第43話 自然は神に飼われない
「やっ、やめろ、ミラ!」
《ミラ敵対意思:確認》
《生存確率:14%》
「プレ──」
なんでそうなるんだよ!?
「ヴァルハラ──」
《ミラ神技使用》
《ヴァルハラステップ》
《短距離転移+回避判定100%》
「ちょっ、本気かよ!?」
《生存確率:11%》
《SYSTEM NOTE》
《環境バフ発生》
「......環境バフ?」
《ミラにヴァルハラの加護》
《ミラの敏捷性UP》
「ミラのバフかい!」
待てよ。
でもミラのヴァルハラ・ステップは負荷が大きい。
「初動をなんとか耐えれば......」
《ミラ神技使用負荷無効》
「なんでやねん!」
《生存確率:9%》
9%て。
つまり無理ってことじゃん。
でも──
迷ってたら──死ぬ。
オレは拳を握る。
緑の炎が視界に揺れる。
《ワイルドブラッド反応値:上昇》
《全能力上昇》
「全部避ける!」
ミラが踏み込む。
あ、ダメ。
早すぎ。
その瞬間、ミラの瞳が揺れた。
一瞬、手が止まる。
「ん?」
白い閃光が頬を掠めて逸れた。
「テンペスト──」
次は、連続突きか!
ミラの踏み込み。
「くっ......早い!」
だが、一瞬ミラの足が止まる。
バックステップでギリギリ躱わす。
ミラ。
動きも、おかしい。
「翔く......ヴァルハラに寄るな!」
震えてるミラの腕。
なるほど。
ミラは、操られてる。
これだから......。
「北欧神話の神は嫌いなんだ」
人を、モノのように操りやがる。
「オレはお前を殴れない......」
──だったら!
オレは、両手を地面についた。
「これしかねえ!」
《神技ワールドエラー使用》
《自然によるフィールド侵食開始》
「おおおぉぉぉぉ!」
ヴァルハラの石畳を割って、草木が伸びる。
周囲に一気に森が広がる。
《ヴァルハラ環境バフ:消滅》
「はぁ、はぁ......」
《生存確率:31%》
「翔くん?」
「ミラ?お前......」
「ごめん、今、私......」
「よかった。戻ったんだな。びっくりした......」
「う、うん。どうしたんだろ、私......」
ん?
《生存確率:7%》
「なんで、下がるんだよ!?」
その時、森が揺れた。
地響き。
木々の倒れる音。
ミラの背後から、何かが来てる。
《敵性存在:確認》
ミラが振り返った。
「翔くん!」
森が、燃えた。
「こいつ......あの時の!?」
低い唸り声。
地面が沈む。
《敵性存在:分析》
識別名:GARMR
分類:上位死霊獣
「ガルムル!!」
ガルムルは、オレ達を見下ろすと、その大顎から黒い霧を吐き出しながら、声を上げた。
「ヘルヘイムの境界では飽き足らず、ヴァルハラの地まで汚すか、ワイルドブラッド」
「ヴァルハラ?知らねーよ」
「ヴァルハラを汚せば、神々も黙っておらぬ」
神々も黙っていない。
その言葉に、オレの体が脈打った。
オレが怒ってんのは、こいつにじゃねえ。
いつも姿を隠してる、この神話の神々どもだ。
オレの横でミラが身構える。
「翔くん」
オレはミラの前に手を出した。
「ミラはやらなくていい。ここはオレがやる」
「え!?あっ、相手はガルムルだよ!?ヘルヘイムの──」
オレは首を振った。
「飼い犬だろ?」
「え?」
「こいつは、ただの飼い犬だ。野良犬ですらねえ」
ガルムルは、大斧をその肩に担いだ。
それだけで空気が歪み、森が燃えた。
「なんだと?」
「聞こえなかったか?お前はただの飼い犬だ。その飼い犬が、野生に噛み付くなんざ、10000年早え」
勝算なんかなかった。
──それでも、本能が知ってる。
「お前は、オレには勝てねーよ」
自然はな、
神に飼われねえんだよ。
「良かろう。自然の理屈、見せてみよ」
《神技解放》
《神技ワイルド・ドミニオン》
ガルムルの足元から、草根が立ち上がりその足を拘束した。
ガルムルの瞳が一瞬泳ぐ。
オレは拳を握った。
「フン。どこで戦ってんのか、わかってんのかワン公」
《行動負荷》
《回避率大幅減少》
「......ほう」
「翔くん......」
「男は、タイマン!行くぜ、ワン公!」
《神技ワイルドスピード》
《全能力UP×ワイルドブラッド補正》
踏み込んだ。
ああ、軽い。
ミラが、軽いって言ってた意味。
なるほど、わかった。
自然が、オレのフィールドだ!
振り下ろされるガルムルの大斧。
もうオレは──背後。
「おらあぁぁぁ!」
緑の閃光が、音もなくガルムルの後頭部に刺さる。
「グボォ!」
グリーンのオーラが、オレの両腕に絡みつく。
《神技グリーンインパクト》
《特効:動物系・自然歪曲系死霊獣》
「連打!」
5つの緑の点が、ガルムルの背中で弾ける。
「ガハァ!!」
ミラが口を押さえた。
「翔くん、すご......」
《生存確率:再計算》
《生存確率:35%》
──トドメだ!
一気に終わらせる。
踏み込んだ。
「貫け!」
大地がオレの背中を押す。
その瞬間、ガルムルの不敵な笑みが浮かぶ。
「小僧」
……違う。
こいつ、本気じゃない。
ガルムルの体。
芯から漏れる炎が、収縮した。
「図に乗るなあああぁぁ!」
その瞬間。
炎と衝撃波が、弾ける。
「ぐわぁぁ!」
──跳ね返された。
受け身も取れず、大地を転がる。
片目でガルムルを見た。
燃えてた。
ガルムルが。
森が。
呼吸が出来ない。
肺が焼ける。
ミラは灰で黒くなった顔を上げた。
「こんどはヘルヘイムに......。翔くん!」
《ヘルヘイムフィールド展開》
《SYSTEM NOTE》
対象:ガルムル
フィールド適合率:100%
足元の草が、黒く枯れた。
オレのフィールドが、死んだ。
《生存確率:3%》




