第15話 唐突な未来分岐
翌日。
親父によるメンテナンスを終えたリリアの剣を受け取った俺たちは、その後その足でダンジョンまでやってきた。
リリアも成長して、フェードラという新しい仲間も増えたが、潜る階層は変えずに2層~3層にする事にした。
リリアと二人だけであればより深い階層に潜ってもよかったが、フェードラが増えた以上、危ない橋は渡りたくない。フェードラにダンジョンを慣れさせるためにも、最初の内は安全圏で戦うべきだ。
「リリア、フェードラに慣れさせるために、ゴブリンの数を調整できないか?」
「分かった」
目の前にゴブリンが数体見えた時、俺はリリアにそう頼んだ。
リリアはすぐに頷くと、素早く前に飛び込み、六体居たゴブリンの内四体の首を一瞬で落とした。
……素早い。流石、AGIがCに届いているだけはある。
剣を振る速度だけ見れば、『雷閃』の効果も相まって、ガルドのパーティーで剣士を務めていたレオスにも匹敵するかもしれない。
俺はリリアの剣戟に感心すると同時に、傍らに居るフェードラに言った。
「風魔法で、あそこに居る二体のゴブリンを殺せる? 時間が掛かるならリリアが時間稼ぎをするし、無理そうならリリアが殺すけど」
「……ふんっ」
俺の言葉に鼻を鳴らしながらも、フェードラは自身の手に持っている杖を構えた。そして、詠唱を始める。
「渦巻く風の精よ、鋭き刃を二つ顕現せよ」
フェードラが詠唱をしている事を感知したリリアが、剣でゴブリンをあしらい、時間を稼ぐ。
「逃れ得ぬ軌跡を描き、標的を断罪せよ。風の双斬撃」
フェードラの杖の先端にある、緑色の宝石のような物が煌めき、そこから二つの淡い渦巻きが生まれる。
そして、その渦巻きは形を変え、人の首ほどの太さの刃となる。
風の刃は空中を高速で飛翔し、リリアを殺そうと躍起になって得物を振るっているゴブリンの首を刎ね飛ばした。
「おぉ……」
詠唱の速度は、かつて見たミレナの魔法に遠く及ばないが、その辺りは今後改善していくだろう。
「フェードラ、凄いね」
「……ふんっ!」
本心から褒めたのだが、フェードラは杖を下げ、そっぽを向いた。
俺は余所を向いてしまったフェードラを見て苦笑いをした後、リリアの方に向かう。
リリアは俺が指示するまでもなく、殺したゴブリンたちの魔石をはぎ取っていた。
「リリア、お疲れ。怪我は無い?」
「ん、大丈夫」
「解体、手伝うよ」
あまり戦闘力の無い俺は、今後は死体の解体ぐらいしかやる事が無いだろう。
鑑定士としての仕事はほとんどできないし、仕方の無い事ではあるが、それでは申し訳ない。せめて、解体ぐらいはササっとやってしまうべきだろう。
そう思って、リリアと共に、無言でゴブリンの魔石を回収する。
六つある死体を三つずつに分け、二人でそれぞれの魔石を採る。
そんな風にして魔石を回収し、それが五つ目になった時。
突然視界の端に、見慣れた半透明の表示が現れた。
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パーティー未来分岐:
行動継続 → 数十秒以内に罠発動(確率89%)
原因:フェードラの移動
壊滅確率:54%
死亡確率:71%
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俺はその表示を見た途端、解体に使っていた剣を引き抜き、飛び出そうとした。
しかし、ゴブリンの死体の奥まで刺さっていた剣は、簡単には抜けない。
「チッ!」
反射的に舌打ちをすると、剣の柄から手を離し、そのまま飛び出した。
先程までフェードラが居たはずの場所には、誰も居ない。
そこから通ずる通路は、二つしかない。
――どっちだ!?
