表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

#7 チェレン薬舗――ビビアンの旧友【リオラン&ビビアン】

再びリオラン&ビビアンです。



大通りから離れた路地は、濃密な花の香りに満ちていた。

ぐねぐねと細い道の先に、古びた看板を掲げた小さな店――『チェレン薬舗』掠れた文字で、そう書かれていた。


背の低い扉をくぐれば、コロンと木鈴の軽い音。

壁の棚には、花や木の実、薬草、粉や液体、そして何かの骨まで並んでいる。


街に買い出しに来た師弟が、休憩がてらに寄ったのだが――

狭い店内の唯一のテーブルで、リオランは“死んでいた”。




「死ぬんじゃないわよ。少し歩いただけでしょ!」

コトリと置かれたマグから、香辛料と煮詰めたミルクの甘い香りが漂った。


「人混み……にがて」

机に突っ伏したまま、消え入りそうに答えるリオラン。


「せまっ! おいビルトラウド、お前がいると余計狭ぇ!」

奥から割れた声。暖簾を押しのけて現れたのは、汚れた前掛けにボサボサ頭の女店主・チェレン。


「やだ、チェレン。ビビアンと呼びなさい。美しくない」

「お前の格好の方がどうかと思うぞ……」


自分の分まで茶を淹れたビビアンは、優雅にティーカップを傾ける。

貴族らしい所作――だが、筋肉で張ったワンピースが悲鳴を上げていた。


(スカートさん、ご愁傷さま……)

チェレンは内心で合掌した。


「で、この子は?」

壁際をすり抜けて、チェレンはリオランの向かいに腰を下ろす。


「リオランよ。久々の人里で、人酔いしたの」

「へぇ……まさか、あの“リオラン”かい?」

興味本位にチェレンは少女をつついてみる。


「うぐ……」

「ほんとだ、死んでる。おい、その茶飲んでみな」

渋々マグを口にしたリオランの目が丸くなる。

ほんの一口すすっただけで、口の中で香りが爆発、まるで匂いの博物館だ。


「これ……なに?」

「うまいだろ!」

みるみる生気が戻っていく。


「ただの薬茶じゃない……魔力が整う。回復草のポンポン茶……いや違う。もっと複雑――」

ぶつぶつと呟き始めたリオランに、ビビアンが苦笑した。


「ごめんなさいね。この子、研究おバカで」

「いや、親近感沸くわ。……テメェは勝手に棚を漁るな!」

何か良い茶菓子はないかと、ビビアンは棚の瓶を吟味中。


「綺麗にしてあげてるだけよ……あら、ドライフルーツ。いいじゃない」

「ここは薬屋だ! 茶屋じゃねえ!」


やれやれと椅子に座るビビアンに、チェレンが言った。


「たまには実家に顔出せば? 茶くらい出してくれるだろ」

ビビアンの手が止まる。


「いいえ。弟のシュエルラウドがね、『やっぱり無理だ後継なんて! 兄ちゃん変わって!』ですって」

「あー……弟くん」


顔色をくもらせたビビアンを前に、少し柔らかくなるチェレンの声。


古くからの腐れ縁だ。

ビルトラウドが、伯爵家に勘当され、身一つで魔塔で身を立てるまで。

苦労するのを間近で見てきた。


気の利いた言葉でもかけようとした瞬間、


「まったく、“姉さま”と呼びなさいと言ってるのに!」

「……そっちかよ」


チェレンが向かいを見ると、マグの影から覗く二つの瞳。


「お。お姉さんに質問かい?」

「ふたり……仲良し」

ポツリと呟かれた言葉に、大人組2人は硬直した。


「ないな」「ないわね」

一拍遅れて息の合った返事がくる。

その様子に、相変わらずマグを盾にして窺いながらも、リオランは感心した。


(先生のこんなくつろいだ姿、始めて見るかも)


「何か考えてるみたいだけど、絶対ぇ違うからな!」

ふむ、と内心頷くリオランに、チェレンが身震いしながら釘を差した。


「これ……中身、なに?」

そんなことより本題はこちらだ。

リオランは手元のマグカップを突き出した。


「お目が高いな。それは――」

「駄目よ、リオ。それは買い物のあと。教えてほしければ、付き合いなさい」

ピシャリと師に遮られ、むうっと膨れるリオランだが。


「元気になったわね。さ、行くわよ」

さっと立ち上がったビビアンは、気の乗らない弟子を引きずるように扉へと向かった。


「おー、いってら。薬茶の話できるの、楽しみにしてるよ」

軽く手を上げるチェレンは、店の奥に引っ込んだ。


手を引かれながらも、薬茶への未練からリオランは振り返る。

すると、暖簾がふわりと揺れて――


「……心配しなくても、あいつの"1番"は君さ」

店主はそっと、リオランの耳にささやいた。

割れた声が存外優しく、にっこり少女を見送った。



お読みいただきありがとうございました。

時系列は「#1 師弟の買い物」の途中にあたります。


チェレン薬舗は後に代々、歴代の最強ババアの行きつけ薬屋になるのだとか……。

作中の薬茶は、マサラチャイをイメージして書きました。体が温まって作者の大好きな飲み物です。


それでは、また来週。

次回は歴代でも珍しい、男の最強ババアの物語を予定しております。

続編ともリンクする物語。

よろしければ、もうしばらくお付き合いくださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