第15話 隻腕の戦神
「隻腕の戦神?」
ミラが答えた。
「戦いと正義の神テュール……。きっと、オリビアさんの守神」
戦わないヴォルヴァの守神に、戦神てか。
オリビアの手から滴り落ちた血が、
石畳から立ち上がる赤い光に溶けていく。
「我が覚悟に剣を預けよ ──!」
オリビアが叫ぶと、
割れた石畳の下から
剣の柄が姿を現した。
《SYSTEM LOG》
・不明ヴォルヴァ、テュールとのリンクを確認。
「ヘルヘイムに──アースガルドの裁きを」
オリビアは、その剣を一気に引き抜いた。
赤く光り輝くロングソードが、遺跡を照らす。
「オリビア・エル・ヴァンガード……参る!」
《不明ヴォルヴァ、共闘意思確認》
《生存確率:再計算》
「フン!」
振るわれた大剣から、漆黒の衝撃波が解き放たれる。
「ハァ!」
オリビアもロングソードを片手で振り抜いた。
赤い衝撃波が地を裂き、真正面からぶつかる。
光が爆ぜ、空気が悲鳴を上げた。
轟音。
オレは思わず腕で顔を覆う。
間髪入れず、グラムが再び大剣を振りかぶった。
「ジャッジメント……」
オリビアの声は、すでにグラムの頭上。
見上げた瞬間、真紅の斬光が落ちてくる。
テュールのロングソードとグラムの大剣がぶつかり合った。
衝撃が炸裂し、周囲のドラウグルがまとめて吹き飛ぶ。
足元の石畳が跳ね、オレの体も宙に浮いた。
——ああ。
これが、神話同士のぶつかり合いか。
禍々しい甲冑の奥で、グラムの気配がわずかに変わった。
「なるほど。アースガルドは本気か……」
オリビアは、そのロングソードをグラムに向けた。
「お前が望むなら」
グラムはそれを聞くと静かに剣を納め、あっさりとオリビアに背を向けた。
「ここは我の裁量にあらず。ヘルヘイムに判断を仰ぐ」
そういうとグラムは、ゆっくりと霧に溶け、姿を消した。
3人の間に風の音だけが残った。
ドラウグルの気配も、グラムの殺気も、嘘みたいに消えている。
自力で立てないオレの肩を、
ミラが優しく支えた。
「悪い……ミラ」
「ううん、無事でよかった」
オリビアを振り返ると、すでにオレ達に背を向け、フラフラと歩き出していた。
「オリビア!」
「オリビアさん!」
オレ達の呼びかけには答えない。
「守れと……戦えと、言っているの?……どうして……」
彼女はブツブツと何かを呟きながら去っていった。
オレとミラは顔を見合わせた。
「オリビアは、さっきから何を言ってるんだ?誰と話してた?」
ミラは首を傾げた。
「わからない……けど。オリビア・エル・ヴァンガード。……エル・ヴァンガード……やっぱりどこかで聞いたことあるような……」
《不明ヴォルヴァ検索中》
データが取得出来ませんでした。
まだ耳鳴りが消えない。
その静寂を破るように、オレのスマホが震えた。
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《レベルアップ》
Lv.3 → Lv.4
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「お、レベルが上がった」
ミラがオレのスマホを覗き込む。
「どれどれ?」
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《ステータスアップ》
《スキル進化》
格闘 → 空手 Lv.1
効果:
・打撃威力UP(中)
・コンボ速度・威力UP(小)
・カウンター成功率 UP
・敵接近時、回避率UP
・急所認識補正 付与
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「おお、なんかいろいろアップした!」
「わあ、翔くんすごーい!」
いや、あなたの方がレベル高いんだがな。
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《アースガルド シンクロ率 : 上昇》
アースガルド 5% → 11%
《ミッドガルド シンクロ率 : 上昇》
ミッドガルド 46% → 49%
《ヘルヘイム シンクロ率 : 上昇》
ヘルヘイム 13% → 18%
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「翔くん、3つの世界同時にシンクロ率が上がってる」
「うん、確かに」
アースガルドとミッドガルドは、この遺跡に来たから?
ヘルヘイムは……戦ってもシンクロ率が上がるのか?
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《世界階層データ・シンクロ率》
《北欧神話》
アースガルド 5% → 11%
ヴァナヘイム 25%
アルフヘイム Locked
ミッドガルド 46% → 49%
ヨトゥンヘイム Locked
ニザヴェリール Locked
ヘルヘイム 13% → 18%
ニブルヘイム Locked
ムスペルヘイム Locked
《WORLD TREE RECONSTRUCTION》
Progress : 103 / 900 (11.4%)
Status : Incomplete
Error:統合プロセスが未定義です
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このシンクロ率……
いまだに、どうしたら上がるのかがよくわからない。
それにしても……
去っていくオリビアの背中が、なぜか頭から離れなかった。
守れと、戦えと。
彼女はいったい誰の声を聞いていたんだ。
オリビアは敵なのか、味方なのか。
オレには、まだわからなかった。
ただひとつ、確かなこと。
グラムの出現。
オリビアとの出会い
そして世界樹のエラー。
全部が、偶然とは思えなかった。
オレはもう、とっくに神話の中に踏み込んでいる。




