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第26話 世界は置物一つで動き出す

オレ達三人はモーテルに泊まった。


何事もなかったように、朝は来た。


翌朝、オリビアの姿はすでになかった。


ミラが自分の手を眺めながら呟く。


「オリビアさん、いないね」


「ああ」


「肩が震えてた。きっと怖かったんだね。過去に向き合うのが……」


「そうかもな。あんなに強えのにな」


スマホが震えた。


「え!?翔くん、これ」


「ああ……」


互いにスマホを見せ合う。


《不明ヴォルヴァ:登録完了》

《オリビア・エル・ヴァンガード》


────────────────────

NAME:オリビア・エル・ヴァンガード

RACE:人間

CLASS:ヴォルヴァ

GUARDIAN:テュール

AFFINITY:アースガルド

────────────────────


「オリビア・エル・ヴァンガード、守神テュール……」


「オリビアさん、アプリ入れたのかな?」


「さ、さあ……」


ミラはクスッと笑った。


「オリビアさんが、スマホをポチポチしてる姿、想像するとなんか可愛いね!」


「そういやあ、オリビアって、あんな長いロングソード振るのに、何で片手しか使わないんだ?」


「え、知らない。隻腕のテュールが守神だからじゃない?」


そこはテキトーなんだな。


ミラは、オレの顔を覗き込んだ。


「ねえ、翔くん。オリビアさんって、レベルいくつなんだろう?」


「え?」


「気にならない?」


いや、気になるけど、お前が言うと思わなかったわ。


「オリビアさんは…… 15!」


「いやあ、もっと強えよ!20だ!」


ミラが笑った。


「賭ける?」


「いいぜ!負けたらどうする?」


「うーん……ドワーフの置物買ってあげる!」


「あんなのもういらねえよ!」


「翔くんは、レベルいくつ?」


さっきレベルアップって出てたから……


「7だな……」


「弱っ、アハハハ!」


「おいミラ、バカにすんな!じゃあ、お前はいくつなんだよ!」


「え、13」


「いや強いって!ズルいな」


ミラはオレの頭をポンポン叩いた。


「はっはっは、精進しなさい、ワイルドブラッドさん」


なんか、ミラ……キャラ変わってない?


