第8話 自然に歓迎される男
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《SYSTEM UPDATE》
アップデートを利用できます。
最新バージョンのアプリに更新するため、App Storeに移動します。
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「あ、はい」
《新システムが解放されました》
《世界階層データを取得中》
ミラが翔のスマホを覗き込んだ。
「すごい……」
これが……ミラの言ってた9つの世界か。
……数字で見せられると、妙に現実味あるな。
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《世界階層データ・シンクロ率》
《北欧神話》
アースガルド 5%
ヴァナへイム 15%
アルフヘイム Locked
ミッドガルド 39%
ヨトゥンヘイム Locked
ニザヴェリール Locked
ヘルヘイム 13% 【UNLOCKED】
ニブルヘイム Locked
ムスペルヘイム Locked
《SYSTEM NOTE》
複数世界との共鳴を確認
警告:世界構造の再編兆候を検出
推奨:不要な干渉を避けてください
《WORLD TREE RECONSTRUCTION》
Progress : 72 / 900(8.0%)
Status : Incomplete
Error:統合プロセスが未定義です
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「えっと……後半意味わからん。エラー?」
まあ、とりあえず9つの世界とオレ?
その繋がりを表示してるってことかな?
……ろくな予感は、しないけど。
「ん?」
《ヴァナヘイム シンクロ率:上昇》
ヴァナヘイム 16% ↑
「ヴァナ……? オレ、何もしてないけど……」
ミラがオレの顔を覗き込んだ。
「翔くんはワイルドブラッド……。北欧の自然、ヴァナヘイムが勝手に反応してるのかな?」
「北欧の自然……」
確かに、まだここに来て自然に触れてなかったな。
スウェーデンの自然って、日本とは違うのかな?
ミラが呟いた。
「ナッカ」
「ナッカ?」
「うん、ナッカ自然保護区。普段は観光客も少なくて、基本地元民しか行かない場所だけど、スウェーデンの自然が感じられると思う。行く?」
オレは頷いた。
「うん。行こう」
金髪美少女とデート継続。
まあ、冗談だけど。
それにしても……なんの準備もせず、
突然北欧に来たけど、ミラと出会って、
泊まるとこまで確保できて……
意外となんとかなるもんだな。
正直、飛び込んだ北欧神話の世界は、
いまだに全くわけがわからんが……。
ミラの案内で地下鉄に乗った。
車内は静かで、誰も大きな声を出さない。
窓の外には水路と低い建物、整った街路樹が流れていく。
ストックホルムって、不思議な街だ。
都会なのに、水が近い。
橋を渡るたびに湖みたいな入り江が見える。
白いボートが並ぶ桟橋。
赤や黄色の木造家屋。
遠くに見える尖塔。
「……きれいだな」
思わず口に出すと、ミラが頷いた。
「この辺、全部島みたいなものだから。水と一緒に暮らしてる街なの」
電車を降りて、さらにバスに乗り換える。
今度は景色がはっきり変わった。
ガラス張りのオフィスビルが消えて、代わりに岩肌と森が増えていく。
道路のすぐ脇まで針葉樹が迫っていて、日本の郊外よりずっと“野生”に近い。
「ここからナッカ」
バスを降りた瞬間、空気が変わった。
ひんやりしていて、少し湿っている。
土と苔の匂いが、はっきり分かる。
舗装された道を少し歩くと、すぐに木道が現れた。
簡素な案内板。
自然保護区の表示。
足元には岩盤がむき出しになっていて、ところどころに小さな池。
黒っぽい岩に、明るい緑の苔が張り付いている。
遠くから鳥の声。
風が吹くたび、木々が低くざわめいた。
「……いいね、ここ」
思わず、そう言った。
観光地みたいな派手さはない。
でも、圧を感じる。
完全に、人間が“お邪魔してる側”の場所だ。
少し進むと、森の合間から水面が見えた。
小さな湖みたいな入り江。
鏡みたいに空を映している。
水辺には丸い岩が転がり、倒木がそのまま残されていた。
整備されすぎていないのが、逆にリアルだった。
その瞬間。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
「……ん?」
理由は、わかってる。
オレは昔からこうだった。
山でも。
神社でも。
黄泉でも。
人のいない場所。
自然の濃い場所。
そういうところに来ると、身体の奥が先に反応する。
……そう。
オレは、自然の申し子、ワイルドブラッド。
風の音が変わり、水面が揺れた。
愛されてる。
スマホが震えた。
《ヴァナヘイム シンクロ率:上昇》
16% → 18%
「また上がった……」
ミラが立ち止まって、オレを見る。
「何か感じる?」
「……うん。落ち着く。でも同時に、自然のざわつきも感じる。ちょっと戸惑ってる、オレに」
ミラは目を見開いた。
「そんなことまで、感じるんだ」
ああ。分かる。
ここの自然も、意思を持ってる。
ミラは周囲の森と水辺を見渡した。
「ヴァナヘイム。北欧の自然そのもの。翔くんを待ってたのかな」
湖面を渡る風が、頬を撫でた。
その音に混じって、確かに“何か”を感じた。
森の奥。
水辺の影。
誰かが見ている。
背中がぞくりとした。
「……ミラ」
小さく名前を呼ぶと、ミラも同じ方向を見ていた。
「うん……いる」
森が、静かすぎる。
鳥の声が止み、
風も、一瞬だけ息を潜めた。
スマホが震えた。
《ヴァナヘイム領域:高密度反応を検出》
《未登録存在を観測中》
画面の下に、新しい表示が浮かび上がった。
《UNKNOWN ENTITY》
Status : Observing…
……観測中って。
お前は──
誰だ。




