第13話 ラグナロクに抗う者
オレとミラは振り返った。
女。
ショートヘアに銀髪。
全身黒で統一されたその服装が、
銀髪をさらに際立たせていた。
透き通るような白い肌。
でもミラとは違う灰色の瞳。
ミラが一歩前に出た。
「あなたは……?」
銀髪の女は、ミラを見ず、オレの顔を見たまま口を開いた。
「ワイルドブラッド……」
オレを、知ってる?
オレとミラのスマホが同時に鳴った。
《不明ヴォルヴァと接触》
《境界反応を検出》
《警告》
対象はアースガルド階層と接続中
《守神:不明》
《敵対意思:不明》
《共闘意思:不明》
女は、ゆっくりとミラに視線を移した。
「あなたは?」
「はじめまして!ミラ・アスクリンドです!守神はヴァルキリー。えっと、あなたは……?」
「オリビア・エル・ヴァンガード」
ミラの眉が小さくピクリと動いた。
「エル・ヴァンガード……?どこかで聞いたことあるような……」
「ミラ・アスクリンド。なぜワイルドブラッドをここへ?」
「どうして翔くんのことを知ってるの?」
オリビアは、足元の石環をゆっくりと見渡した。
「世界樹が、揺れた」
その一言で、空気が変わった。
「ワイルドブラッドが北欧神話圏に入った瞬間から。アースガルドとミッドガルズの境が、不自然に歪み始めた」
オリビアは淡々と続けた。
「……かつて、この世界を救った血。
三万年ぶりに、日本に現れたワイルドブラッド」
三万年ぶり?
……そんな話、オレは聞いてねえぞ。
ミラが小さく息を呑む。
「日本神話を揺らし、
そして今、北欧神話圏に侵入した」
灰色の瞳が、まっすぐオレを射抜いた。
「ヴォルヴァで、知らぬ者はいない」
三万年ぶりだったのか。
それはオレも知らなかった。
てか、侵入って……
酷い言われようだな。
旅行ってことにしておいてくれないかな。
でも、言い返さなかった。
オレの方からこっちに来たのは間違いない。
オリビアは、ミラに視線を移した。
「ミラ・アスクリンド。ワイルドブラッドを神話に近づけてはいけない」
「どうしてですか?」
「言うまでもない。そいつは世界の均衡を壊す。北欧神話の行く末を変える」
ミラが言い返した。
「北欧神話の行く末。ラグナロクを待つだけのこの行く末を変えて、何が悪いんですか?」
オリビアの視線が、今度はミラを射抜いた。
「悪い。ヴォルヴァは神話を見届ける者。神話を変える者ではない」
ミラはため息を吐いた。
「オリビアさん。あなたの言葉は、神様の言葉みたい。でも私は、人間。だからそんな簡単に終末を受け入れられない」
「愚かな。これ以上、踏み込めば、守神は手を引く。守神を失ったヴォルヴァは……神話の隙間に落ちるだけ……」
一瞬、オリビアの瞳が揺れたように見えた。
ミラは首を振った。
「オリビアさん。あなたは、そもそも誤解をしてる」
「誤解?」
「うん。翔くんは神話を変えようなんてしていない。むしろ……神話のほうが、翔くんを呼んでる。神話そのものが翔くんを求めているように感じる。まるで……助けを求めるように」
「ありえない。神話が助けを求めるなど」
白熱してる。
オレの事とはいえ、
なんか申し訳ねえな。
でも、女の戦いの中には、入っていけねえ。
その時、地面が揺れた。
石畳がバタバタと音を立てる。
これは地震じゃない。
《敵性存在確認》
もう慣れた。
石環の外側で、地面が盛り上がる。
骨の擦れる音が、いくつも重なった。
《敵性存在複数確認》
「まて、複数!?」
《生存確率 8%》
8パーって……
嘘だろ!
オレ、昨日レベルアップしたじゃん!?
……まあ、いい。
ゼロじゃないなら、十分。
最後はなんでも己の覚悟次第だ。
オレはそうやってこの瞬間まで生きてきた。
「なんでも来いや!」
ミラ。
そして、オリビア。
悪いが、難しい話はそこまでだ。
売られた喧嘩は、買う。
視覚に緑の光が揺れた。
《ワイルドブラッド解放値:上昇》
《ステータス上昇》
攻撃↑
防御↑
敏捷↑
神話が、かかって来るなら。
オレはとにかく、この拳を握って──
「ぶん殴って、話聞いてやるわ!」
視界の端に、金髪が揺れる。
「私もやるよ!翔くん!」
「ミラ……」
「私も嫌だから!ただただ終わりゆく世界を見てるだけのヴォルヴァなんて!」
《ミラ・アスクリンド共闘意思確認》
「翔くんの言葉通り。抗った先の未来を見る!
《生存確率:再計算》
《生存確率:上昇》
《生存確率 8% → 25%》
「行くぞ、ミラ!」
「うん!」
《不明ヴォルヴァ共闘意思不明》
オリビアは何も言わず、静かに一歩下がった。