間違えれば、フェードラが死ぬ確率は高い。それどころか、俺やリリアまで死ぬ危険もある。
……どっちだ……どっちに行けば……。
俺が逡巡していた時、二つある通路の右側の通路の奥で、微かに緑色の光が瞬いた。
先程見た、風魔法の輝き。
「ッ!」
俺は右側の通路に向かって駆け出した。
通路の奥からは、「ギィ!」という、特徴的なゴブリンの鳴き声が聞こえてきた。
まずい……何も考えず飛び出してきてしまった。武器も無ければ、リリアも居ない。
今見えた光と、聞こえた鳴き声から推測するに、既にフェードラは戦闘を開始しているはず。そんな所に素手で飛び込んで、果たしてできる事はどれだけあるのか。
唐突にこんな事態に発展してしまったため、思考がまとまらない。
「……!」
焦りながら走っている間に、通路が終わった。
辺りが開け、大勢のゴブリンが目に入った。俺が囲まれた時と同じか、それ以上の数。
そしてその中央には、ゴブリンが居てよく見えないが、特徴的な黒い角だけが見えた。
……何故、こんなにゴブリンが集まっているんだ。
いや、それよりも。今はフェードラを救出する事が優先だ。
考えろ。
徒手空拳の俺一人でゴブリンを殺し、道を作ってフェードラを助ける事は不可能。
できても数体を気絶させるのが限度だろう。それもできるか怪しい。
リリアを呼んでくる?
いや、そんな悠長な事をしていれば、その間にフェードラが袋叩きに遭う事は確実。俺が突然走り出した事でリリアも付いて来るかもしれないが、それにしても魔石の回収が終わってからだろう。それならば、そこそこの時間は掛かる。
……手詰まりだ。方法が無い。
俺は辺りを見回し、それから天井の高さを確認した。
……あれなら、俺のAGIなら、もしかすれば……。
俺はAGIだけならば、そこそこ高い。
AGIというステータスは、足の速さや跳躍力、剣を振る速度などを表している。
一か八かの賭けになり、もし失敗すれば、俺は何もできずに死ぬ。フェードラも死ぬ。だが、フェードラを救うには、それぐらいの手しか思いつかない。
「……やろう」
俺は独り言を呟くと、深呼吸をし、前方に飛び出した。
フェードラに夢中になっているゴブリンの背中、そこを目掛けて――ジャンプ。そのままゴブリンの背中に足を掛け、もう一度大きく跳躍する。
天井ギリギリまで俺の体は飛び上がり、そこで推進力を失う。
俺は空中で体勢を変えると、足で天井を蹴った。斜め下方向への推進力を得た俺の体は加速して、ゴブリンの囲いの中心に居るフェードラのすぐ横に落下した。
しっかりと受け身を取り、落下時の衝撃を最小限に留める。
「……ってて……取り敢えず、成功かな」
空中で無理な姿勢を取ったため、ある程度の痛みは感じたものの、目立った傷は負っていない。
軽く肩を回して呟いた俺を見て、フェードラが叫んだ。
「ちょっ、な、はっ!? アンタ、何してるわけ!?」
「ん? フェードラを助けに来たんだよ?」
「な、何言ってるの!? 私は逃げたのよ!? 逃げてここまで来て、勝手に罠に掛かって死ぬ! そのはずだったのに、なんで……」
「助けたいから助けに来た、それじゃダメか?」
「っ……アンタねぇ……それにアンタ、剣も何も持ってないじゃない! 死ぬ気なの!?」
「死ぬ気は無いけど、まあもしかしたら死ぬかもね……」
フェードラの元に来るという目的は達成したが、ここからは何も考えていない。
ひたすら時間を稼いで、リリアが来るまで待機するしかないのだ。
フェードラは呆れた様子を見せたものの、俺から顔を背けながら叫んだ。
「仕方無いわね、私の傍に居なさい! できる限り魔法で守ってあげるから!」
「……ありがとう」
「うるさいわね、勘違いしないでよ! アンタが死んだら元も子も無くなるから、守ってあげるだけだからね!」
そうして、大量の数のゴブリンに囲まれた俺たちは、絶望的な状況で足掻く事となった。
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