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第38話 月下の襲撃者

目の前には、オレ達の到着を待っていたかのように立っていたヴォルヴァ会の男。


嫌な予感。


でも──


「翔、行こう」


オリビアの手がそっと背中に触れた。


遅れたら取り返しがつかない気がする。


「ああ」


──その頃、ミラは。


ふらふらと森を歩いていた。

静かな森の中。

月明かりが森の隙間に差し込む。


屋敷の高い屋根が見える。


屋敷の敷地?


「あれ……私、何してたんだろう」


意識が突然戻る。


頭がふらつく。


パジャマのまま、裸足のまま。


「げっ。何!?……寒い」


記憶がない。


「パパ!ママ!」


私は慌てて屋敷に向かって駆け出した。


ズドン!


何かに引っかかって転ぶ。


「いてて……」


その時、男の声が聞こえた。


「ミラ、こんなところで何を」


「だっ、誰!?」


月明かりに浮かんだのは、黒いスーツだった。

顔は見えない。

でも分かった。


ヴォルヴァ会の男だ。


「あなたは……パパの元同僚の……」


「パジャマのまま、一体何を?」


「あなたこそ、一体何を?」


同僚の男は私の手を取って起こした。


「敷地内の見回りは私達、ベテランヴォルヴァの仕事だ。評議会入りを控えた、ね」


そういうと、男は私の目を覗き込んだ。


「揺れている……幻影を見たか」


「幻影?」


「狙われてる。君たち一家は」


「え!?」


「ヴォルヴァ会は、君たち一家にワイルドブラッドとの接触を禁ずる決定をした」


「翔くんと……どういうこと?」


「明日、エリクに伝えられるだろう。だが」


「だが?」


「ヴォルヴァ会にはラグナロクを望む強権派の連中もいる。神話を守るために手段を選ばない連中だ」


「手段を選ばない……」


「禁止令などでは生ぬるい。そう考える者が」


背筋が凍りついた。


「ヴォルヴァ会の中でもその正体ははっきり分かっていない──」


ベテランヴォルヴァは振り返ると手を出した。


「シグルド。私の名前だ。ミラ・アスクリンド」


「シグルドさん……」


その瞬間、ヒュンという風切り音が私の耳を掠めた。


「……ぐっ!」


「シグルドさん!? ゆっ、弓矢!?」


シグルドの胸に矢が刺さった。

その矢の輪郭を沿うように一瞬、紫の光が走る。

シグルドが倒れ込む。


「この矢……ヴォルヴァ!?」


《不明ヴォルヴァ接触》


月明かりの届かない闇の奥で、何かが笑った。


「神話に触る者に、死を」


「だっ、誰!?」


闇の中から現れた影。

黒い仮面に真紅の装飾。


そして──


それは。


「その装束は……オリビアさんと同じ」


矢をつがえながら笑う男。


「フフ。オルド・イージスが天罰を与える。神話を汚す者よ」


《不明ヴォルヴァ敵対意思:確認》


私は、叫んだ。


「ヴァルキリー!」


視界が白に揺れる。

手にレイピアが落ちる。


《ヴァルキリーとのリンク確認》


「ヴァルハラ!」


《神技使用》

《ヴァルハラ・ステップ》

《短距離転移使用可能》

《回避判定100%》


「プレ……」


踏み込んだ。


弓を構える前に──


捉えた。


白い閃光が胸を貫いた。


はずだった。


胸を貫いたその影は、風に溶けるように闇に消えた。


「無駄だ、ミラ・アスクリンド」


背後に声。


心臓が、跳ねた。


──この人、強い。


足を動かすより先に、私は笑っていた。


「そう」


男が一瞬だけ、黙った。


その刹那。


私は体を沈めた。


──踏む。


《スキル使用》

《ウィンドフェンサー》


私はもう振り向いている。


「トゥシェ」


視界が白に裂ける。


レイピアは既に突き出されていた。


喉元へ。


「遅い」


突き。


空気が裂ける。


だが、刃先が止まる。


男の喉元。


そこに浮かんでいた。


紫色の薄膜。


「防いだ……?」


仮面が、笑った気がした。


「いい反応だ。ミラ・アスクリンド」


「くっ、そんなはずない!」


《スキル使用》

《テンペストレイス》


高速連続突き。


「ハアァ!」


1、2、3、4──


全弾命中。


だが、手ごたえが──無い。


──幻影を見たか。


シグルドの言葉が浮かぶ。


次の瞬間。


殺気が、爆発した。


紫のオーラが爆発する。


「きゃあぁ!」


吹き飛ばされた。

木に直撃。

背中に激痛。

頭がふらりと大きく揺れた。


顔を上げた。


至近距離。


額に向けられた矢。

矢が、呼吸していた。

紫の光がその輪郭を伝う。


避けられない。


森が呼吸を止め、時間が止まった。


私の心臓の音だけが、世界に残った。


「終わりだ、ミラ・アスクリンド」

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