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第17話 神を殴る理由

「眩しい……。でも寒い」


起きた。

静かな朝だった。

物音一つしない。

フラフラと階段を降りて、リビングに顔を出した。


「おはようござい……ます」


誰もいない。


コーヒーとパン、チーズにラズベリーが盛り付けてあった。

皿の横には置き手紙。


おはよう!

翔くん。

今日は久々の登校日だった。

パパもママもいないから、

ゆっくり過ごしてね。

-ストックホルムでの禁止事項-

・ナンパ×

・デート×

・女の子の連れ込み×

ストックホルムでは

かなり重罪に問われるから気をつけて。

つまり私のいない時は、外出禁止です。

お利口に過ごしててね。

素敵な一日を。

あなたのミラより


あのさ、ミラ。

外出禁止て。高校生かよ。

ミラの言葉は、いつも冗談か本気か、よくわからない。


「そういえば……ストックホルムに来てから、一人で過ごすのは初めてかもしれない」


とりあえず、朝メシをありがたく頂こうか。


スマホを見ながら、パンを口に放り込む。


昨日、ミラが見せてくれた三年前のニュース。


過激な自然保護デモ隊「ヴァナリス」リーダー死亡


アリス・エル・ヴァンガード。

ヴァナリスのリーダーねぇ……。


昨日の、オリビアの言葉が頭を過る。


「本当に?……こうしろって……言ってるの?」

「したくない。だけど……しろって言われる」

「アリス……わかったよ」


オレはスマホを置いた。


オリビア・エル・ヴァンガード……か。


窓から食卓に差し込み朝日が、手に落ちる。


そうか。

オレは……まだ。


「出かけるか」


ミラ、悪いな。

外出禁止令、破ります。


太陽の光が燦々と照らすストックホルム駅。


……探してたわけじゃない。

なのに、目に入ったんだ。


プラカードを持った数人。

大声を出すわけでもなく、ただ道行く人に

プラカードを見せ、笑顔を浮かべる。


プラカードに書かれた英字の並びを目で追ってみた。


「ヴァ……ナ……リス。ヴァナリス!」


ネットで見たデモ隊の印象とは随分違う。

オレは、その人たちの後ろにあったベンチに腰掛けた。


この保護団体の人たちは、思ってたよりずっと高齢だった。


白髪混じりのおじいさん。

背中の曲がったおばあさん。

厚手のコートの下で、肩を寄せ合って並んで立っている。


「寒いね」

「大丈夫、大丈夫」


そんな声が、微かに聞こえた。


お互いに笑い合いながら、

励まし合うみたいに、

静かにプラカードを掲げている。


……これが、ヴァナリス?