「ところで翔くん、今日どうする?ストックホルムまで1時間で帰れるけど……」


そっか。

帰ってもやることないし……


「翔くん、せっかくだからニーナスハムン見て回ろうか!行こ!」


まだ、オレ何も言ってないけど……。

ま、いっか。

それにしても今日はなんか明るいな、ミラ。


「今日、なんか明るいね、ミラ」


「うん!なんか、新しいヴォルヴァの仲間が出来た気がして、楽しくなってきたのかも!」


仲間、か。

まだわからないけどな。


言おうとしてオレは言葉を飲み込んだ。


オレ達はニーナスハムンの町を歩いた。


白い木造の家々が、入り組んだ坂道に沿って並び、屋根の隙間からはまだ昨夜の冷気が滲んでいる。

海から吹き上げる風は冷たいのに、不思議と嫌な寒さじゃない。


昨日のヘルハウンドとガルムルとの戦いの痕跡には、ミラと顔を見合わせ、無言で目を背けた。


「やっぱ静かだね、この町」


ミラが小さく言った。


石畳を踏む靴音だけが、やけに大きく響く。

港の方では、漁船のロープがきしりと鳴り、カモメの声が空に溶けていった。


「観光地って聞いてたけど……」


「思ったより、素朴だな」


派手な看板も、呼び込みもない。

代わりに、古い店の窓辺には手編みのセーターや、木彫りの人形、用途の分からない金属細工が無造作に並んでいる。


売るためっていうより、町を彩るために置かれてるだけのように見える。


ミラは、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、落ち着きがない。


「ねえ翔くん、これ見て!鹿の角のペンダント!あ、この銀の髪飾り可愛い!」


「やっぱ、女子だな……」


「当たり前じゃーん!わ、この雑貨屋さん、可愛い!」


──小さな雑貨屋だった。


木製の扉。

ミラは迷いなく扉を押した。


カラン、と小さなベルが鳴る。


中は、外よりも少し暗い。

棚という棚に、木彫りの置物、石細工、布人形が所狭しと並んでいる。


「わぁ……」


ミラの声が弾んだ。


「ねえ翔くん、ここ楽しい!」


ミラのはしゃぎが止まらない。

こういう時、オレはどうしたらいいんだ……


「お、おう。楽しいな……」


ミラが、棚の一角でピタリと止まる。


「……え?」


その視線の先。


まさか……噂をすれば……


小さな木製の台座の上に、

見覚えのある置物が、鎮座していた。


腕を組み、どこか遠くを見るような表情。

ずっしりとした重みを感じさせる、あの造形。


「あれって……」


「帰らぬ王!ドワーフだ!」


おっさんの置物。

なんだ、量産品だったか……。


札には“The king who never fight”の文字があった。


「ミラ、これなんて書いてある?」


「えっと、“戦わぬ王”だって……」


オレが持ってるのは、帰らぬ王。

これは戦わぬ王、か……。

確かに、このオッサンは剣を持ってないが。


ミラが置物を覗き込んだ。

「翔くん、この台座……」


ドワーフの置物が収まっている台座。

そこには7つの溝があった。


「1、2、3、4 …… 7。これって、7体のドワーフが収まるようになってるってこと?」


「多分……」


オレは、店のカウンターに目をやった。


無精髭を蓄えたドワーフみたいな店主が、カウンターに肘をつき、こちらを睨むように見つめていた。


「なんだ?」


無愛想な店主が声をかけてきた。


ミラが置物を指差して聞いた。


「この置物、いくらですか?」


店主は一瞬沈黙し、

席を立ちこちらに向かってくる。


「でか……」


小さな雑貨屋に似つかわしくない、大男がオレ達を見下ろした。


「800クローナ」


そういうと店主はカウンターに戻って行った。


「800クローナって、日本円で……。え、たっか!ストックホルムじゃ1000円もしなかったのに……」


ミラはオレの方を見てキョトンとしていた。


「買わないの?」


「かっ、買うわけないだろ!大体、こんなオッサンの置物、オレは──」


その時。


コトッ。


「え」


「今」


置物を振り返った。

ドワーフの置物は、そのままだった。


「音……しなかった?」


「した」


じーっと置物を見つめるオレとミラ。


何も変化はない。


「……な、わけないか」


オレは置物に背を向けた。


「行こうぜ、ミラ」


「やっぱり買わないの?金色だよ」


「色の問題じゃねえし。……行くぞ」


オレ達が店を出ようとしたその時、無愛想な店主が声をかけてきた。


店主の威圧感がすごい。


「台座付き。400クローナ」


沈黙。


オレ達は店を出た。


オレの手には、金色のオッサンの置物と台座。


「なんでこうなる……」


ミラが笑った。


「やっちゃったね!あと5体、集めなきゃ!フフフ」


なんなんだ、この展開。

全くいらないオッサンの置物を集めるオレ。

そして、無駄に重い……。


「ヒヒ、よかった!私まだ賭けに負けてなくて!」


《世界階層データ・シンクロ率》

《ニザヴェリール  5% → 10%》


「こんなの持って電車に乗るのか……」


ガタン。


ストックホルムに帰る電車が動き出した。

目の前の金色のオッサンの置物がオレを見つめる。


オレはスマホを開いた。


────────────────────

《世界階層データ・シンクロ率》

《北欧神話》

アースガルド     11% → 15%

ヴァナへイム    25% → 78%

アルフヘイム   Locked

ミッドガルド    49%

ヨトゥンヘイム  Locked

ニザヴェリール    5% → 10%

ヘルヘイム     13% → 25%

ニブルヘイム   Locked

ムスペルヘイム  Locked

────────────────────


「ヴァナヘイム78%。フレイヤと話したから……ヘルヘイムはヘルハウンドとガルムル……」


ミラが不思議そうにオレのスマホを覗き込んだ。


「ヴァナヘイムは分かるけど、ヘルヘイムは戦ったから上がったのかな?アースガルドは、オリビアさん?それともフレイヤ様もアースガルドに関係してるから?」


「うーん。わかんねぇ……。ただこの数値、単純に戦えばいいってもんじゃなさそうだな」


ミラはクスッと笑った。


「ミラ?」


「ううん。ニザヴェリールわかりやすくて。置物買ったらアップって、笑える」


「確かに」


一体なんなんだ、このおっさん。

金色のおっさんは、表情を変えずオレの顔を見つめていた。


────────────────────

《WORLD TREE RECONSTRUCTION》

Progress : 177 / 900 (19.7%)

Status : Incomplete

Error:統合プロセスが未定義です

────────────────────


でも……。

置物買っただけで世界が動くなら、オレ達が何をするかが大事ってことでもある。


のかもしれない。

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