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第23話 ヘルヘイムの番犬

フレイヤはパン屋の店主の姿に戻り、見えなくなるまでオレ達に手を振って見送ってくれた。


フレイヤの姿が見えなくなる寸前、オレの頭に彼女の言葉が響いた。


「また会いましょう」


オレはミラと顔を見合わせた。


「翔くん、今……」


「ああ。オレにも聞こえた」


ゴットランドを背に、オレ達は船に揺られながら物思いに耽っていた。


オレはスマホを開いた。


────────────────────

《世界階層データ・シンクロ率》

《ヴァナヘイム   25% → 78%》

────────────────────


78%……。

一気に上がったな。


────────────────────

《スキルレベルアップ》

《ヴァナヘイム共鳴 Lv1 → Lv2》

《ヴァナヘイムで全ステータス+回復速度増》


《パッシブスキル獲得》

《フレイヤの後悔》

《フレイヤの衣が対象の防御を上げる》

────────────────────


フレイヤの後悔、か。


────────────────────

▶︎ 神格照会

神格情報を確認出来ます。


対象を選択してください。

 FORSETI

▶︎ FREYJA

────────────────────


フレイヤ……。

結局、いいやつだったな。


────────────────────

《GOD DATA》

NAME:FREYJAフレイヤ

MYTH:北欧神話

FACTION:ヴァナ神族

DOMAIN:豊穣/生命/愛


Divine Rank:A


敵対行動の可能性:低

────────────────────


スマホを真剣に見つめるオレの横で、ミラは小さくため息を吐いた。


「オリビアさん、私達を助けてくれた時、これ以上神話に近づくなって言ってた。あれってアリスのことがあったからなのかな?」


それはオレにはわからねえよ、ミラ。

素直にそう思った。

でも、自分を犠牲にしてヴァナヘイムを、自然を守ろうとする妹。

その過去を繰り返させないために、オレ達の前に立ちはだかってるんだとしたら──


「オリビアは悪いやつなはずがねえ。それだけは確かだ」


ミラはクスッと笑った。


「翔くん」


「なんだよ」


「翔くんは不思議な人だ」


「何が?」


ミラは海を見ながら続けた。


「人も神も、そして動物も、どんな相手にも同じように接する。皆が特別な存在かのように、そして皆が当たり前の存在かのように」


「褒めてる?」


「褒めてる! フレイヤ様に、てめえ!って言っちゃうんだから! 私、ドキドキしちゃった!」


「うん、それ褒めてないね」


オレ達を乗せた船は、ニーナスハムンに到着した。


ミラは頭を掻いた。


「やばい……ストックホルムへ帰る電車がもうない……」


「え!?」


「パパに電話してみる!」


ミラは慌ててスマホを取り出した。


オレはふと周囲を見渡した。


なんか、静かだ。

……静かすぎる、異様に。


電話をするミラの後ろに、動くものを見つけた。


犬?


「翔くん! パパがニーナスハムンで泊まってこればいいじゃないかって。せっかくだからいろいろ見てきなさいって!」


「ミラ、あれ」


「どうしたの?」


ミラはオレに言われて後ろを振り返った。


霧の中に、獣の形をした影が立っていた。

毛はなく、黒く歪んだ体。

ひび割れた皮膚の隙間から、赤い光が滲んでいる。

縦に裂けた瞳が、こちらを見た。


口が開き、不揃いな牙の奥から死の匂いが漏れた。


《敵性存在:検知》


ミラは振り返ると叫んだ。


《敵性存在:確認》


「ヘルハウンド!」


《敵性存在:分析》

識別名:HELL HOUNDヘルハウンド

分類:中位死霊獣


「ヘルハウンド?」


オレは首を傾げた。

道路脇にもう一つの影が動く。

ミラは塀の上を指差した。


「あそこにも!」


「クソ、囲まれてる。なんだってんだよ!?」


その時、オレ達の背後で声が聞こえた。


「やっぱり、あなた達は……」


オレ達の後ろには、黒いコートに身を包んだオリビアが立っていた。


オリビア……。

どうしてここに?


「オリビアさん……」


オレは、オリビアに歩み寄ろうとするミラの腕を掴んだ。


「待て、ミラ。こいつ神に操られてるかもしれない……」


ミラは歩みを止めた。


「オリビアさん、どうしてここへ?」


オリビアは、下を向き地面に手を翳した。


「戦神テュール」


反射的にオレは身を屈め、拳を握った。


「やっぱり、こいつ!?」


地面を割って現れた真紅のロングソードを引き抜いたオリビアは、オレの顔を睨みつけて叫んだ。


背筋が、ぞくりと冷えた。

やっぱりオレを狙ってる。


「警告したはずだ!」


来る!


オリビアが踏み込んだ。

その足が、大地を割る。


飛んだ。

赤い閃光が水平に弧を描く。


「あぶね!」


オレは咄嗟に頭を下げた。


「ギャウン!」


え?


切り裂いたのは、背後から飛びかかって来ていた、ヘルハウンド。


オリビアの目は、オレ達の背後に向けられていた。


「アースガルドは本気だと、警告したはずだ! ヘルヘイム!」


オリビアの狙いは、オレ達じゃない?


ヘルハウンドの群れの後ろで、一際大きな影が動いた。


《敵性存在:分析》


オリビアの口が一瞬歪んだ。


《敵性存在:確認》


「ヘルヘイムの番犬……」


《敵性存在:分析》

識別名:GARMRガルムル

分類:上位死霊獣


「ガルムル!」


霧が、一段深く沈んだ。


ヘルハウンドたちが、一斉に動きを止める。

唸り声が消えた。


──来る。

オレの本能が、そう叫んだ。


霧の向こうで、地面を引きずる音がした。

爪だ。

硬い何かが、アスファルトを削っている。


ヘルハウンドより、ひと回り……いや、比べものにならないほど大きい。


黒く、濡れたような皮膚が裂け、そこから赤黒い光が脈打つ。

首元には、禍々しい装飾の施された首輪が、肉に食い込んでいた。


頭が、ゆっくりと持ち上がる。


顎が開くたび、内部から吹き出すのは吐息じゃない。

死そのものの匂い。


「……ガルムル」


ミラが、息を詰めた。


北欧神話に語られる、ヘルヘイムの門番。

死者が溢れ出さぬよう、世界の境界を噛み締め続ける獣。


その奥から、低く、重い声が響いた。


「……ワイルドブラッド」


喋った!


「神話を汚す者よ」

喉を震わせるたび、霧が脈打つ。


オリビアが呟く。


「ワイルドブラッド。ミラ・アスクリンド。こいつには勝てない」


「……は?」


「逃げるぞ!」


オリビアは背を向け駆け出した。


「え、逃げる?」


戸惑うオレの腕をミラが引いた。


「翔くん! こいつは無理!」


「なんで?」


反射的にオレも背を向け駆け出した。


《生存確率:計算》

《生存確率:3%》


ニーナスハムン。

人影が見えない港町に、災厄が降り立った。

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