第12話 追放鑑定士と魔族少女
翌日。
俺は宿の部屋で、リリアを説得していた。
「回復系の魔法が使える魔法使いが居れば、あんな事にはならないからさ……奴隷市場に行ってもいいか?」
「……でも……」
「他の奴隷を買っても、リリアの扱いは変わらないから。な? それか、リリアを奴隷の身分から解放してもいいから――」
「それは嫌」
「――そうか……」
俺の言葉を遮るくらい、奴隷から抜け出すのが嫌らしい。
何故だろう? 奴隷で居る事が好きなわけでもないだろうし……。
「ちなみに、なんで嫌なんだ?」
「……奴隷じゃなくなったら、ご主人様が私と一緒に居る義務が無くなって、捨てられるかもしれない」
「そんな事しないって」
「……じゃあ、こっちに来て」
納得できないのか、リリアは俺を自分の元に呼び付けた。
溜め息を吐きながら、床に座っているリリアの元に近付き、俺も座る。
「……ん」
すると、リリアは、俺の顔に近付いてきて――そのまま、唇と唇が接触した。
「……え?」
「……お父さんの仲間の人が、言ってた。男女が誓う時は、こうするって」
「…………」
子供になんて事を教えているんだ、その人たちは……!
「捨てないって、誓ってくれる?」
「……勿論。リリアの事は何があっても捨てないよ」
「……ん」
ようやく、リリアは嬉しそうに頷いてくれた。
結局、リリアを奴隷の身分から解放するとともに、新しい奴隷を見繕う事になった。
奴隷を解放する手順は、実に簡単だ。
奴隷を購入する時と同じく、『契約』というスキルを持った者――多くの場合は、奴隷商人が持っている――に手数料を支払い、契約を破棄してもらう。
手数料が若干痛かったが、何はともあれ無事にリリアを奴隷から解放する事ができた。
「よし、それじゃあ見て回ろうか」
「ん」
万が一はぐれたりしないように、リリアと手を繋ぎながら、市場内を歩く。
自分がずっと売りに出されていた場所に戻ってきて、リリアが嫌な気分にならないか心配だったが、どうやらそれは杞憂だったようで、リリアは笑顔で手を繋いでくれている。
その事に安心しつつ、三つある区画の内、普通の区画に行く。
目玉区画は値段も高いし人も多く、安価区画はリリアが元居た場所という事でやめておいたのだ。
普通区画の檻に居る奴隷を、商人からの許可を貰い、手当たり次第に鑑定と『未来視』で視ていく。
料理系のスキルを持った女奴隷や、魔道具――魔法を埋め込んだ道具――作りの才能がある男奴隷などが居た。
中には、希少なテイム系のスキルを持っている奴隷も居たが、元々のステータスが低い上に潜在的な力も僅かだったので、購入は見送った。
そして、確認するのが七人目に当たる、魔族の女奴隷。
魔族と一口に言っても、種類は様々だ。
人と違うのは、角や羽などの特殊な器官がを持つ事。獣人も似たようなものだが、獣人は何かの動物に近しい見た目をしているのに対し、魔族はどちらかと言えば魔物に近い見た目をしている。
そのため、魔族は嫌われやすい傾向にある。
この女奴隷の場合、額の右側に角が一本、そして背中の左側に羽が一本。どちらも、黒く禍々しい見た目をしている。透き通るぐらい真っ白い肌との対比が、魔族の不気味さを際立たせているように感じる。
それ以外の見た目で言うと、身長はリリアと同じくらいか、少し低いくらい。だがリリアと最も違う部分が胸だ。
そう、胸が大きいのである。
年齢相応の大きさのアリアや、ベルンさんの料理店で給仕をしている奴隷のルイーナと比べても、圧倒的に大きい。
胸が大きいためか、魔族であるにも関わらず、購入を考えている者がいくらか居るようだった。
例に漏れず、商人に許可を取り、魔族少女の肩に触れる。
リリアが何故かこちらに視線を送ってきたが、構わず鑑定を発動させる。
────────────────────
名前:フェードラ
種族:魔族
年齢:11
職業:奴隷(魔法使い)
STR:F
VIT:F
AGI:F
INT:C
DEX:F
MND:D
スキル:
・風属性魔法Lv2
・魔力回復速度向上Lv1
────────────────────
おぉ、求めていた魔法使いだ!