昨日までオレが見てたのは、

過激な自然保護団体。

街を混乱させた危険な集団。


でも、目の前にいるのは、

ただの年寄りたちだった。


そこへ。

数人の男が近づいてきた。


「こいつら、まだやってんのかよ」


おじいさんは何も言わない。

おばあさんも、ぎこちない笑顔のまま、プラカードを握り直した。


男の一人が鼻で笑った。


「邪教が」


次の瞬間。


弧を描いて飛んできた空き缶が、

一番前に立っていたおじいさんの額に当たった。


おじいさんはよろけて、膝をついた。


遅れて、額に血が滲む。

周囲が一瞬、静まり返った。


おばあさんが叫んだ。


「大丈夫!?」


男たちは一瞬だけ黙って、

それから、また笑った。


──落ち着け、オレ。


一人の男が、プラカードを抱えたおばあちゃんの前に立った。


「死に損ないが!」


男は、おばあちゃんのプラカードに向かって、手を出した。

おばあちゃんの手が一瞬、震えた。


──あ、やっぱ無理。


気付いたら、

オレはその男の腕を掴んでた。


「北欧にもゴミいたわ」


男はオレの顔を見下ろして、口を歪めた。


「なんだ、てめえ」


テンプレ通りの返し。


後ろの男達が距離を詰める。


だよね。

そんで……


「手、離せや、アジア人」


右から拳が飛んできた。

アジア人って言葉だけが想定外。


気付いたら、男達は倒れてた。

周囲の視線が一番痛い。


その時、額を抑えてたおじいちゃんが、オレの手を引いた。


「こっちだ」


「あ、はい」


素直に従うオレ。

郷にいれば郷に従えってやつ。


おじいちゃんは、駅裏に抜ける人気の少ない地下道にオレを案内した。


「ここなら大丈夫」


「あ、なんかすみません。余計なことしましたか?」


おじいちゃんは、代わりにハグした。


「いやあ、ありがとう!」


そこは文化の違い。多分。


「君は、どこから来たんだ?」


「日本です」


おじいちゃんは目を丸くした。


素性を聞かれたけど、教えられる素性も大してない。

強いて言えば、トラブル体質。


「悪かったねぇ。それじゃあ、ワシは戻るよ」


あっさりと背を向けたおじいちゃんを、オレは呼び止めた。


「アリス・エル・ヴァンガード。ご存知ですか?」


おじいちゃんは、ピタリと足を止めた。

振り返らず、聞き返してきた。


「なぜ、その名前を?」


「ヴァナリス。ヴァナヘイムとアリス。違います?」


おじいちゃんは振り返った。

明らかに険しい顔。

いや気配が……変わった。


「だから、どうしてそれを?」


「あ、いや。そのお姉ちゃん、オリビアに会いたくて。どこに行ったら会えますか?」


おじいちゃんは、再び背を向けた。


「後ろだ」


え?


背筋に冷たいものが走った。

振り返った先。


「オリビア……」


灰色の目が、オレの目を射抜く。


「ワイルドブラッド。なぜ、ヴァナリスを追う?」


「あ、いや。ヴァナリスを追ってるんじゃなくて」


オリビアが一歩踏み出す。


「なぜ、アリスの真相に迫る!答えろ!」


「ちょちょちょっ、違う!オレはただ……」


オリビアは、右手を下ろした。


「戦神テュール」


ちょっと待てよ!

本気かよ、こいつ!?


地面から浮き出るロングソード。

その切先は、もちろんオレに。


思わずオレも拳を握った。


「オリビア!やめろ!」


「私の名を……気安く呼ぶなぁ!」


《不明ヴォルヴァ敵対意思確認》


オリビアが踏み込んだ。


真っ直ぐにオレの胸めがけて飛んでくる。


ちょ待て速すぎ。

服切れたんだけど!?


今度は、振り上げ。

燕返しかよ!?

耳かすったし!


