第2話 推奨レベル45の壁
初遭遇の敵、ドラウグル。
最初の敵って多分、雑魚……。
《生存確率:再計算》
《生存確率:9%》
「ちょ、待て待て待て……生存確率!」
雑魚じゃねーのか!?
黒く濁った霧みたいなオーラが、
身体に巻きついてる。
──ガチャッ
音がした。
甲冑?
その隙間から骨みたいなモノが突き出てる。
そいつが歩くたび、墓場のフェンスがガタガタ揺れる。
足元に黒い影が浮かんでは消える。
でも暗くてはっきり輪郭が捉えられない。
オレは目を細めて覗き込んだ。
ん?
「今──」
なんとなく、目が合った気がした。
その瞬間、ドラウグルが踏み込んだ。
一気に距離が詰まる。
「なっ!?」
全然見た目と違って、めっちゃ速い!
なんか手に持ってる。
錆びてる……剣!?
「危なっ!」
──避けた。
と思ったら、かすった。
「痛っ!」
すぐ後に衝撃。
体当たり。
ドンッ!
後方に大きく吹き飛ばされ、背中を強打。
車の警報が一斉に鳴り響き、街路樹が大きくしなる。
「がっ……!」
視界がぐらりと揺れる。
「いてえ……」
どころじゃねえ。
もう一回食らったら意識飛ぶ。
避けたと思ったのに……
視界の端でスマホが赤く点滅していた。
Warning!
《環境デバフ:極寒》
敏捷値 -15%
……これか。
視界の端で、アプリが点滅している。
《戦闘状態に移行》
《スキル使用可能》
▶︎あばれる
オレは、笑った。
全然笑ってる場合じゃないけど、
乾いた笑いが、喉から漏れた。
「あばれてなんとかなるのかよ!?」
震える膝に力を入れて、立ち上がる。
《体力 40/100》
「もう体力、半分以下じゃねーか!」
オレは拳を握った。
相手は下位の魔物。
アプリは間違ってる。
そんな雑魚にオレは負けない。
息を吸って、吐く。
そして──
オレは、足で地面を蹴り上げた。
砂の混じった雪がドラウグルに当たる。
「……悪ぃな」
オレは、踏み込んだ。
ストックホルムに降り積もった雪が、舞い上がった。
踏み込んだ瞬間。
足元の雪が、蒸発した。
──来た。
そう思った次の瞬間、視界が緑に染まる。
これがオレのオーラの色。
自然と言えば、緑。
だからかどうかは、知らん。
《ワイルドブラッド補正検知》
自己再生:微
《体力 45/100》
《ワイルドブラッド反応値:異常上昇》
神の力を持たないワイルドブラッド。
危機に瀕して能力が爆上がりする。
一時的だけど。
アプリが悲鳴みたいな警告音を鳴らした。
さっきまで感じてた“寒さ”が、消えていた。
《ステータス上昇》
攻撃↑
防御↑
《生存確率:上昇》
《生存確率:19%》
「おらあぁぁ!!」
拳を振り抜いた。
確かに芯を捉えた──はずだった。
次の瞬間、手応えが消えた。
当たった感触だけ残して、力だけが抜け落ちる。
見えない壁。
ぶつかった瞬間、拳から伝わった衝撃が内臓を揺らした。
……バリア、的な?
視界に赤く光る文字が、二行、点滅した。
《衝撃:内部損傷》
《衝撃:呼吸阻害(数秒)》
「っ……は……っ、くそ……!」
今、見ても仕方ねえだろ!
その瞬間、反発するような圧力が爆発して、オレの身体が後ろに吹き飛んだ。
着地の瞬間、足首から膝まで痺れが走る。
「……だから……痛ぇって……」
本来なら、顔面ごと吹き飛ばしてる。
視界の端で、緑の光が一瞬だけ揺れた。
手からこぼれ落ちたスマホが光る。
Warning!
《環境デバフ:極寒》
体力値 -15%
ごめん。
やっぱ北欧、舐めてた。
……まあでも。
こんなやつに負けるわけねえ。
さらに緑のオーラが濃く、高く燃える。
《ワイルドブラッド反応値:さらに上昇》
《ステータス上昇》
攻撃↑
防御↑
敏捷↑
《生存確率:上昇》
《生存確率:21%》
「嘘だろ? まだ21……」
いや。
ワイルドブラッドの力、アプリ如きに分かるはずがねぇ!
「やったるわ!」
飛び込んだ。
今度こそ。
《神技使用 ワイルドスピード(仮)》
──飛び膝蹴り。
と見せかけて──狙いは……
ドラウグルを飛び越えた。
取った!
「背中だ!」
拳を叩き込む。
全力で。
「貫け!」
ドン!
当たった!
吹っ飛んだ。
……──やっぱりオレが。
は? なんで?
受け身が遅れて、顔から着地。
「ぐっ……おかしい」
当たる瞬間、何かに押し返された。
絶対、バリアだ。
でもドラウグルじゃねえ。
あいつはまだ何もしてない。
「他の力が。何かがあいつを守ってる……」
《体力 20/100》
ヤバい。
「てか……」
ドラウグルの背後の空気が揺れる。
ゾワゾワと地面から這い出てくる影。
ドラウグルの群れが現れた。
「ちょっ、待て!」
反則じゃん。
普通一匹じゃん。
まずは一匹じゃん。
《生存確率:低下》
《生存確率:4%》
スマホから警告音。
ダメだ。
今はアプリに振り回されてる場合じゃねえ。
「嫌だ。オレは見ないぞ!……見ない」
でも、気になる。
ちょっとだけ。
よ、4パー……。
もう死んだじゃん。
終わったじゃん。
ガツン!
その瞬間、頭をぶん殴られた。
横にもいた、ドラウグル。
夜空が白く弾けた。
意識が遠のく。
もう終わり?
あんなに意気込んで日本を飛び出してきたのに。
……やっぱ推奨レベル45。
何もできずに、終わり。
笑えねえ……。
薄れていく意識の中で音が聞こえた。
鐘?……教会か?……。
あ、ダメだ。
意識が……切れる……。