それに、風属性魔法という事は、回復魔法が使えてもおかしくない。『真実視』で視える内容次第では、買いだな。
フェードラという名らしき少女魔族のステータスに喜びつつ、続けて『真実視』を発動させる。
────────────────────
潜在成長上限:S
隠しスキル:
・魔力増幅(未解放)
・魔法暴走(未解放)
・魔力爆発(未開放)
・魔王因子(極低確率変異)
精神安定度:37%
信頼度:0%
裏切り確率:?%
────────────────────
隠しスキルが四つも……これは中々に凄い人材かもしれない。
リリアと同じく潜在成長上限も高いし、アリだな。
フェードラから手を離し、檻に提げられている値札を確認する。
魔族という事もあってか、他の檻よりも値段は僅かに安く、銀貨5枚という価格だった。
「うん、買いだな」
俺は一番近くに居た商人を呼び、フェードラを購入する旨を伝えた。
フェードラの購入手続きが完了し、奴隷市場を出る頃には、時間帯は昼になっていた。
普段ならダンジョンに潜っている時間で、昼食は軽い携行食を食べるのだが、今は地上に居る事だし、ベルンさんの店で食べるとしよう。
「リリア、フェードラ、行くよ」
「ん」「…………」
リリアは返事をしながら俺の手を握り、フェードラは不機嫌そうな顔で地面を蹴り、大きな靴音を鳴らして不機嫌である事をアピールした。
……なんか、昔のリリアを見ているみたいだなぁ。
そんな感想を抱きながら、ベルンさんの店目指して歩き始める。
リリアは笑顔で俺の傍に居るが、フェードラは数歩引いた位置を歩いている。
「フェードラ、そんなに離れてたら、迷子になるかもしれないよ」
「……ふんっ」
心配から言った言葉だったのだが、フェードラは何かが不満だったのか、鼻を鳴らして更に一歩後ろに引いた。
……うーん……これは大変そうだなぁ……。
ベルンさんの店は、昼間だからか、それなりに人が居た。
ベルンさんの言っていた通り、昼はそこそこ盛況らしい。
扉を開くと、チリンチリンとベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」
店内に入ると、給仕として働いているルイーナが案内をしてくれた。
「三名です」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
最初の内は慣れない事だからオドオドしている様子も見えたのだが、数日で完璧にマスターしたのか、俺たちを案内するルイーナの横顔はキリッとして見えた。
案内された席に座り――リリアは当然のように俺の隣に座り、フェードラはぶすっとした顔のまま対面に座った――、ルイーナに注文を訊かれたので、いつもの物を頼む。
最初にこの店に来た時に出された肉料理をリリアが気に入ったのか、ほぼ毎回あれを頼んでいるのだ。
店内に客がそこそこ居るせいか、料理が届くまでそこそこの時間が掛かった。
それでも、長いと感じるほどではなかった。あくまで、いつもよりはといったぐらいだ。
届けられた三人分の肉料理をそれぞれの前に置き、食べ始める。
リリアは奴隷の身分から解放されて遠慮が無くなったのか、何も言う事無く食べ始めた。
フェードラの方は――最初の頃のリリアのように、料理を前にして固まってしまっている。
「…………」
「食べていいよ。早くしないと、冷めちゃうから」
「……ふ、ふんっ!」
俺が声を掛けると、フェードラは鼻を鳴らして顔を逸らしながらも、料理に手を付け始めた。
反応が全く無かったリリアと、不機嫌そうに鼻を鳴らしまくるフェードラ……どちらも同じくらい、扱いが大変だ。
俺は溜め息を吐きながら、肉料理を口に運んだ。
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