表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

#10 チョコを食べても良い理由

諸事情でいつもより投稿遅くなりました、すみません…


"やってはいけない理由()ある"


それは、シティがよく知る世の中の絶対ルールの1つである。


「こら! お前、またとんでもないことをしてくれたわね!」

院長が顔を真っ赤にして怒っている。


「誰も、怪我はしてないわ。迷惑も、かけてない」


不服そうに口をとがらせ、シティは()()の瞳で院長を見返した。


「ま、なんて生意気」

ふと院長は気になった。


(この子の目、こんな色だったかしら?)

鮮やかではないものの、曇り空程度には青みのある瞳。以前はもっと灰に近かったような気が。

いや、きっと気のせいだ。なんせ孤児は沢山いるのだから。


「空き家だろうが、怪我人が出ていなかろうが、関係ありません。屋根の上を走るなんて非常識、見た人が驚くでしょう。孤児院の品位にもかかわるわ」


ピシャリと怒られ、シティは渋々謝った。

その時、シティの瞳が一層青みを増したのを、誰も気が付かなかった。



***

「あら、あなた。目の色が濃くなったわね」

厨房のマギーが、シティの顔を見て驚いた。

こっそり子供たちに余り物でお菓子を作って差し入れてくれる、素敵なマギー。

今日もまた、どうしても甘い物が欲しくなって訪れたシティの袖に、マギーはこっそりクッキーを忍ばせてくれたのだ。


「目の色が濃くなるのは、魔術の後天素養って聞くわ」

珍しそうに、そしてどことなく嬉しそうにシティを覗き込むマギーだが。


「はあ? んなわけあるか。目の色に出るほどの奴は、魔塔のエリートか、王宮魔術師レベルだろうが。光の加減だよ」

仕事しろ、とマギーの頭を叩いたのは厨房長。


「でも一度、ちゃんと診てもらったほうが……」

なおも言い募るマギーに、厨房長は声を荒げた。


「いい加減にしろ。さっさとガキを追い出さないと、お前がこっそり菓子を配ってること、上に言いつけるからな」

ギロリと厨房長の視線がこちらに向けられ、シティは慌てて厨房から逃げ出した。



***

どうして、やってはいけない理由ばかり。

やっても良い理由はどこにあるのかしら。


シティは悩む。

彼女は決してお馬鹿な子ではなかった。


高台から飛び降りたのも、突然聖歌隊に加わって大声で歌い出したのも、地面いっぱいに染め物の搾り粕で落書きをしてみたのも。


自分の中で溢れそうになる衝動を、何かの形で表さないと。

渦巻く熱が、きっと爆発してしまう。


「チョコレート、食べてみたい」

ほんの、一欠片で構わない。

孤児院で出る、祭事のときだけの特別な、「砂糖」というものが使われたお菓子よりも。

もっと甘くて濃いらしい。


そんなものは、孤児に必要ない。

大人たちはそう言うが。


「だって、試してみないと分からないじゃない」

不要なもの、試さなければ分からない。

ほら、鍋が熱くて触っちゃだめって、火傷して学ぶでしょう?


私は、私の輪郭を、試すことで確かめたい。

なのに――


「あれもだめ、これもだめ。一体何なら試して良いのよ」


全速力を確かめたかった。

自分の声の限界を知りたかった。

溢れるイメージを描き起こしたかった。

「甘さ」を味わってみたかった。


けれどもそれは許されない。

許されない理由があることを、シティは身をもって知ってしまったのだから――



***

マギーに目の色を指摘されてから数日後。

今日も小腹を空かせたシティは、こっそり厨房に向かっていた。

染め物作業から抜け出して、足音を立てずに石階段を駆け下りる。


ふと人の気配に足を止めた。


「なんでも、厨房長に目つけられたらしいよ」

「あたしは食材の横領って聞いたね」


中庭の見える窓に向かい、下女たちが噂話に興じている。

そっと後ろを通り抜けるが、続く言葉にシティの体は凍りついた。


「あたい知ってる。マギーでしょ? 子供を医者にみせろって騒いだらしいじゃない」

「正義感、てやつ? まあ、それでクビになるなんて、詮無いねぇ」


ケタケタ笑い、下女たちの話はなおも続く。

けれども彼女たちの声はもう、シティの耳には届いていなかった。


(私の……せい?)


頭が、ぐわんぐわんと揺れている。


(私が、お菓子をもらったり、心配かけたから……マギーがクビになっちゃった?)



***

試しては、いけないのだ。

衝動を、表に出しては、いけないのだ。


己を律し、我慢を重ねる。


ぐるり、ぐるり、己の中で渦を描く何かが、熱を持ち、熱く熱く、シティの中に溜まり続けた。


もし、ほんの少し、周りが彼女を自由にさせてやっていれば。

速度の向こうに、歌唱の響きに、生まれたアートに、豊かな味覚に、()()は発現しただろう。


だからこれは、防げた事故だったはずなのだ。



***

孤児院は、崩壊した。

青い嵐が、窓枠や外れた扉を空へ吹き上げる。

まるでそこに海の渦潮が現れたように、実体のない青い光が荒れ狂っていた。


魔力暴発。


少女の中に、抑圧された魔力が、遂に行き場を失ったのだ。


嵐の中央にうずくまる少女。

彼女は命を燃やし尽くし、果てる運命だった。

たまたま通りががかったのが、かの"最強ババア"でなければ。



***

「やってはいけない理由?」

最強ババアは意味が分からない、というように聞き返した。


「は。ないよそんなもの。人様に迷惑さえかけなければね」


噂に聞いた最強ババアは、最強の名の通り、片手で嵐を沈めてしまった。

乱れ一つない白髪に、黒のゴシックドレスの老婆は、静かにシティの話に耳を傾けた。


(噂と違って、怖くないわ)


最強ババアの腕に抱かれ、安心したシティは説明した。

どんなに迷惑にならないように工夫しても、どこかで迷惑がかかっている、と孤児院で教わったことを。


「はん。そりゃ、理由じゃないさね。"都合"だよ。大人たちの、どうでもいい都合だね」


「お前に必要なのは"やって良い理由"じゃない。お前の"やってみたい"を、"応援する気持ち"さ」

つまり、孤児院では自分は応援してもらえなかったのか。

俯いてしまうシティの様子に。


「周りがそうしてくれないのなら、自分で応援するしかない」

最強ババアは強く言い聞かせた。

そして、まだ元気のない幼子に、


「ま、すぐには難しいだろうさね……しばらくは、あたしが応援してやるよ」

柔らかく付け加えられたその言葉に、少女はぱっと顔を上げた。

その瞳は、まるで海のように、深い青に染まっていた。







お読みいただき、ありがとうございました。

『最強ババアのティータイム』の番外編である『最強ババアのオフタイム』は、次回から不定期更新になる予定です。

(いつも読みに来てくださっている皆様、ありがとうございます)

本当はあと二つ、

・5代目・最強ババアの園芸日記

・オフタイムのドレス

を公開予定でしたが、続編のネタバレになってしまうことに気がつきました。

続編『最強ババアのティータイム〜新たな弟子編』に専念しつつ、

また余裕ができた時に、番外編もお届けできたらと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