クリスマス特別番外編(後編)
昨日、クリスマス特別番外編(前編)を公開しています。
未読の方は、そちらからどうぞ。
【祝祭当日】
どっさり紙袋を抱えたビビアンは、星の散らばる夜空を飛んでいた。
ふわりと降り立ったのは、山上の小屋の前。
「リオ。悪いわね、遅くなったわ」
魔塔の名誉教授たるビビアンは、付き合いも多い。
いくつかパーティーを梯子して、ようやく抜け出してこれたのだ。
返事がないのはいつものこと。
勝手知ったる小屋の戸を開き、中へ一歩踏み入れる。
暗い部屋、魔術の明かりを灯そうと――
その瞬間、彼の術師としての経験が、頭のなかで警鐘を鳴らした。
(魔力が……溢れてる)
それはまるで、ガスで充満した密室のように。
うかつに魔術を使えば、爆発しかねない。
そんな"異常"が張り詰めている。
そっと紙袋を床に下ろすと、ビビアンは慎重に、部屋の中央へと足を進めた。
薄暗い部屋の中、光源は僅か、床に置かれたいくつかのロウソクだけ。
するっと滑る感覚に足裏を確かめれば、それは"糸"だった。
「あそこに繋がっているわね……」
目を凝らせば床じゅうに、白い糸が広がっている。
全ての糸は部屋の中央にある、白い物体に繋がっていた。
まるで天井からぶら下がる繭のような、それ。
恐る恐る、触れてみると――
「あ、先生」
繭の中身は、リオランだった。
なぜか少女はテーブルの上にいて、繭に見えたのは天井から吊るした沢山の紐。
一体何をしていたのか。
どうせまた怪しい術でも開発していたんでしょう。
そんな突っ込みの言葉は、目の前の光景に引っ込んでしまう。
華奢な体を覆うのは、薄手の白い寝間着で。
魔術で温かい小屋の中とはいえ、それは冬にはあまりにも心許ない格好だ。
雪のように白い髪は、ロウソクの光で銀に煌めく。
銀糸が髪を、複雑に編み込んでいた。
「やっと来た」
ほんの僅かに頬を赤らめながら、リオランはテーブルから降り立った。
髪ばかりで気づかなかったが、よく見れば、リオランの全身に細い糸が巻きついている。
「編みに祝詞を輪に永続を、捻りとよりで増幅を……」
吃りの少女が、今日はいつになく流暢に。
歌うように近づいてくる。
「うごかないで」
言われずともビビアンは動けない。
全身の糸は天井と部屋中に、張り巡らされた糸と繋がっていて。
「白に清浄、黒に守護。銀と結びに願いを込めて――」
そのまま少女は、糸に覆われた両腕で、ビビアンの腰に抱きついた。
「先生。プレゼント」
見上げる教え子の微笑みに、ビビアンは全身の血が沸騰するのを感じた。
ぱしゅん……
気の抜けた音と共に、部屋全体が明るく光り――
気づけば糸は消えていた。
すっと離れていく温もり。
「うまくいった」
相変わらず頬を紅潮させ、指差す先はビビアンの腕。
いつの間にか、ビビアンの左腕には、複雑な編み込みの腕輪がはめられていた。
「はあぁぁ……」
「先生? ……気に入らなかった?」
盛大にため息をつくビビアンに、リオランは少し不安そうだ。
「気に入ったわよ! 最高よ! さ、服を着なさい。食事にするわよ」
去った温もりが惜しかった。
そんな己を無理やり切り替え、ビビアンは台所に向かうのだった。
【祝祭後日】
「あっはっは! お前、それは残念だったな」
爆笑する薬舗の店主の前で、ビビアンは不貞腐れていた。
「チェレン、なーにが『あの子は本気だ、どんなことがあっても受け止めてやれ』よ」
恨めしそうに見返す旧友に、チェレンはほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をしてみた。
「悪い悪い。でも、気に入ってるんだろ、ソレ」
指さしたのは、ビビアンの腕に煌めく銀の腕輪。
「笑顔がいつもの倍、気持ち悪いぞ」
なんだかんだ言いながら、ビビアンが腕輪を眺める様子は嬉しそうだ。
複雑な編み込みに、贈り主の魔力と想いが宿っている。
「全く……あたくしじゃなきゃ、勘違いしてたわよ」
薄着は糸への魔力伝達のため。
頬を赤らめていたのは新魔術への高揚から。
全部わかってる。
そう言いながら、腕輪を撫でる友人を見て。
「全く。お前以外なら、誰でも気づくはずなのに」
当事者同士は気づいていない、互いの中の甘い想いに。
「ま、外野がでしゃばることじゃねぇな」
もう少し、生暖かく見守ってやろうと。
チェレンは仕事に戻るのだった。
「最強ババアのティータイム」の番外編連載である「最強ババアのオフタイム」。
本編を補強するエピソードが続いた中で、今回は少し肩の力を抜いた、
本当に“おまけ”のようなお話でした。
(番外編の番外編、でしょうか)
もともと予定していたものではなく、不定期更新となりましたが、
いつも応援してくださる読者の皆様に、少しでも感謝の気持ちをお返しできたらと思い、書かせていただきました。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、予定通り土曜日更新です。
皆様、どうぞ良いクリスマスをお過ごしください。




