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追放鑑定士は、真の力で才能の原石だけを拾って最強パーティーを作る  作者: しぃ
第1章 追放鑑定士と新たな仲間たち
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第8話 少女剣士と追放鑑定士捜索

 2層と3層は、実はそこまで大きく変わらない。

 階層自体は多少広くなっているが、出現する魔物がゴブリンであるという点は変わらない。一応、出現するゴブリンのステータスが若干高かったり、数が少し多かったりするらしいが……詳しいところは、よく分からない。そんな気がする、程度の話だ。


 ともかく。

 2層のゴブリン相手には余裕――数の問題で、後半は余裕とはいかなかったが――の戦闘ができたのだから、傷を負っている今でも、群れを相手にしなければ勝てるはずだ。


 大事なのは、よく耳を澄まして、接敵する前にゴブリンを捕捉する事だ。


 ゴブリンは人と違って、息を潜めるという行動をあまり取らない。特に何も起きていなくとも、特有の甲高い鳴き声を上げる事が多い。

 それに、ゴブリンは足音を隠そうともしない。体躯の割に体重が重いので、近くに来ればドスンドスンという足音で、ハッキリと存在感が伝わってくる。


 耳を使って捕捉し、足を使って戦闘を回避する。

 腕を使って戦闘をするのは、最後の手段だ。


 俺は方針を決定すると、忍び足で行動を開始した。




 3層への階段までやってきた。

 男――ユンザたちは、ゴブリン相手に死にかけていたにも関わらず、それなりの強さだった。もしかすると、彼らも私たちと同じように、罠に掛かってしまったのかもしれない。


「どうする……ここを降りて探しに行くか?」

「そうしたいところだけど……すれ違ったら大変よ?」

「リリアさんはどうしたいんだい?」


 額を寄せ合っていた三人は、私の意見を求める。


 私の意見は、ただ一つ。

 早くご主人様に会いたい、その一心。


「……探しに、行きたい」

「……そうか」


 私がそう言うと、三人のリーダーであるユンザは、重く頷いた。


 ……最悪、この三人が反対しても、私は行く。

 お父さんのように……ご主人様まで、失いたくはないから。


 冒険者が危険な職である事は、とてもよく理解している。

 お父さんからも、ご主人様からも教わった。


 でも、危険だからと言って、仕方無いと諦めるつもりはない。

 互いが互いのカバーをする。ご主人様は、そう言っていた。

 私が罠に掛かった時、ご主人様がカバーしてくれた。なら、今度は、私の番。


 ユンザはしばらく俯いて考えた後、私の目を見た。

 私の覚悟が決まっている目を見て、ユンザは考えを決めたようだった。


「俺とクメールがここに残る。ポーナは、リリアさんと一緒に捜索をしてきてくれ」

「いいけど……なんで私なの?」

「俺は足を怪我してるから、捜索では役に立たない。それに、剣士のリリアさんと相性が良いのは、魔法使いのポーナのはずだ」


 ポーナは魔法使いらしい。


 ユンザの述べた理由に納得したポーナは頷いた。

 ポーナが頷いたのを確認したユンザは、懐から取り出した物を、私に手渡してきた。


「これは、さっき使って余ったポーションだ。あの人がもし怪我をしていたら、使ってやってくれ」

「……?」

「ああ、金の事ならいい。俺たちを助けてくれたからな」

「…………」


 ご主人様が居ないのに勝手に貰ってもいいのか悩んだが、これはご主人様のため。


 私は結局、ユンザからポーションを受け取った。


 私が受け取ったポーションを大事に仕舞うのを確認した後、ポーナが言った。


「それじゃあ、行きましょうか」

「……ん」


 そうして、私はご主人様の捜索のため、初めての3層に足を踏み入れた。




 初めて来る3層は、ぱっと見だと2層と大差無いように見えた。

 ここにご主人様が居れば、凄い知識量で色々と解説してくれたはずだけど、今私の隣に居るのはポーナ。魔法使いという事で私の知らない知識も持っているだろうが……語るつもりはないようだ。

