対方向を指差し、リリアに指示する。リリアは理由を問う事無く、俺の言葉に頷いた。
俺たちを直接視認できていないゴブリンは、液体の方に動いているが……一度俺たちを視認したゴブリンは、もうこちらしか向いてこない。
数を減らせば視界は開け、その分ゴブリンがこちらを視認する機会も増える。
結局、ジリ貧である事に変わりは無い。
……仕方が無いか。
「……フェードラ」
「何?」
「……悪い、魔力切れが近いのは分かってる……ただ、魔法を打って欲しい。あっちの方向に、臭いを散らす目的の風を。できるなら、なるべく遠くまで散らして欲しい」
「…………」
「頼む。フェードラが気絶した時は、俺の命に代えて守る」
「……そう。分かったわ」
俺の真剣な目を見詰めたフェードラは、ゆっくりと頷き、手にしていた杖を壺を割った方向へと向けた。
「巡りし風よ、この場に満ちる空気を散らせ。淀みを崩し、流れを乱し、その全てを四方へと散らせ。拡散する風」
噛み締めるような詠唱。
フェードラの手にある杖が緑色に輝き、風が放たれる。
少しして、フェードラの杖から輝きが消え、フェードラが杖を握る力が弱まり、杖が滑り落ちていく。
「よっ、と……」
俺はその杖を取り、気絶したフェードラの腰に差した。
……あとは、フェードラを担いで逃げるのみだ。
俺はフェードラを背中に担ぐと、リリアの背後に付いた。
「リリア、数を減らす事は考えずに、逃げる事だけ考えてくれ。放置してれば、こっちを見てないゴブリンはどこかに行くはずだ」
「分かった。離れないでね」
「ああ」
リリアはこちらも見ずに頷くと、駆け回るのをやめ、ゴブリンの囲いの一点のみを狙って剣を振るい始めた。
先程よりも鮮明に、雷のような音が聞こえる。
……リリアはこのスキルを使うのに、魔力を使っていないのだろうか。代償も無しに、雷を扱えるのか?
……いや、リリアに疲れた様子が無い以上、考えても意味が無いか。
一応、リリアに訊いておこう。
「リリア、疲れてないか? もし疲れてるなら、いつでも代わるぞ」
「ん、大丈夫。心配してくれて、ありがとう」
声音からは、無理している様子も感じ取れない。本当に大丈夫そうだ。
その後は、ゴブリンを斬り伏せ続けるリリアを黙って見た。
リリアは息切れ一つせず、ただただ無言でゴブリンを殺し続けた。表情も動かさない。
まるで、戦闘機械のようだ。
それから約十分後、俺たちは無事に包囲網を脱出する事に成功した。
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