”初代破龍”
12歳になってすぐの俺は、突然父親に刀を預けられた。初めて手に持った刀は俺の身体にはとても余るほどに長く、持つ腕が痛むほどに重い。
「この刀を、今日からはお前が握りなさい、ノイン」
父親の太く乾いた声が鼓膜を揺らす。名前は”初代破龍”というようで。とりあえずすごい刀なんだろうが、正直、緊張でほとんど覚えていない。
少年の好奇心に負け刀を抜くと、一本のまっすぐな刀文が伸びていた。
俺は不安になって聞いてみる。
「なんでこんな刀が継承されているの?俺にはわからないよ」
「お父さんにもわからない。ただ...200年は続いているんだ。途切れさせてはならない」
200年。そんな期間、想像すらできない。そう考えるとより一層謎が深まる。
「200年も受け継がれてきたなら、なんでこんなに綺麗なの?」
「それを今から教えるんだ。ついてきなさい」
刀を持って立ち上がり、父親のほうへ歩いていく。刀を持つ方の肩が下がってしまう。数分歩くと、小さな家に父親が入っていく。流れるように俺も入っていくと、そこには見たこともない道具がずらりと並んであった。刀を磨く石や布、筆など、まるで職人の秘密基地のように見えた。
「お父さん、なにこれ?」
「これはな、要するに刀を綺麗にするところ。研いで、磨いて、巻いて。新品同様にしていくんだ。その手法も受け継がれている」
「へえ。じゃあ、教えてくれるってこと?」
「ああ。まずはしっかり見ていなさい」
そういうと父親は刀を研ぎ始める。ただ、少年の好奇心と疑問は簡単にはおさまらない。
「お父さん。刀を研いでいたら小さくなっちゃうんじゃないの?200年も保つ気がしないんだけど」
俺は正直に疑問を口にした。
父は少し驚いた顔をして、ふっと笑った。
「いい質問だ、ノイン。そう思えるのは、お前がこの刀をちゃんと“物”として見てる証拠だ。……けどな、破龍は“ただの刀”じゃない」
そう言って、父は刀を分解しはじめた。
――鞘から外される刃。
――柄から引き抜かれる、黒金の鍔。
「破龍の本体は、“これ”だ」
「刀身は何度も変えてる。刃が短くなれば、新しく打ち直す。それでも、この鍔だけは――その時からから一度も変わっていない」
「え……じゃあ、この中に?」
「ああ。歴代の継承者の想いが刻まれている。研いで、磨いて……受け継ぐのは、形じゃなく魂だ」
話を聞いてもよくわからない。なんでこんな刀が受け継がれてきたんだ。
打ちなおした刀を父から受け取り腰に差す。少年の体にとっては、重心が変わってしまいそうなほど重たかった。
『お前なら大丈夫』その言葉と、背中を撫でられる温かみは今でも忘れない。
あの頃と同じように、柄の重みは変わらない。けれど今は、俺の手にすっと馴染む。
知らないうちに何かを受け継いできたんだろう。魂のような、名もなき何もかもを。
こういう内容を書くためだけにこの作品を書き始めたといっても過言じゃないです




