夕陽の町
刀について、俺はすべてを話した。情報屋のじいちゃんは、驚きを隠しきれなかった。
「まあいい、今は行動を考えよう」
ファンムさんが仕切る。驚きはもうどこかへ行ってしまったようだ。
そう言うとファンムさんは、地図を指さしながら言葉を続ける。
「無謀な突撃は敗北を招くだけだ。このようなルートで行きなさい」
彼女の考えを否定する言葉と同時に、地図に線が引かれた。かなりの迂回ではあるが、急がば回れということらしい。
「最初の町……なんでこんなに中途半端なところに?」
「よくぞ聞いてくれた。実はここの町までは独立した町なんだ」
「…えと、どういうこと?」
「ここを超えると、政府の目が届く。わかるか?」
きっと俺らの情報は共有されている。"無謀な突撃は敗北を招く"んだ。
「ああ、俺はわかった。んで、そっちはどうなんだ」
俺は彼女の方を見つめる。あまり分かっていないのか、全力で頷いている。
「じゃあ、とりあえずこのルートで行くよ。ありがとう」
「ありがとうございます」
続けて彼女が言葉を続ける。やはり、静かな方が可愛く映るのかもしれない。
「礼儀正しい彼女を持ったんじゃな。お幸せにな」
「だからそんなんじゃないです!」
こいつはやっぱり、満更でもなさそうに照れている。もういい加減にしてほしい、このふたり。
俺らは地図を受け取り、外に出る。太陽は最高高度からこの街を照らしつけている。
「今日はこの街まで行こう」
「えー?遠いじゃないですか!疲れちゃいます!」
んなもん回復魔法とかでどうにかしてくれ。
「大丈夫だって。ここの街にも宿はあるし。ほら、行くよ?」
そう言いながら足を進める。今回の目的地は”西の町”、通称"夕陽の町"なにやら空気がとても澄んでいるそうで、名前の通り夕陽がきれいに見えるよう。
「へえ、夕陽がきれいなんですね?」
「ああ。本当かは知らないけどな」
そうしてただひたすらに足を進める。
川を渡り、山をのぼり、石だらけの悪路を進んだと思えば急に道は舗装された土の道に変化する。
途中で軽食をはさんだり、休憩をしながらも歩いていた。
彼女も疲れたのだろう。体は前かがみに、元気はなくなり、ひたすらに足を前に出しているだけだった。
それでも彼女は文句ひとつ言わなかった。健気なのか、疲れてるだけか。
「もうすぐ着くぞ」
彼女の顔はぱあっと明るくなる。空も赤みを見せており、ちょうどよい時間帯かもしれない。
看板には"西の町"と書かれている。到着したようだ。心なしか少し肌寒く、空気が乾いている。町を見る前に、海岸に立ち寄る。
「……わぁ」
彼女は心からの感嘆を漏らす。
真っ先に歩いて行った場所には、茜色に染まる空、それが映る大海原、潮風と、それに乗ってくる塩の香りが肌をなでる。そして、沈みきる直前まで輝きを放ち続ける斜陽が瞳に映し出されている。
太陽が沈むまで、二人で眺めていた。言葉なんてなかった。その空間には、日没と俺たちしかいないように感じられる。ただ暖かく、落ち着く雰囲気に包まれていた。
太陽が沈んでも、ぼんやりと大海原を眺めていた。彼女が身を寄せてくる。ただ、何も言葉が届いてこない。俺も、言葉をかけてやれない。
遠くで港の鐘が鳴った。
いつの間にか、あたりは藍色に染まり始めていた。
彼女が、小さく息をつく。
「……行こうか」
それだけ言って、俺は先に歩き出した。彼女もその後ろをつけてくる。
夕陽の町はどこにいても塩の香りがする。そんな気がした。
俺たちはそのまま宿に直行した。
そして受付で、彼女に話をもちかける。
「んで、どうするか」
「何の話ですか?」
「部屋の話。一緒の部屋でいいよな?」
「んぇぇぇぇぇ!?」
言葉にならない驚きを彼女がこぼす。そんなに驚くことでもなかろう。
「まあ、お金なら腐るほどある。やっぱり別の部屋の方が都合いいか?」
「それは…その……」
明らかにいやそうな表情で見つめてくる。なんでだよ。
そうして、半ば強制的に相部屋になることが決まった。
受付を済ませ、鍵を受け取り部屋に入る。狭くないひとつの部屋。窓には、太陽が沈んでしまったさっきの大海原が映し出されている。
「やっと落ち着けそうですね。よかったです」
「ああ、言っても寝るだけだがな」
「もう……観光とかしないんですか?」
「んな余裕、革命家様にあるかよ?」
「でも……普通に旅しても面白くないですし?」
確かに。
そう考えると寄り道はしていった方がいいのかもしれない。
「まあ、明日はその辺歩いてみようか」
「やったー!!」
明らかなオーバーリアクションで喜ぶ彼女。見た目以上の幼さをたまに感じる。
「じゃあ、今日は寝ようか」
「えっと…一緒に、ですか?」
「なんでそれが前提なんだ」
「だって…同じ部屋ですし。減るものでもないですよね?」
「なんで一緒に寝ようとするんだよ」
「……寂しいからです」
「寂しい、か……」
言葉に詰まりながらも、何かを振り切るようにして彼女はそう言う。
俺は布団を敷きながら答えた。
前回だって、彼女は俺と添い寝を望んでいた。実際にそうしていたし。
寂しいと言われれば断れないが、ちゃんと寝られるだろうか。
「……まあ、寝相には気をつけろよ」
「はーい!」
彼女は嬉しそうに返事をして、ぽすんと布団に潜り込んだ。彼女にならい、自分の布団に潜り込む。
「おやすみ」
「おやすみなさい!」
暗闇に包まれた部屋の布団で眠りの挨拶を交わす。最後まで、彼女は元気だった。
ノアちゃん可愛い




