情報屋のおじいちゃん
目が覚めると、妙に生暖かく、柔らかいものが引っ付いていた。
重いまぶたを開けると、彼女が隣でくっついて寝ていた。
無視した俺はそのまま体を起こし、焚き火に枝をくべた。朝日が洞窟の壁を穏やかに染める。
「...おはやーごらいあす」
片手を上げて体を伸ばしながら、彼女は目を覚ました。予想通り、滑舌は終わっている。
「おはよ」
空っぽな返事を返す。きっと怒鳴られることはないし大丈夫だろう。
「ってか剣士さん!添い寝したのに無視したんですか!?」
大丈夫じゃなかった。その衝撃からか、滑舌も治っていた。
「添い寝って...ただ隣で寝ただけだろ」
「それが添い寝なんです!」
朝から彼女は元気だ。うるさいというか、疲れるというか。
「寒いなら火に近づいた方がいいぞ。そっちの方が暖かいし」
「ロマンも何もない……」
焚き火の火がパチパチと音を立てる。
赤い光をぼんやり見つめながら、俺はぼそりと口を開いた。
「……で、これからどうすんだ?」
「え? あ、えっと……あ! そうだ、首都に向かいましょう!」
彼女はキラッと目を輝かせて答える。
唐突すぎるだろ。手加減ぐらいはしてくれ。
ただ、何も分かってない彼女をここで肯定するのは良くない。
「情報収集も、仲間集めもなしでか? 突っ込んだら即死だぞ」
「う……でも、デディを止めるには……!」
「焦っても何も変わらん。無謀は勇気とは言わない。お前は両親と同じ道を歩む気か?」
焚き火がノアの目を照らす。その瞳の奥には、迷いと痛み、言葉にできないような感情が、静かに渦を巻いていた。
さっきまでおちゃらけていた彼女の顔が、ぴたりと止まる。
「……それ、どういう意味ですか」
「そのまんまだ。お前の両親も、革命を目的に突っ込んで命を落としたんだろ?」
「…そうですけども」
「そういう死に方が悪いとは言わん。ただ、俺は……見てられん」
彼女は言葉に詰まり、拳をぎゅっと握りしめる。
「……じゃあ、何をすればいいんですか?」
俺は焚き火にもう一本、枝をくべる。
静かに立ち上がり、洞窟の外を見やった。
「昔の知り合いに、変な情報屋がいた。まだ生きてりゃ、役に立つかもしれん」
「情報屋……?」
「ああ。デディの側近だったんだとよ。本当かは知らねーが」
彼女の顔に、ぱっと光が戻る。
「その人のとこ、行きましょう!いますぐ!」
「……焦るな。朝飯のあとだ」
「またそれですかーっ!!」
こんなに元気なのに、昨晩の表情と言葉が脳裏に張り付いて消えない。
◇
生えていた果物やキノコなどで適当な朝食を済ませる。
「けんしはん!この実、甘いれふ!」
彼女は丸い木の実を口に含みながら答える。
「食べるか喋るか。どっちかにしなさい?」
「食べ喋りれふもん!」
甘味を感じられてるだけ、こいつなりに頑張っているんだろう。
「剣士さん!いきましょ!その人のところ!」
「ああ、もう行こうか」
焚き火の後処理を済ませながら会話をする。
「ほら!早く行きますよ!」
「はいはい」
彼女は楽しそうに足を進める。
道も知らないのに、俺の前に出ちゃだめだろ。
そう思っていると、彼女は振り返って口を開く。
「剣士さん!疲れちゃいました!」
「疲れてる人間はそんな元気じゃないぞー?」
「じゃあいつになったら着くんですか!!」
「そのうち」
「んもーーーーーー!!」
少しすると彼女は落ち着いてくれた。さすがにちょっと安心した。
そういえば、追っ手も来ていない。久しぶりに平和を感じた気がする。
そんなこんなで、おんぼろな小屋につく。あの時から変わらない。
「ほら、入るぞ」
「こ、こんなぼろい家にですか?」
ひどい言いようだな。好きで住んでるだけかもしれないだろ。
「いいから。情報屋はいい人なんですー」
そういいながら小屋の中に入る。彼女も、恐る恐る後をついてきている。
「久しぶり、元気してたか?」
「……おお、よく来たな少年」
情報屋のファンム。風格があって、頼りになりそうなじいさんだ。
「もう俺も大きくなったんだけどな……」
「おや、その隣の子は彼女かい?」
違います。
「そんなのじゃないよ。なんか、革命起こしたいからって無理やり仲間に」
「おお、彼女じゃな」
話聞いてよ。
ふと彼女のほうを見ると、満更でもない様子で微笑んでいた。本当にいい加減にしてほしい。
「んで、なんの用じゃ。用がないなら掃除を手伝ってもらうぞ?」
「いや、情報を貰いたくて」
「いいが...情報ってのは政府のか?」
「ああ、もちろん」
そういうと、奥の部屋に連れていかれる。
「剣士さん、この人の前だと可愛くなるんですね」
「うるさいぞ、そんなことないから」
「おやおや、邪魔だったかい?」
「ファンムさんも乗らないでくださいよ」
六畳一間の居間。壁には、若き日のファンムと思しき写真が一枚、端に古びた短剣が1本かかっているだけだ。
彼は無言で、地図と走り書きだらけの紙を机に広げた。
俺は刀を置いて座る。彼女も隣に座ってきた。
「ところでその刀、どこで手に入れたんじゃ?」
「これ?そんな良いものでもないと思うよ」
「そうじゃなくて。どこで手に入れたのかを聞いておるんじゃ」
俺は無意識に刀を握っていた。ファンムさんの表情が今までと違っていたからだ。昔から世話になっているのに、まるで尋問のようで、怖かった。喉が締まる感じまでしてしまう。
「こいつは家宝らしい。俺もよく知らないが」
「少年。君は一体何者なんだ」
彼は目を見開いて、口調すら忘れて必死そうに口を開いた。
言わなければいけない気がして、俺は口を開く。




