第11話 少女剣士の不安
復路は、特に何も無く目的地である地上まで辿り着いた。
時折ゴブリンと遭遇したが、その全てはリリアが片付けた。勿論、俺含む他の四人が何もしなかったわけではないが、ほとんどの場合はリリアのみで事足りた。少しだけ、リリアの成長が恐ろしく感じる。
ともかく、俺たちは無事にダンジョンを脱出する事ができた。
復路で遭遇したゴブリンの魔石は、ほとんどがリリアの手柄という事で、全てこちらの取り分となった。
なんだか申し訳無いし、ユンザたちには世話になったので、今度会う機会があれば何か奢ろうと思う。
ユンザたちと別れた俺は、手に入れた魔石を換金するため、いつも通りアリアのカウンターに行く事に。
帰ってきた時刻が夜であったためか、アリアのカウンターには結構な人が並んでいた。
しまったな……先に治療院で怪我の治療をするべきだったか?
いやまあ、急いで治さなければならないわけではないし……大人しく待とう。
魔石入りの小袋を持ったまま待つ事数十分、ようやくアリアの元まで辿り着いた。
「お、レイ、リリアちゃん、おかえり~」
「ただいま」
「って、レイ、怪我してるじゃん! 珍しいね、治療院に行かなくていいの?」
俺の左腕の傷を見て、アリアが心配してくれた。
ちなみに、治療院とは、回復系の魔法が使える者たちが有償で治療をしてくれる場所の事だ。冒険者以外でも、誰でも利用する事ができる。
「換金が終わったら行くよ。それより、ほら、魔石」
「ん。おー、結構多いね」
俺を取り囲んだゴブリンたちと、復路で遭遇したゴブリンの魔石は、思ったより数があったらしい。
アリアは量の多さに少しだけ驚いた後、カウンターの奥に消えていった。
……というか、今のやり取りの間に、気付いた事が……。
「……リリア? どうしてそんなくっついてるんだ?」
リリアが、ずっと俺の腰辺りに引っ付いているのだ。
リリアは身長が低いとはいえ、これでは少し動きにくい。
「…………」
俺が問い掛けても、リリアは何も言わない。
そうこうしている内に、換金分のお金を持ったアリアが戻ってきた。
「はい、これお金ねー」
「ありがとう……なぁ、これ、どうにかしてくれないか?」
アリアから金を受け取った後、助けを求める。
アリアは俺にくっついたリリアを一瞥した後、両手を広げ肩を竦めた。
「諦めなさい。それより、後ろに人が並んでるから、早く退いた方がいいわよ」
「あ、ああ、悪い……」
結局、そのままリリアにくっつかれたまま、ギルドを後にした。
ギルドを出た後、俺たちは治療院にやってきた。
ちなみに、相変わらずリリアはくっついたままである。
「こんばんは~。怪我の治療ですか? それとも病気ですか?」
「怪我の治療をお願いします」
白っぽいローブを身に纏った女性が俺の応対をしてくれた。
「怪我の治療ですね。それでは、こちらへどうぞ」
女性に促されるまま、椅子に座る。
「治療してほしい箇所はどちらでしょうか?」
「えと……左腕と、右足です」
ようやくリリアが俺から離れた事を確認しながら、女性の質問に答える。
女性は怪我の位置や大きさなどを確認すると、まず俺の右足に手を置いた。
「優しき光よ、傷付きし身を包み、安らぎを与えよ。光の軽治癒」
ほわほわ、と温かい光が俺の傷を包み、次第に傷が塞がっていく。
数秒して光が消えた頃、俺の右足の傷は完全に治っていた。
次に、女性は左腕の傷に触れる。
「優しき光よ、傷付きし身を包み、安らぎを与えよ。光の軽治癒」
先程と同じ魔法を使い、俺の左腕が治っていく。
傷が完全に治ると、女性は笑顔で言った。
「治療完了しました。他にお怪我はありませんか? そちらの方も、大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
「いえ。それでは、お代の銀貨四枚を頂きます」
軽い治療で、一か所銀貨二枚。
中々のお値段ではあるものの、体が資本の冒険者としては、ここでケチっているわけにはいかない。
俺は躊躇いなく銀貨四枚を支払うと、もう一度女性に礼を言って、治療院を後にした。
「……なぁ、リリア。なんでまたくっついてるんだ?」
治療院を出た直後、再びリリアが俺の腰の辺りに引っ付き始めた。
ギルドを出た時は、足を怪我している俺を気遣って支えようとしているのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「…………」
「どんな理由でもいいから、言ってくれ」
優しくそう言うと、リリアは小さな声で理由を答えてくれた。
「……だって、ご主人様が私を守ってくれて、そのせいで落ちちゃって、血塗れで傷だらけで足も刺されてて、居なくなるんじゃないかって怖くて、それでその、怖くて……」
リリアは早口で、少し支離滅裂になりがら、涙声でそう言った。
……要するに、不安だったのだろうか。
俺が思っているよりも、リリアは俺の事を信頼してくれているのだろうか。
俺はリリアを宥めるために、腰の辺りに引っ付いたままのリリアの頭を撫でた。
「大丈夫だよ。もう居なくならないから」
「……ほんと? ずっと、私の傍に居てくれる?」
「ああ」
「いきなり、居なくなったりしない?」
「ああ」
俺の答えが満足したのか、リリアは一筋の涙を流しながら、安心したように眠った。
……いや、ここ外なんだけどなぁ……。
俺は眠ってしまったリリアを抱えると、宿屋に向かった。
宿屋のチェックインを済ませ、リリアをベッドに寝かせ、荷物を床に置くと、リリアが目を覚ました。
「……ねぇ、ご主人様」
「なんだ?」
目を覚ますと同時に話しかけてきたリリアの方を見やる。
「私のお父さんね……冒険者だったの」
それから、リリアはぽつりぽつりと語り始めた。
「お母さんは居なくて……私とお父さんの二人だった。お父さんはよく仲間の人たちとダンジョンに行ったけど、毎回ちゃんと帰ってきてくれて、私とたくさん遊んでくれた。仲間の人たちも、たまに来て私によくしてくれたの」
リリアはそこまで言った後、涙を流しながら続けた。
「でも……ある日突然、お父さんは帰ってこなくなって……仲間の人たちが、お父さんはダンジョンで死んだって」
冒険者が、ダンジョンで命を落とす。
俺からすればよく聞く話だし、身近な事でもある。
だが、まだ幼かったリリアにとっては、苦痛の出来事だっただろう。
「私は信じられなくて、いつまでもお父さんが帰ってくるって信じて……でも、ずっと帰ってこなかった。……だから、ご主人様は、ちゃんと帰ってきてね?」
横になったまま、不安そうにリリアが訊いてくる。
だが、その質問は少しばかり、間違っている。
「帰ってはこないぞ。だって、リリアとずっと一緒に居るからな」
「……ん」
リリアは目尻に涙を浮かべながら頷いた。
そして、安心したように、もう一度寝息を立て始めた。
……リリアが奴隷に落ちた理由はまだ分からないが、その辺りもいつか教えてくれるだろう。
取り敢えず、分かった事は、あの墓はリリアの父のもの、という事だ。
そして、リリアの前では、なるべく傷付かないようにしよう。
……そのためにも、やはり後衛が必要か。
リリアのためにもリリアを説得して、もう一人奴隷を買うとしよう。
もしリリアが嫌がったら、リリアを奴隷の身分から解放してあげて、納得させよう。
俺は奴隷の購入を決め、ベッドに潜った。
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