今度は、大きく弧を描いて、そのロングソードがオレの首に迫る。


紙一重。


「危なっ!」


オリビアのロングソードが壁に突き刺さる。


でも。

なんとなく違和感。

太刀筋が揺れてる。


オリビアは、壁に刺さった剣を引き抜いた。

オレの方を見ず、小さく呟く。


「はい……直ちに……」


オリビアはロングソードを構え直した。


「オリビア……まさか」


わかった。

違和感の正体。

オリビアの意思じゃねえ。


「そういうことなら、やってやるわ!」


《ワイルドブラッド反応値:急上昇》

《ステータス急上昇》

攻撃↑

防御↑

敏捷性↑


隠れてないで、姿を現せ。


「いるんだろ、そこに?」


《神技ワールドエラー使用》

《自然によるフィールド侵食開始》


ストックホルムの駅が、森に変わる。

オリビアの手足に蔓が巻き付く。

ロングソードがこぼれ落ちた。


オリビアの口が震えた。


「これは……!?」


オリビアの後ろ。

確かにいる。


笑えるぜ。


「この技、ワールドエラーって言うらしいぜ。オレに言わせりゃ、この神話が、エラーそのものなんだけどな!出てこいや、北欧の神!」


オリビアの背後の空気が、歪んだ。

光が、音もなく裂ける。

影が、笑った。


オリビアの後ろから影が立つ。

白く淡い光に包まれた人影。

ゆっくりと輪郭を表した。


《神格反応:検知》


「ワイルドブラッド。汝は危険だ。これ以上神話に踏み込むな」


「聞き飽きたわ、その言葉。誰だ、てめえ」


「我が名はフォルセティ」


《神格反応:確認》

《神格存在:分析》

識別名:FORSETIフォルセティ

分類:アース神族


フォルセティ。

聞いたことねえ。


「ワイルドブラッド。汝の存在は神話の均衡を乱す。アースガルドより、すでに神判が降っておる。ここで果てよ」


神判?

笑うぜ。


「そっか。わかった。じゃあ、オレから一つお前に教えておいてやる。よく聞いとけ、北欧の神」


「なんだと?」


「日本の神の中にも、どうしようもねえ奴はたくさんいたよ」


「それがどうした?」


「でもなぁ……。自分は影に隠れて、代わりに汚れ仕事をさせるような、てめえみてえな最低野郎は、日本神話にはいねえ!」


オリビアの瞳が揺れた。


「だめ……ワイルドブラッド。神に手を出しちゃ……」


久々に本気でムカついた。

だから。


「今からてめえをぶっ飛ばす!」


「愚かな。神話の維持は何よりも優先される。よって──」


うるせえ。

オレは、てめえの説教聞きに来たんじゃねえ。


「オレが、てめえに説教してんだよおぉ!」


緑の閃光が、白い光にぶつかる


──気付いたら、拳がめり込んでた。

北欧の神を、ぶん殴った。


神の体が、後ろへ吹き飛ぶ。

白い光が散り、森の空気が震えた。


「がっ……!」


フォルセティは地面に片膝をついた。


「次は許さねえ。北欧神話の神々、全員に言っとけ」


フォルセティは、笑っていた。

そして何事もなかったかのように、フワッと宙に浮いた。


「よかろう。ワイルドブラッド。アースガルドは、汝の意思を受け取った」


そういうと、フォルセティと名乗った神は光の中に消えた。


呼応するかのように森の幻影も静かに消えた。


「はぁ……。ワールドエラー、しんどいな」


《神技ワールドエラー使用により体力減少》

《体力 20/150》


オリビアは、その場に立ち尽くしていた。


「ワイルドブラッドって、一体……」


「オリビア、大丈夫?」


「ワイルドブラッド……どうして私を追う。なぜアリスの真相を……」


オレは頭を掻いた。


「だから違うって言ってんじゃん」


オレが顔を覗き込むと、オリビアは視線を外した。


「お礼。まだ言ってなかったって思って」


「お礼……?」


「ああ。ビルカ遺跡で、オレを守ってくれたじゃん。そのお礼を言わなきゃって思ってさ。ありがとう」


「そ……それだけ?」


「ああ、それだけ。ごめんな、勘違いさせて」


オレはオリビアに背を向けた。


あとさ。


「オレの名前、翔って言うんだ。また会うことがあったら、よろしくな」


オリビアは呆気に取られたようにその場に立ち尽くしていた。


駅を出た時、スマホが震えた。


《レベルアップ》

《ステータスアップ》


《アースガルド シンクロ率 : 上昇》

アースガルド  11% → 19%


「なぜか、神様ぶん殴ったら、シンクロ率上がった」


《ミッドガルド シンクロ率 : 減少》

ミッドガルド  55% → 49%


「げっ、ミッドガルド下がってんじゃん!……

こっちもやったことは同じなのに……」


《SYSTEM NOTE》

・ワールドエラー使用により、高位存在からの注視リスク:上昇


それはもうわかってるよ。


《システムアップデート確認》

《軽微なバグを修正しました》

《新機能が追加されています》

《新機能:神格照会》


「アップデート……」


オレはそのままスマホを閉じた。


「今日はもういいや。疲れたわ」


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