 私の事を強力な冒険者だと認識しているようだし、自分よりも詳しいと思っているのかもしれない。実際は、1層と2層の事しかよく知らないのに。


 ふと、ゴブリンの足音が聞こえた。

 ご主人様に言われてダンジョンの中では耳を澄ますようにしていたからか、すぐに気付く事ができた。


 ポーナはまだ気付いていないようなので、警告する。


「……ゴブリン」

「え、嘘、本当に!?」


 ポーナは私に警告されて、驚きながら耳に手を当てる。


 しばらくして、耳から手を離した。


「本当だわ。よく気付けたわね。……どうする、戦う?」

「…………」


 私たちの目的はご主人様の捜索であって、魔物との戦闘ではない。

 しかし、階層内のゴブリンの数を減らす事は悪い事ではない。それに、もし響いた戦闘音がご主人様に聞こえれば、ご主人様なら駆けつけてくるかもしれない。


「……戦う」

「そう、分かったわ」


 ポーナは短く返事をすると、杖を構えた。


 私も剣を抜き、接敵に向けて準備する。


 やがて、曲がり角からゴブリンが現れた。


「ギッ、ギギィ!」

「ギギ……」


 私たちの存在にいち早く気付いたゴブリンが、指を指して仲間に伝えたようだった。


 ゴブリンは、全部で4体。

 剣を持ったソードマンが2体、棍棒を持ったクラブベアラーが1体、弓を持ったアーチャーが1体。


 後衛が居るのが少し厄介ではあるものの、後衛ならばこちらにも居る。


「私はアーチャーをやるわ。リリアさんは、ソードマンとクラブベアラーの相手をお願い」

「…………」


 私は無言で頷き、前に飛び出す。

 この状況では、先に後衛を失った方が負ける。なので、私がゴブリンの視線を奪い、その間にポーナが魔法を使えばいい。


 私が飛び出した直後、ポーナが詠唱を始めたのが聞こえた。


 ポーナの詠唱は気にせず、ソードマンとクラブベアラーを殺す事を優先する。


 迫り来る棍棒を横に避けて回避し、上段からの剣を弾く。

 もう一体のソードマンが剣を振るおうとしてきたが、それよりも早く、私はソードマンの首を落とした。マイナーアントのような昆虫系と違い、ゴブリンは首を落とせば簡単に死ぬ。


 続けてもう一度迫ってきた棍棒を、体勢を低くして避ける。そしてその低い姿勢のまま、クラブベアラーの足を斬りつける。


「ギィ!」


 切断とまではいかなかったが、これでクラブベアラーの機動力は落ちた。

 機動力の落ちたクラブベアラーを後回しにして、先にソードマンを――。


 ヒュン。


「っ」


 アーチャーが弓矢を放ち、矢が私の左肩を掠めた。

 僅かな傷だが、それでも痛みはある。

 私が痛みで声にならない声を上げた瞬間、狙ったようにソードマンが剣を振るってくる。


 避けなきゃ――しかし、もう剣は目前まで迫ってきている。

 今からではもう、間に合わ――。


炎の球(ファイア・ボール)!」


 ゴウ、と猛々しい音を上げながら、ポーナの杖から魔法が飛来する。

 魔法は僅かな距離を一瞬で飛び、ソードマンの顔面を焼いた。


「ごめん! アーチャーをやろうと思ったんだけど、リリアさんがピンチみたいだったから、つい……!」

「…………」


 ポーナは謝ったが、今のは正しい判断。

 あのままであれば、私はソードマンに首を切断されていたか、上手くいったとしても、顔を斬られていた。


 ……ありがとう。


 私は心の中でポーナへの感謝を伝えながら、足を痛めているクラブベアラーの首を切断する。

 その直後、アーチャーから二本目の矢が放たれたが、こちらは剣で弾く事ができた。


 そのまま次の矢を装填しているアーチャーに肉薄し、その首を落とす。


「…………」


 私は小さく息を吐き、剣を鞘に納めた。


「いやぁ、リリアさん、本当に強いね。まだ小さいのに、凄い」

「……ポーナも、凄かった」

「え、そう? 個人的には、まだまだ詠唱速度を上げる必要があると思ってるんだけど……まあ、ありがと」


 私に褒められたポーナは、顔を赤くしながら早口でそう言った。


 私は照れているポーナから意識を逸らし、辺りの環境音を聴く。


 ……特に変わった音は無い。足音もしない。ご主人様は、私たちの戦闘音が聞こえない位置に居るようだ。


 私は音を聴くのをやめ、未だ照れているポーナに言う。


「……行こう。ご主人様は、まだ遠くに居るみたい」

「……あ、うん、分かった」


 我に返ったポーナは、気恥ずかしそうに頷いたのだった。




 まったく……どうしてこうなったんだか。


 複数のゴブリンに囲まれた状況で、俺は溜め息を吐いた。


 事の発端は、戦闘音を聞いたところからだった。


 剣と剣の打ち合う金属音が耳に届き、俺は見に行くか無視するか逡巡した。

 最初は、俺も怪我を負っているし、助けたい気持ちは山々だが無視しようと思っていた。


 しかし、先程の三人パーティーを助けた時の、リリアの声が頭の中に響いた。

 そして気付けば、俺は一歩を踏み出していた。


 その結果……大勢のゴブリンと戦闘していたパーティーは、救助に来た俺を見捨て、ゴブリンの一部をなすりつけて、逃走していった。

 そして残ったゴブリンが、俺を今、殺そうと狙ってきているというわけだ。


「……ったく……」


 これだから、ダンジョン内で見知らぬ他人に善意を施すと、碌な事にならないのだ。

 いや、勿論、その中にも良い人間が居る事はよく承知しているが……それでも、こんな状況にもなれば恨み言の一つや二つ、吐きたくなる。


 ゴブリンの数は、およそ30。

 奇しくも、先程と同じくらいの数だった。


「……ま、やれるだけやるか」


 Bランク冒険者とはいえ、ステータスはDランク冒険者にも満たない俺は、この数のゴブリンに囲まれれば、為す術はない。

 しかし、だからと言って、諦めて大人しく死んでやる気にはなれない。


 死ぬ時は、冒険者らしく、最期まで醜く生きるために足掻く。

 いつの日かガルドたちと酒を飲んだ時に、語った事だった。


 走馬灯のように突然蘇った記憶に苦笑しながら、俺は己の剣を構えた。

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