今日はおやすみ
身体が冷えてくると、涼しさなんてものはもう冬の寒さと同義になる。今だって、指先がかじかんでいる気さえする。
「ねえ、剣士さん」
彼女が身を寄せながら口を開く。こうなると結構暑苦しい。
ただ、ここで無愛想なことを言ってしまうと彼女は傷ついてしまうかもしれない。
そんなこと、全く想像はできないが。
「どうした?」
「ノア、寒いです」
「うん、俺も寒い」
俺の言葉を聞くと、彼女は嬉しそうに目を見開く。そんなに同意見が欲しかったか。
「……んで、それが何?」
「ノア、暖まりたいです」
暖まる……。そうか、分かったぞ。
「じゃあ、ちょっとまっててな」
「……え?どこ行くんですか?」
「わかったから。ちょっと準備してくる」
そう言うと俺は洞窟の外に出る。追っ手もきていない。
数分後、俺はまた洞窟に戻る。ノアはぼーっと焚火を眺めていた。
「なんで出ていったんですか。寒かったんですけど」
「それは知らんが。準備してたの」
「準備…ですか?」
「ああ」
そう言うと、俺は木の枝を地面に落とす。
「なんですか、これ」
「木の枝。湿ってないし焚き火にはうってつけ」
「……もっと他にあるじゃないですか!」
「他は知らないけど…炎の魔法、使えるんじゃないの?」
「なんでそうなってるんですか!」
彼女は頭を抱える。きっと、取ってきた木の枝が多すぎたのだろう。まあ、大は小を兼ねるし。
「んじゃ、任せたよ」
「何の話ですか!」
「だから焚き火でしょ?温まれるよ」
「焚き火も暖かいですけど…大昔のキャンプじゃないんですよ!」
彼女は渋々立ち上がって唱えた。
「Firart!」
彼女はそう唱えると、赤い魔法陣が出てくる。すると突然、火が起きた。
「おー、さすがだなー」
「魔法ってこういうものじゃないでしょ!」
「まあ、火起こしの手間は省けた。めでたしかけるに」
「言うならちゃんと言ってください!」
そんなこんなで、焚き火を使って暖まる。ぱちぱちと音を立てながら木の枝を燃やす炎をぼんやりと眺めた。光と影が、洞窟の壁を揺らしていく。
ふと彼女の方に目をやる。彼女にとっては寝る時間なのだろうか、俺に体重をかけながら眠たそうに目を擦っている。
「もう寝るか?」
「……はい、眠くなっちゃいました」
彼女は少し落ち着きを見せて答える。
黙った方が可愛いんじゃないか、こいつ。
「んじゃ、先に寝とくか?」
「それは嫌です!」
「何で?」
「それは……えと、寒いからです!」
見た感じすっごい暑苦しそうだが。
だけどきっと、先に寝たくない理由は分かる。
「焚き火あるじゃん。もう暖かいよ」
「そうじゃなくて!!」
「…わかったから。いい子はねんねしな」
「もう!!」
そう言った彼女は、頭を俺の肩に預けてきた。
重くは無いけど、凝りそうだ。
ちらりと彼女を見ると、すぅすぅと寝息を立てていた。
くっきりとした二重と、長いまつげ。ほんのり緩んでいる口元には、安心が宿っているように見えた。
そうは言うものの、俺にも睡魔が現れた。襲われてしまう前に眠ろうと思う。
彼女を横に寝かせ、少し距離を開けて眠る。
焚き火もあるからいわゆる"ぬくもり"はあるし、もう寝てるから文句は言わないだろう。
眠る間も、焚火はぱちぱちと音を立てて燃えていた。




