第28話 神に刃を向けた日
やっぱ来ちゃうよね……オレ。
「翔くん、あれ見て」
そう。
ミラも来てしまった。
墓地の奥に複数の人影。
黒い装束。
フードを被った連中が教会の外に集まっている。
「遠くてよく見えないけど……宗教系?」
その時、墓地の奥で鐘が鳴った。
「翔くん、鐘!」
「ああ。早速くるか!?」
墓石の影から人影が現れる。
黒装束。
フードの端から覗く銀髪。
その奥に灰色の瞳。
「……オリビア」
オリビアは目を伏せた。
「どうして、ここへ来た」
「いつもお前の方から来るからさ。今日はオレから来てやったよ」
灰色の瞳が揺れる。
「なぜ……」
肩が震える。
「オリビア。助けて欲しいんだろ、お前」
「……もしそうだとして。あなたに何が出来る?」
その瞬間、地面から無数の黒い霧が吹き上がる。
オリビアの背後に巨大な影。
「……グラム!」
さらに上空から一筋の光。
「ヴォルヴァよ。神話を汚すワイルドブラッドを粛清せよ」
「フォルセティ!」
オリビアの目に涙が浮かぶ。
「あなたに……一体……何が出来るって言うのよ!」
オレは拳を握った。
「オレはワイルドブラッド。自然にしか愛されねえ」
緑に視界が染まる。
「でも、お前は違う。神に愛され、人にも愛されるヴォルヴァだ──オレに何が出来るだって? そんなもん決まってるだろ」
──神話も終末も、オレには関係ねえ。
──自然が、本能が叫んでる。
ミラが無言で背中を合わせる。
──お前の涙の理由になるもの。
「アースガルドとヘルヘイム──北欧神話、全部まとめてぶっ飛ばせってなぁ!!」
《ミラ共闘意思:確認》
《オリビア共闘意思:不明》
グラムがゆっくりと歩みを進める。
《敵性存在:分析》
識別名:Glámr
分類:上位死霊戦士
オリビアは肩を震わせたまま、その場に立ち尽くしていた。
グラムはオリビアの横を通り抜け、真っ直ぐオレ達に向かってくる。
グラムはフォルセティを横目で見ながら、問う。
「アースガルドの神よ、阻むか?」
フォルセティは静かに答えた。
「死霊が神に問うな。神判は下された。我は止めぬ」
《死霊戦士グラム敵対意思:確認》
《神格フォルセティ敵対意思:不明》
《生存確率:19%》
フォルセティの光が、空気を凍らせた。
「そうかよ。自然が勝手に生きるのが気に食わねえか」
オレの視界に揺れる緑のオーラが濃くなる。
《ワイルドブラッド反応値:急上昇》
《ステータス急上昇》
ミラが背中越しに呟いた。
「本当に神話は、翔くんを排除したいんだ……」
「ミラ、逃げていいぞ。こいつらの狙いはオレだ」
「今更?──ヴァルキリー!」
「ああ、今更」
ミラは笑う。
「冗談。──ヴァルハラ!」
《神技使用》
《ヴァルハラ・ステップ》
《短距離転移使用可能》
《回避判定100%》
「私は翔くんと見るよ! 待つだけの終末じゃなく──」
ミラはオレの前に立ち、グラムにレイピアを向ける。
「抗った先の未来を!」
ミラの姿が消えた。
次の瞬間──
グラムの背後で銀の閃光が走る。
「ぐっ……!」
グラムの顔が歪む。
「翔くん!」
「おう!」
拳に緑が集まる。
《神技使用:グリーンインパクト》
「おらあ!」
緑の閃光がグラムの腹を貫く。
グラムが後ずさった。
「こやつら……強くなっている……」
「ミラ!」
「うん!」
《神技使用》
《フェイトピック》
《運命視認》
「翔くん、右手!」
「おう!」
オレの回し蹴りが、剣を握ったグラムの腕を弾く。
「頭突き、来る!」
グラムの頭突きを躱す。
「踏みつけ!」
体を捻り、踏みつけを回避。
「小娘! 貴様、未来が……!?」
グラムがミラを睨みつける。
「相手はオレだ」
下段回し蹴り。
グラムの体が宙に浮き、墓石に背中を打ちつける。
「ぐっ……貴様!?」
「おらあぁ!!」
顔面へ振り下ろす拳。
「翔くん、ナイス!」
その時、フォルセティがオリビアに呼びかけた。
「テュールのヴォルヴァよ。アースガルドが命ずる。グラムに手を貸せ」
オリビアが地面に手をかざす。
真紅のロングソードがその手に握られた。
「オリビアさん!」
ミラの声。
オリビアは苦悶の表情を浮かべる。
「さあ、やれ! ヴォルヴァの役目を果たせ!」
オリビアのバングルが光る。
「アリス……」
フォルセティが冷たく言う。
「ふん。そのバングルが汝を迷わせる。神話を汚した汝の姉の意思がな!」
フォルセティが手をかざす。
オリビアのバングルが空中へ引き上げられる。
「フォルセティ様、なっ、何を……!?」
「ヴォルヴァに迷いは要らぬ」
拳が握られる。
その瞬間──
バングルが弾け飛んだ。
「アリスー!!」
オリビアは膝から崩れ落ちた。
糸が切られた人形のように。
「迷いは断ち切った。さあ、ワイルドブラッドを排除せよ」
墓地に一瞬の沈黙が落ちる。
オリビアは力なく立ち上がる。
真紅のロングソードが、オレに向く。
「お前が……お前さえ来なければ……」
フラフラと歩み寄る。
「オリビア……」
「お前さえ……現れなければ……」
ミラの声が震える。
「オリビアさん、ダメ……」
真紅の剣が振り上げられる。
「オリビア」
そいつはお前の剣だ。
好きに振れ。
背後でフォルセティの声。
「やれ」
その瞬間、オリビアの手の震えが止まった。
──
「黙れえええぇぇぇ!!」
オリビアは振り返り、フォルセティへ向かって剣を振った。
赤い衝撃波が墓標を砕きながら地を裂く。
空気が焼ける。
秩序の光と反逆の赤がぶつかり合う。
秩序の光が砕け散る。
だが──
フォルセティの姿は傷一つない。
「愚かな選択だ、テュールのヴォルヴァ」
フォルセティはオリビアを見下ろす。
「反逆は記された。神判を待て」
光が消え、フォルセティの姿は静かに空へ溶けた。
──それだよ、オリビア。
それがあんたの剣だ。
《オリビア共闘意思:確認》
オリビアは、初めて自分の意志で剣を握っていた。




