革命に興味はありますか
『魔法を扱うのは簡単だ。呪文を唱えれば火が灯り、水が踊る。ただ、たったひとつだけ、誰もが忘れがちな条件がある。|想い。それがなければ、本当に望んだ奇跡には届かない。』
……らしい。この世の常識だが、俺は剣士になった。身近に刀があったから。
"剣士としての修行の旅"なんてもっともらしい建前はあるが、実際はただの気ままな放浪だ。刀を担いでぶらぶらと、あてもなく歩く。
その日、たまたま立ち寄った街は、まるで霧に包まれたように空気が澱んでいた。
重く、湿った空気が肌にまとわりつくようで、吐息すらどこか重だるい。
道ゆく人々は目を伏せ、笑みの一つも浮かべない。
何かいやな感じがする。なんて、そう思った矢先。
「あ...あの!えっと……剣士さん!!」
振り返ると、色あせたローブに身を包み、折れた杖を抱えた少女が声をかけてくる。
まるで劇団の衣装みたいな格好だった。
「……誰だ、お前」
「お願いです!ついてきてください!」
彼女は汗を流し、息を切らしながら必死そうに訴えかけてくる。
見知らぬ人にはついて行かない。小さい頃の、母との約束だ。面倒くさいし、俺は無視しようとした。
――そう思った時には、腕を引かれて歩き出していた。
◇
あれ、どこだここ。
扉のきしむ音と男性たちの歓声が耳に入る。
気がつけば、小さな居酒屋に入っていた。油の匂いが鼻を刺す。
運ばれた飲み物を受け取り、グラスを差し出す彼女。
「かんぱーい!」
彼女の声が響いた後にカチンとお互いのグラスを鳴らす。
……展開が早い。飲み物とポテトフライが机に並んでいる。いつ頼んだんだ。
さっきまで焦りを見せていた彼女は、妙に弾ける、おちゃらけて楽しそうな口調で話す。しかし、そのはしゃぐ様子には、その焦りがまだ滲んでいるようにも見えた。
こくこくと喉を鳴らしてオレンジジュースを嗜んでいる彼女。何というか、どこか憎めない。
「剣士さん!このポテト、サクサクのやつです!」
「うん、よかったな」
「よかったです!」
適当な返事でも良さそうだ。何をしても、たぶん上機嫌になる。
とりあえず水をひとくち飲んで、口いっぱいにポテトフライを頬張る彼女を見た。
「なあ。話があるんだろ」
「はい! 聞いてほひいことがあるんです!」
口の中にポテトフライを含んだまま答える。
一体こいつは、何を理由にここまで必死なのだろうか。
ごくん、と彼女が口の中のものを飲み込んだのを見て、話を進める。
「で、なんの話だ?」
「世界さいこー権力者…のデディって、きいたことありますか?」
「……まあ聞いたことはあるけど」
「なんでそんなに曖昧なんですか……」
彼女はどこか無理やりに釣り上げた笑みと、呆れた口調でそう言う。
知らないものは知らないんだから、仕方ないだろ。
わざとらしく咳払いをした彼女は、口を開いた。
「彼、弱い人間を切り捨ててるんです」
「なんでだよ。人口が減るだろ」
「そこじゃないでしょうが!」
彼女は机を叩き、口調を荒らげて答える。
さっきのおちゃらけとは違う、怒りと憎悪のこもった言葉が心に突き刺さった。
「……ごめん。それで、弱いやつを切り捨てるって何だよ」
「人間を強い種族にするとか言ってまして。えっと……強い遺伝子だけを残したいとからしいです。」
「そいつは馬鹿なんだな。そんな事しなくても、人間は強いだろ」
ふいにそんな言葉がついて出た。
その言葉を聞いた彼女の瞳が、一瞬揺れた気がした。
彼女は顔を伏せて答える。
「……でも彼は、弱い人間を。女性や子供だって殺しています。今だってきっと…いや、絶対」
「それを変えたいってのかよ?」
「はい。もう人が死ぬのを見たくありません」
「……見たのか?」
俺がそう問うと、彼女は明らかに焦りを見せる。その身体はビクッと震え、目線は逸れ、何かを隠しきれない様子だった。
「…ええと。いや、なんでもないです」
静かな声でそう答えた。
彼女が発言を躊躇ったからか、微妙な空気が流れる。まるで、外のあの空気がここに押し寄せたようにさえ感じる。
「で、そいつをどうするつもりだ」
「……倒したいんです!」
ここぞとばかりにそう言う彼女は、嬉しそうに、しかし冗談とは感じられない声色でそう話した。
どうせこれは、面倒ごとに巻き込まれるんだろう。でもまあ、今さらか。
「それで、俺に頼む理由は?」
「だって…剣士さんだから?」
「それが何だってんだよ」
首を傾げながら彼女はそう答える。
…意味がわからない。剣士なら近くにも沢山いたはずだ。
「俺はただの剣士だぞ」
「じゃあ私は魔法使いですもん。見ててください?」
そう言って彼女は何かをブツブツ唱えると、机の上にいくつかの魔法陣を自慢げに浮かべてみせた。
「お名前、聞いてもいいですか?」
「俺はノインだ」
「…ノインさん、ですね」
少しだけ、彼女の目がやわらいだ。
「……で、なんでそいつを倒したい?」
「…実は私、人に頼ったことがないんです。……えへへ」
照れ笑いを混ぜながらも自慢げに、けど寂しさも見せながらそう言う。
そう思っていると、今度は真剣な目でこちらを見つめる。
「なんで急にそんな話に?」
「剣士さん。聞きたいことがあります」
「なんだ」
これは会話なのだろうか。さっきから、一方的に言葉を投げられている感じがする。
彼女は真剣な目で、まっすぐに俺を見た。
息を吸い込んで、言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開く。
――――「革命に、興味はありますか?」




